第21話「日々、盗み聞きする日もある」

今日も今日とて、私は放課後に恋人の穂村と体育祭に向けての練習をしている。そして、あの音を克服できずに体育祭前日を迎えてしまって私は絶賛肩を落としている。


「よいよ、明日だね~」


「…あぁ…」


「結局、音、我慢できないままだね~」


「…あぁ…」


「明日、耐えられるといいね~」


「…あぁ…」


穂村は何にか思いついた表情を浮かべて、ニヤニヤしながら、恐る恐る私に尋ねてきた。


「……………私の事、好き?」


「…あぁ…」


「愛してる?」


「……あぁ…」


「きゃ!!」


そういって、穂村は自分の両頬を手で挟みながら横にクネクネとダンスを踊り始める。

……恋人が意気消沈してる返事を私利私欲に利用するな。…確かに、好きだし、愛してはいるが…。


「で、どーする?日蔭~」


「……今日は、もう穂村と口きかない」


「え」


「………………うそ、」


「なんだ~よかった~」


のほほんとした笑みを浮かべている穂村。

…本当に無視するつもりだったけど、反応がなんとも言えない顔と、体育祭前日に2、3時間もしょうもないことで使いたくなかったからな、嘘と言うことにした。


「はぁ…ホント、どうしよ……」


「まぁまぁ~、驚く日蔭、すっごく可愛いから、いいじゃん?別に」


「私の醜態を可愛いで片付けるな」


「え~本当に可愛いのに~」


「うっせ」


可愛い可愛い言うな。…………………照れるだろうが。

私は、頬が熱を帯びたのを感じたので、穂村に見られないためにそっぽを向いた。結構私はちょろいのだ。


「………」


「どーしたの~?日蔭~?恥ずかしがってるの?」


凄く、煽ってくる。いつもなら、顔を赤くしながらでも一矢報いるために言い返すのだが…。私は今、それどころでは無かったのだ。


「ねぇ、あれ、氷条さんだよね、」


「あーそうだね」


私は、ね………いや、一人の女生徒に手を引っ張られ校舎裏に連れていかれる氷条さんを見つけた。


「…女生徒って、完全あれ、シスコン先輩じゃん」


「…心の中のモノローグで見て見ぬ振りした情報を口に出してくれて、どーもありがとう。」


「どーいたしまして?」


なんの悪気もなくただ純粋に穂村はそう言ってくる。


「………」


「いた!」


私は無性に穂村の顔をがイラっと来たのでおでこを軽くぺちと叩いた。案の定、悲鳴をあげていた。


「…追うか?」


「……そーいうとこ、いい感じに、私色に染まりつつある日蔭が凄く好き」


「うっせ………で、どーすんだ?」


「答える必要ある?」


私が聞いた質問に不敵な笑みを浮かべながら答えた穂村。まぁ、つまり後を追ったのである。




私たちは、ちょうど曲がり角のところに身を隠せそうなところを見つけたのでそこで盗み聞きすることにした。


「さっきのはどーいことだ?友奈君」


「どーいうこと?と言われてもそのままって答えるしかないですけど?」


切羽詰めた顔をしながら姉さんは氷条さんに質問をしているが、氷条さんは何故か高圧的な態度をとっていた。


「…じゃあ聞き方を変える、どうして、あの子に対して、あーいう態度を取ったんだ?……それも、勇気を出して、君に告白した子に対して」


「………」


バツ悪そうに氷条さんは俯いた。


「…はぁ…君はそういった人ではないだろう?……何があったんだ?」


氷条さんの様子を見た姉さんがため息をつき優しくそう尋ねた。


「…あはは…会長にはかないませんね…………実は、あの子、私のストーカーみたいなんですよね…」


「え、」


衝撃のカミングアウト!私も穂村も、姉さんも驚きを隠せない表情を浮かべる。


「っていうのは、冗談なんですけど」


「……真に受けた心を返してくれないか?」


……同意だ。


「まぁ、ほぼ、ストーカーみたいなものなんですけどね……最初は私も相手の子の気持ちを考えて、優しく断ってたんですけど……回数を重ねていくたびに、どんどんエスカレートしはずめて、気がつけば、飲んだペットボトルとか、くださいとか言い始めてきて…あげく、こないだなんか、定期的に抱かせてくださいとか言ってくるし…」


