第19話「日々、知らない話が出てくることもある」

今日も今日とて、私は恋人の穂村に絡まれている。


「ねぇ、ねぇ~日蔭~何に出る~私はね~日蔭が出るやつにでたいなぁ~」


「あ、あぁ…もうそんな時期か…」


時期は、6月半ば。我が、高校の体育祭が近づいてきた。そして、この高校の具体的な種目決めや練習などは開催日の約2週間前から決めることとなっている。が、だ。


「そんな、顔して、どーしたの?」


どうやら、私は心配させてしまう様な顔をしているらしい。


「…………体育祭…いい思い出ないからさ…」


「…あ、そーいえば、去年、すごい勢いでころんでたね」


「…………思い出してもいわんでよろしい………」


去年の体育祭…つまり、高校1年の体育祭で私は、大恥をかいたのだ。

どんなのって?教えるわけねぇーだろ。


「じゃあ、僭越ながら私が…ゴホン」


穂村は、咳ばらいを一回して話始める。


「えっと、高校に入ってかつ、私と恋人になっての初イベント…少し、カッコつけようと考えた日蔭はリレーに出ることにした。そして、そのリレーで盛大にころぶこととなったのであった。では、何が恥だというかと言うと。それは、速い人とのデッドヒートの末でころんだとか、ゴール手前、その寸前で足に違和感がおこり……とか、そーいった、かっこいいエピソードがあってころんだのでないということ。日蔭は、リレーの第一走者だった。その時、スターターピストルの音が本人曰く思いのほか大きかったらしく、日蔭はその音にびっくりして、こけたのであった。つまり、可愛かったのだ……」


「あぁ!!!!もう!!!!いうなよ!!!!!」


私は恥ずかしさのあまり穂村に殴り掛かる。だが、穂村はそんな様子の私も可愛く思っているらしく笑い声をあげながら逃げる。まるで、小さな子供を相手にしているように。


「それに、この地域は周辺に高校が少ないせいか、ほとんど同じ中学あがりの人多いもんね~それは凄く恥ずかしいよ~クラスメイト達の間で日蔭伝説に入る内容だったし~……って、あ。」


「え、なにそれ」


追いかけるのをやめ、私は穂村に尋ねた。しかし、穂村はしまったと言う顔をして両手で口を塞いでいた。


「…何なのかな~それは?穂村ぁ…話によってはペナルティを与えないといけないよ?」


「あははは…日蔭のペナルティ…楽しみだなぁ……」


穂村はから笑いしながら言う。…いつもなら、変態笑いするのに。


「ごまかすなよ…私たちは、恋人以前に幼馴染でもあるんだよ…何年一緒に居ると思ってんの?」


「そ、そうですよねー」


はぁ……吐く気なさそうだな…でも、恋人のなさけとして、もう一度だけ聞くか…もしそれで…答えが返ってこなかったら…………あの手しかないな。


「…穂村、教えてくれるか?日蔭伝説ってなんだ?」


「……な、なんのことでしょうか~」


穂村の目は凄く泳いでいた。もちろん吐くつもりはないらしい。よって結構決定だ。


「わかった………なら、今日、私は、姉さんとお風呂に入る」


「な!?!?!?!?!?」


穂村は、目をカッと開けて私をまっすぐ見つめた。


「それはいけないよ!!!日蔭!!!うらやっ…危険だ!!!!!」


羨ましいと言おうとしたであろう穂村を無視して私は、斜め下を見つめるように俯き、鼻で笑う。


「…………たとえ、危険だったとしても……恋人が隠し事をするのだったら…私は、姉さんにだってこの体を売るよ…」


「日蔭!!早まらないで!!!!」


「あはは……穂村、今までありがとうね…」


私は息をのんで1拍あけて言う。


「…穢されたわたしでも、ちゃんと愛してね…」


私は、枯れた笑みを浮かべた。


「日蔭ー!!!!」


穂村は、涙を散らして私に手を伸ばしたのだった。



「って、ことになるから、さっさと吐け、穂村」


「あ、はい」


少し、茶番をしてシュンとなった穂村であった。だが、穂村は切り替えが早い。気がつけばどこからか引き出してきた眼鏡をかけて咳ばらいをした。


「では、説明します。日蔭伝説と言うのはその名のとおり、日蔭の伝説をまとめた伝記のことである」


「なんだよ、その口調……てか、眼鏡もだよ」


どこぞのヒーローの解説をするような口調で穂村は語っている。


「まぁ、いいじゃん!気分気分!……では、続きから。この伝説の始まりは穂村がこの高校に受かったことから始まった。容姿端麗、人当たりの良い人でしかなかった、日蔭はこの高校に進学できた。これが、序章 日蔭、謎の合格を果たすノ巻 である」


いや、失礼すぎんか?おい。てか、その前に、結構偏差値高めの高校なのに同じ中学の人が多いのがまずおかしいんじゃねぇーのかよ。いや、うちの中学のレベルがおかしかったのか?……わからん。


「そして、あの体育祭の日は 第十章 日蔭、体育祭でめっちゃ可愛かったノ巻 である」


「おい、何だよそれ」


「みんなで、考えたんだよ?」


こてんと首を横にかしげる穂村。可愛い。…じゃない。


「いや、なんでだよ………てか、十章って、私たった、三カ月でどんだけ伝説作ってんだよ。私は」


「みんな、日蔭のこと大好きだから!…………一番は私だけどね!!!」


「お、おう、そうか、ありがとな///」


「えへへ////」


甘い空気が私たちを包む。だが、私は冷静になる。


「…いや、ちゃうわい、何いっとんねん」


「ど、どーしたの?日蔭、急に関西訛りになって」


「いや、ごまかすんじゃねーよ、なに、恥ずかしいもん作ってんだよ」


「てへ」


穂村はコツンと頭に握り拳をあてて舌を出した。

いや、可愛いよ。可愛んだよ!……だけど、それとこれとはまた別の話なんだよ!!


「………正直な話…あの日以降…私を含めたみんなが日蔭の味方でありたいと思ったんだ……それで、生まれた副産物?的な?」


「……おい、突っ込みにくいとこから引き出して理由にすんじゃねぇ……でも、ありがとう、私はそれのおかげで今はこうして笑うことが出来てる」


「うん!」


穂村の100万点の笑顔。それは、私の光であり。大切なもの。そして、私を救ってくれているもの。また、守りたいもの。


「じゃあ、リレーに入れとくね!日蔭!!」


「…………やばい、嫌いになりそう」


その後は言わずもがな。穂村を慰めるのに2、3時間という時間を消費したのはいつもの事である。

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