第20話「日々、練習する日もある」

今日も今日とて、私は恋人と放課後を共にしている。学校のグラウンドで。今日は体育祭の午後の練習が終わると自主練習の時間としてグランドを使ってよいこととなってる。だから、私たちは練習をしている。少し違った練習…いや、訓練?拷問?みたいなものだ。


「よーい~」


穂村が片手で耳を押さえ、スターターピストルを空に向けた。


パン!


「きゃあ!!!!」


私は、大きな音に驚き悲鳴をあげた。そして、言わずもがなだが、盛大にころぶ。


「はぁ~いつ見ても、可愛いなぁ~」


打ち終わった火薬の処理を済ませた穂村は、ころんでいる私の前でしゃがみこみ、ふにゃっとした顔でこちらを見つめてくる。


「うっせ」


私はそう言って、四つん這いまでに体を起こした私は穂村の肩を押して立ち上がった。そして、穂村はそれのせいでバランスを崩しコテンとしりもちをつく。


「ぶーー、八つ当たり反対~」


そういって、頬を膨らませている。


「なんだよ」


「日蔭、現実をみなよ、リレーどうすんさ」


「…穂村が、勝手に入れたんだろうが!」


私は、腕を組んでそっぽ向いた。


「…だって、日蔭の走ってる時の顔、すごくかっこいいからさ……みたいなぁ…見せつけたいなぁ…みたいな?」


「…………なんだよ」


少し頬を赤くする私。つまり、チョロい私。


「まぁ!7割ほど、いけずだったけどね!はは!!」


豪快に笑う穂村。殴ってやりうか。


「そ、その……優しくしてね」


水尻に涙を貯め体を守るように自分の腕で自分を抱きしめているが、どこか、来ていいよ的な雰囲気をかもしだす穂村。なんか、えっちだ。


「誘ってんの?」


「え、ちょ、ぼ、暴走はやめてね!?」


自分が有利と思っていた余裕めいた空気感を一瞬で消し、穂村は焦った表情をうかべながら慌てて私から距離をとる。


「……………こないだの一件から気を付けてるんだ、そう簡単には暴走しねぇーよ」


「…なんか、それはそれで複雑なんだけど~」


穂村は少し不満の表情をのぞかせながらいつもの距離まで戻ってくる。


「まぁ、練習してるからな」


「どんな?」


「……………………内緒」


私は、やましい事なので頬を赤らめてそっぽを向く。そして、心を読まれないために無心になる。


「それは、ずるいじゃんか」


「ほなら、やっぱな、読むと思ったよ」


「むー、面白くなーい、私の専売特許を無意味にしないで欲しい……まぁいいや」


穂村はムスッとした顔を治すことなく、スターターピストルに玉を詰めに戻った。


「驚いたら負けね」


「え?」


パン!


「きゃ!!」


刹那で一瞬の時間で撃たれたその音は私の心の準備など待ってはくれなかった。つまり、悲鳴をあげたのだ。

以下、冒頭と同じ。そして、私は負けた。





なんや、かんやあって、帰り道。


「それで~?負けた、日蔭さんよ~吐くもん、吐いちゃいなよ~」


姉さんと負けず劣らずの腹が立つ顔をする恋人の穂村。


「…い、言わないとダメか?」


「うん。」


点数のつけようのない笑顔が目の前にある。

もう、諦めて言うしかないか。


「夜、寝る前…穂村の写真とか動画とか…その日の、会話とか思い出して、その…………………我慢できるようにトレーニングしてるの…」


「あ、うん。」


「ちょっと、引いてるんじゃあねーよ。」


「いや、なんか。ごめんね?」


恋人の変態的行動に、引く恋人。凄く悲しい。穂村もこっち側なのに。


「うぅ…泣きそう…」


「あぁ!!違う!違う!!そーじゃなくて…その…恋人は似るっていうじゃん?それに、日蔭のこと私色に染めるつもりだし…でも、そーいうとこ、私に似てるからさ、…そーいうとこもうつしちゃうのか~って…」


「あーうん。そーじゃあないと言いきれないな。…ありがとう、なんか、少し楽になった」


「それはそれで複雑なんだけど…下に見れてそうで」


「それは、ないよ。私と、落ちてるとこまで落ちてる変態だから」


あははと、私たちは苦笑いした。

なんて言うカップルなんだ、私たちは。まぁ、これも私たちの形なのか。…変態って言う…。


「に、してもそーか~日蔭、そんな練習してるのか~」


「なんだよ」


「いや、私、我慢できちゃうくらいしか魅力ないのか~って思ってさ」


どこか、イタズラめいた笑顔を言ってきた。


「…出来てる…訳ないじゃん…」


「あ、そう///」


いつものように砂糖を吐きそうな空間。


「ちなみに、私は、毎晩、我慢なんかしてないよ?」


「……うっせ」


やめとけ、それ以上は私は暴走しかけねーからな。








その日の夜。寝る準備を整えて私は布団の中に入り込んでいた。


「…帰り道危なかった…さぁ、今日も、頑張るか」


そう呟いた、私は、スマホの写真フォルダーを開け穂村と書かれたアイコンをタップした。

じっくり、写真を見る。その写真は、楽しそうに笑う穂村。ムスッとすねている穂村。少し頬を赤くしてる穂村。熱唱してる穂村。踊ってる穂村。お化けを怖がってる穂村。寝ぼけてる穂村。服がはだけてる穂村。バスタオル姿の穂村。少し、涙目で少し顔が火照って上目遣いの穂村。エッチな顔をしている穂村。


あ。あぁ………無理だ。


私は頭まで布団をかぶって丸まった。


「穂村ぁ…」


か細い声、すがるような声で穂村の名前を呼んだ。


この後、私が何をしたのかは想像に任せるとして、私は、スッキリした気持ちでその日も眠りについたのであった。

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