第15話「日々、相合傘をする日だって来る」

今日も、今日とて恋人の穂村が隣にいる。


「うわーすごい、雨降ってるね~」


時は進み六月上旬。本格的な梅雨入りのようです。


「にしても……あったま痛い………消え去れ…低気圧……」


「本当、日蔭雨苦手だよね~」


このような会話をしてはや30分。雨宿りができる学校の玄関についてからこの会話がずっと続いていた。さすがにしびれを切らし穂村に尋ねる事にしてみた。


「…穂村、帰らないの?」


「…日蔭こそ…帰らないの?」


「…」


「…」


お互いはお互いを見つめ合った。


「……今日は、日蔭と相合傘できるんじゃんって思って、傘家に置いてきちゃった…てへ」


「………」


てへと、可愛く舌を出す恋人と、無言になる私。

おい、マジかよ。てへってしたってな…たとえ、それが可愛くたってな!許さないよ?他力本願なのは!…………………はい、すみません。私も穂村と相合傘したくて傘を置いてきた、他力本願野郎です。


「なるほどねー、日蔭も置いてきたのかー、考えてる事同じとか、もう、運命じゃん。」


「……何がって、言わないけど、もーなれたよ、それ」


「どーも~迷惑かけてまーす」


お茶らけている声を出した穂村。


「…別に、迷惑とは思ってねぇーよ……ただ、恥ずいだけだ」


「そ」


素っ気ない返事だったが、穂村はどこか嬉しそうな表情をしている。

甘い、甘い、甘い、甘い!!!!空気が甘すぎる!!!てか、ここ最近甘すぎないか?少し、罰が当たりそうで、最近そわそわしちまうんだが!?


「ほんとー、それね~、なんか、最近、普通にイチャイチャしてる気がする~、まぁ、いつも道理なんだけどね…最近、もっと距離が近づいたからかね~私、めちゃっちゃ幸せ~」


「わからんが、そうだといいな…そうだったら、私も幸せだな…」


「………………そんな、セリフ簡単にはいちゃってさ………日蔭…今日は、絶対その…私、流されないからね!!」


「何なんだよ」


「さー、知らないー………あ!!」


ぷくりと頬を膨らませそっぽを向いた穂村は何かを思い出したらしく大声を出した。


「な、何なんだよ!?」


「あ、いや、思い出したよ日蔭!私、ロッカーに折り畳みのやつ入ってる!すぐとってくるから、日蔭ちょっとまってて~」


そう言い終わる前には穂村は走り出していた。はぁ、にしても頭痛いな~、雨、無くならないかな~、まぁ、無くなったら無くなったで困るから、あっては欲しいけど…

と、私が頭痛に悪戦苦闘…いや、文句を垂れていたら背後から足音が聞こえてきた。振り返るとそこには氷条さんがいた。軽く手を挙げて挨拶をする。


「ひぃ!!!!!!…ひ、日蔭ちゃん…お、おひさ~」


こいつ、私の顔見て悲鳴あげやがった……襲ってきたと思ったら今度は畏怖のまなざしとか、なんなのこいつ…。穂村と重ねたことが本当に申し訳なく感じる。…まぁ、似てはいるんだけど。


「…私、氷条さんにそんなおびえられること…………あぁ…こないだ、私もしかして、何かした?すまんが、私、その日の記憶が結構飛んでるんだ…」


「あ、あ、あ~そ、そういえばそうだったねぇ~ごめんね、あんな声だしちゃって…その、日蔭ちゃんはここで何してるの?」


「あーうんうん。別にかまわないよ、多分私が悪いんだろうし…今は穂村を待ってるんだ、傘がロッカーに入れっぱだったから~って」


「あ、そうなんだね…じゃあ、私行くね」


「あ、あぁ…じゃあな」


テクテクと若干早歩きで去って行く。だが、私は一つだけ疑問を解消したかったのだろう、遠くなる背中に問いかけてみた。


「あ、氷条さん!、そういえば、始めては会長とって何?姉さんと何かするのー?」


それを、言ったとたん氷条さんは勢いよく倒れた。それはそれは盛大に。私は心配して近くまで近寄った。


「だ、大丈夫?」


「…覚えてるじゃんか…覚えてるじゃんか!!!」


そういって、赤面した氷条さんがこちらを見つめてくる。


「あ、あ、いや、なんか、おぼろげには覚えていて…その氷条さんが、その…なんか、こんなこと言ってたっけと思って聞いてみたんだが…」


「……つ、…穂村ちゃんには言わないで……そして、忘れて」


氷条さんの周りにすこし冷たい冷気が出始めた。


「あ、ああうん。わ、わかったから、おちつけ~、なんか、怖いもん出てきてるぞ…」


氷条さんはスっと立つ。


「…………………じゃあ、ね」


「あ、うん。またね」


私は冷や汗をかいていた。

なに、あれ、氷条さんってあんな怖かったけ。


「たっだいま~日蔭!」


そういって穂村が背後から抱きついてきた。


「どったの?日蔭、そんな、お顔して」


そういって、私の肩に顎を乗せ首をかしげる穂村。頭をなでてやると嬉しそうに頭を擦り付けてくる。可愛いなおい。


「いや、氷条さんと話してただけだよ」


「うん、知ってるよ、聞いてたし」


「え、聞いてたの?」


「うん。…にしても友奈のやつが、シスコン先輩をねぇ~」


あれ?聞かれてたんだ…え、ちょっとまって、私、殺されないよな?あんな、雰囲気見るの初めてだったから、正直、ビビりまくってるんだが………教えてないから私セーフだよね?穂村が、盗み聞きしてただけだし…。うん。今考えるのはやーめた。さ、穂村と相合傘しよーと。


「まぁ、じゃあ、帰りますか」


「うん。そうだね~、はい、どーぞ」


そういって手招きしてくる穂村に少し顔を赤くする。


「お、お邪魔…します…」


「いらっしゃい~、てか、日蔭、顔あっか~別に、今日が初めてじゃ、ないじゃん」


「うっせ」


けらけらと穂村が笑う。でも、穂村の顔をよく見てみると、穂村もどこか少し、赤い。


「…じゃあ、帰るか…」


「うん!」


そう言って、二人は歩き出す。肩を、いやほとんど体が密着した状態で。


「あのさ、穂村、気になってたんだけど、姉さんのことシスコン先輩って呼んでるの?」


「うん。呼んでるよ~、だって、シスコンじゃんか」


「まぁ、シスコンだけど…いつから、呼んでるの?そうやって」


「うーんっとねー……あれ?いつからだったけ?忘れちゃった」


「なんだよ、それ」


そして、私たちは吹き出すように笑い出した。雨の事なんて忘れて。だから、私は穂村と相合傘がしたかった。雨は嫌いだが、私はこの距離で出来るたわいのない会話が好きで、時間が好きだから。

頭は、痛くなるが、次はいつまた、雨が降るだろうかっと待つ私もいたりする。

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