第1-3話 やり直さない?

 俺たちはゲームセンターがある施設と同じ施設内にあるファミレスに場所を移し、プリンとドリンクバーを注文した。


 蔦原さんが『ここに二人でいると目立つから場所変えよっか』と言ってきたのでファミレスへと場所を移したが、正直蔦原さんが可愛いすぎて先程より人目に付きやすいファミレスにいる今の方がよっぽど目立ってしまっている気がする。


 それにしても、まさか学校1の美少女である蔦原さんとファミレスにくることになるとはなぁ。


 昨日の自分に『明日蔦原さんと2人でファミレス行くんだぜ!』とテンション高めに話しても絶対に信じてもらえないだろう。


 まあそれ以上に蔦原さんが不登校になっているという事実の方が信じられないんだけど。


「それで、なんで蔦原さんは不登校に? 蔦原さんが不登校になるなんて考えられないんだけど」

「染谷君が不登校になってしばらくしてからね、私も嫌がらせを受けるようになって……。それで不登校になったの」

「なんで蔦原さんみたいな人気者が嫌がらせを⁉︎ まさか俺が不登校になったせいでターゲットがすり替わったのか⁉︎」

「ち、違う違う! ちゃんとした理由が他にあったの」


 蔦原さんのように完璧な性格の持ち主がいじめられる理由なんてどれだけ探しても見当たらないような気がするんだが……。


「理由?」

「『人気者だったから』だよ。自分で人気者って言うのもあれだけどさ、人気者のことをよく思わない人もいるんだよ。なんとなく分かるでしょ?」


 蔦原さんの話を聞いた俺は納得してしまった。


 人間関係があまり得意ではなくいつも教室の隅にいた俺は、俺とは正反対にいつもクラスの中心にいた蔦原さんのことは羨ましくもあり、同時に妬ましくもあった。


 恐らく蔦原さんいじめたのも賀川たちなのだろうが、俺と同じような感情を抱いていたのだろう。


 しかし、学校1の美少女をいじめる理由としては弱いような気がしなくもないのだが……。


「まぁ……分からなくはないな」

「いじめられる理由なんてさ、些細なことなんだよ」

「『そんなことはない』って言いたいが、蔦原さんまでいじめのターゲットにされたとなるとそう思わざるを得ないな」


 蔦原さんがいじめのターゲットになった理由については納得することができた。


 しかし、納得してしまうと今度は蔦原をいじめていた奴らに腹が立ってくる。


「どうしたの……? 眉間にシワなんか寄せて」

「蔦原さんをイジメてた奴らのこと考えたら腹たってきて」

「ふふっ。染谷君って優しいんだね」

「優しくねぇよ。短気なだけだ」

「染谷君はさ、また学校に行きたいとは思わないの?」


 不登校になってから学校のことはできるだけ考えないようにしていたし、今後どうしたいかなんて考えたこともない。


 しかし、蔦原さんに訊かれた俺は久しぶりに学校のことについて考えてみた。


 実際に自分がまた学校に通い始めた姿を想像しながら、自分は学校に行きたいのか行きたくないのかを。


 そして、導き出された答えは自分でも予想外のものとなった。


「……行きたい、と思う」

「そっか……。そうだよね。だって私もまた学校行きたいもん」

「あくまで『いじめられないのであれば』だけどな」


 蔦原に訊かれて考えたのは、自分がいじめられていた場合と、いじめられていなかった場合だ。


 以前のようにいじめられていたのだとしたら、絶対に学校には行きたくない。


 しかし、いじめられていなかった場合の学校生活を想像したら、俺の答えは『学校に行きたい』というものになった。


「そうだよね。いじめられてたら私も行きたくないって思う」

「学校に行きたいと思ってる生徒が2人とも不登校ってのも変な話だな」

「それなっ。……ねぇ、染谷君」

「なんだ?」

「私たち二人でさ、人生やり直さない?」

「……は?」


 人生をやり直す?


 蔦原さんが言い放った言葉の意味が分からなかった俺はどう返答していいのかもわからず、しばらくの間蔦原さんの言葉の意味を考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る