第2-2話 信頼度ゲーム2

 まず俺に与えられたのはどちらの札を上げるのかを考える3分という時間。


 ⚪︎か×のどちらを挙げるのかを決めるだけで3分も必要無いと思われるかもしれないが、このゲームの本質を見ればそれがいかに短い時間であるかは理解してもらえるだろう。


 俺が⚪︎を上げ、蔦原も⚪︎を上げれば2人ともポテトにありつけるの上に、蔦原からの信頼度も勝ち取れるのだから普通に考えれば⚪︎を上げるのが正しい判断だ。


 しかし、自分が⚪︎を上げて蔦原が×を上げれば俺はポテトにありつけない。


 逆に言うと、自分が×を上げて蔦原が⚪︎を上げれば俺はポテトを独り占めできる。


「ふふふ〜。悩んでる悩んでる」

「そりゃ悩むだろ。それとも信頼関係を築くためだって悩む間もなく安易に⚪︎を上げてほしいか?」

「あんまり安易に上げられると本当にお互いの信頼度が上がったとは言えないからね。思う存分悩んでくださいな」


 蔦原は余裕綽綽な様子なので、ここにくる前からすでにどちらの札を上げるのかを決めていたのだろう。

 蔦原には考える時間がたっぷり与えられており、俺に与えられた時間は3分だけというのはいささか不公平ではないだろうか。


「うーん……」

「流石に考える時間が3分だけっていうのは可哀想だから、ボーナスタイムってことでちょっと私お花摘みに行ってくるね。私が戻ってくるまでにどっち上げるか決めといてね〜」

「お花摘みって本当に言うやついるんだな」

「私、礼儀正しい女の子ですから」


 不公平だと思っていたタイミングで追加で時間を与えられたとはいえ、その時間は長くても5分程度だろう。


 急いでどちらの札を上げるか考えないとな……。


 信頼度を上げるためのゲームなんだしやはりここは⚪︎か?

 ただそれだと蔦原が×を上げれば自分はポテトにありつけない。


 なんとしてもポテトは食べたいところだが……。


 ってかこんなゲームしたところで信頼度なんか上げられるのか?


 蔦原との信頼度を上げるためのゲームなのだから、いくら俺がめちゃくちゃポテトを食べたかったとしても、そりゃ⚪︎を上げるという選択になるだろう。

 

 ……。


 よし、決めた。




「お待たせ〜。どっちの札上げるか決まった?」


 俺がどちらの札を上げるか決めてから1分程経過してから蔦原は席に戻ってきた。


 今は余裕かもしれないが、考えに考えた末に俺が選んで上げる札に恐れ慄けっ‼︎


「ああ。決まったよ」

「よし、それじゃあいっせーのーせでいくよ?」

「おけ」

「いっせーのーせっ‼︎」


 蔦原の掛け声に合わせて、俺は机の下から札を上げた。


「--へ? 何それ?」


 蔦原は目をパチパチしながら俺が上げた札に視線を送っている。


「見たら分かるだろ。白旗だ」


 俺は机の上に置かれていた紙ナプキンを折り曲げて、旗の上に被せるようにして⚪︎でも×でもない新たな札を作り上げたのだ。


「白旗? 降参ってこと?」

「そういうことだ」

「え、紅はポテトいらないの?」

「そもそもそんなにお腹減ってなかったし、蔦原が食べてくれ」

「あ、ありがと……」


 お腹が減っていないというのは嘘である。


 今日は蔦原に会うために普段より早起きをしたので朝食を食べる時間がなく、お腹が空いている。


 なので、どうしてもポテトが食べたかったが、蔦原は自分が食べたいポテトを買わず、信頼度を上げるためのゲームを考えてプレイしてくれた。


 そんな蔦原に、俺はポテトを食べてほしかったのだ。


 いや、まあわざわざ信頼度が下がる可能性もあるゲームをする必要は無かった気もするけど。


「どうした? 遠慮せず食べてくれて構わないぞ」

「……ふふっ。私たちの信頼度、5%くらいは上がったかな」

「え、じゃあもう半分には到達?」

「100%分の5%に決まってるでしょ」

「ですよね〜」

「でも1日で信頼度が5%も上がったって考えたらすごくない?」

「まあ確かに」

「信頼度100%を目指して、これからもよろしくねっ。紅」

「……こちらこそ」

 

 蔦原が見せた無邪気な笑顔に俺は自分の名前の通り、顔を紅に染めながらハンバーガーを食べ進め、それからタイムリミットである14時30分まで雑談を続けたのだった。

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