「…………回数を重ねて?……え?何それ?え?……て、…それ、ストーカーよりたち悪くないか?」


全く同意だ。


「そうなんですよ!!実被害ないのが本当に厄介で、…でも、本人にはルールがあるらしくて、2つ」


「2つ?」


「はい、どうやら、彼女、自分の行動や、思考は他人にとって迷惑になる、特に恋愛に関しては…って言うことを自分で理解しているらしくて…だからルールを作ったらしくて」


「あぁ、そうなのか」


「その、1つ目が、自分の恋人になるまでは言い寄るだけで、身体的接触を禁ずる。2つ目が、もし、相手に恋人ができた場合、自分は潔く身を引くこと…ていうやつなんですよ」


なんだそれ、なんか、一周回って怖くないか?…てか、本当に潔く引くのかよ、その子。


「…あ、あぁ…なんか、それ一周回って怖くないのか?というか、本当に身を引いてくれるのかい?その子は」


「はい!前例はあります!!!」


「あ、あぁ、そ、そうか」


何故か、前のめりな氷条さんに若干ひいている姉さん。


「ま、まぁ、被害もないことだし、前例もあるんだろ?…その子には申し訳はないだろうが、良い人が現れるまで、耐えるしかないのじゃないのか?」


「良い……人………会長…とか?」


「どうして、私なんだ?」


少し、キョトンとした表情を浮かべる姉さん。


「え!?あ、!?いや、なんとなく?なんか頼りになりそうだな~と思ったので」


…チキったな氷条さん。


「え、あぁ、そうか、…それは、うれしいな」


姉さんは私がいつも照れ隠しでするようにそっぽを向く。

あれ?姉さん耳すこし赤いんだけど…姉さん、まんざらでもなさそうな表情なんですけど。

と、そこに姉さんを呼ぶ、声がした。


「すまない、どうやら私の事を探しているみたいだ、……その、なんだ、危なくないのかもしれないが、危なくなる前にはまた相談してくれ、友奈くんには悲しい顔をしてほしくはないからな、え、と、あー、じゃあ、それじゃ!」


そういって、姉さんは去って行った。


「…はぁ…失敗か………てか、…出てきなよ、そこの2人」


え、マジか、バレてるのか。


「あははは、バレてたか~」


「あははじゃあない盗み聞きとはいい根性してるね」


「あ、いや、ごめんなさい、氷条さん」


申し訳なさそうに謝る私とは真逆にいまだにニヘラとして「ごめん~友奈~」と言っている穂村にげんこつが氷条さんから食らわされたのは言うまでもないだろう。


「いててて…というか、友奈、あれ、嘘でしょ」


「え、嘘?」


そういって、氷条さんを見てみると、バツ悪そうにしている。


「そーだよ、全部嘘、と言うか演技?かな、相手の子はいつも私の相談にのってくれてる友達、」


「え、どうしてそんな嘘を?」


私が、そういうと氷条さんは頭をかきながら言った。


「会長と恋仲になれそうなイベントは今回の体育祭で最後だからね…」


「え」


私は、素っ頓狂な声を出した。


「え?どうしたのさ、日蔭がそんな声出してるの?お姉さんだよ?分かるでしょ?受験生でしょ?」


と、分からないの?って顔をしながら首をかしげて私を見てきた。穂村も同様。


「え、まぁ、言わんとしてることはわかるんだが……どーして、受験なのさ、姉さん、今高2だぞ」


「「え」」


穂村と氷条さんは素っ頓狂な声を出した。


「だって、私の誕生日は4月1日で姉さんの誕生日は4月2日」


「それは、知ってるよ?だから、日蔭、今は17歳でしょ?」


「え、違うよ、私は今、16歳だぞ」


「え、マジ?」


「マジ」


ポカンとしている私の恋人。可愛い。


「え、じゃあどーいうことなのか?」


そういった、氷条さんも小難しい顔をしている。


「あ、あぁ…すまん、言い方が悪かった、姉さんは2007年4月2日の17歳の高2で私は2008年4月1日の16歳の早生まれの高2ってことだよ」


「え、じゃあ、日蔭ちゃんは、私たちの実質1つ下の子」


「まぁ、そうなるな」




この日、穂村がフリーズしたせいでお開きとなったのであった。














あとがき

誠に勝手ながら明日から更新がストップします。

ストックが出来次第、随時アップしていくのでそれまでしばらくお待ち頂けたら幸いです。

エープリルフールとかじゃあ無くて、本当にガチです。すみません_|\○_。

では、また。

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日々とあう カナタハジメ @kanatahazime

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