第16話「日々、姉と語らう時もある」

今日も、今日とて休日がやって来た。今日は恋人の穂村はいない。いや、正確に言うと今日も穂村はいない。基本、私の恋人はあるときは女子高校生、またあるときは会社の社長。ていうのが基本ステータスなので、休日によく仕事をしているのである。平日は学問、休日は仕事と両立させてる。

すごい…いや、頑張っているんだ。こないだの休日デートは、私たちが恋人になってから初めての休日休みを獲得できたからすることが出来たのだ。…休日なのに、休日休みって…………まぁ、要するにあれは、奇跡だったのだ。だから、普段の私の休日は家でゴロゴロが基本ステータスだったりする。私の定位置はリビングのテレビ前に置かれたソファーである。そこで、よく一人でゴロゴロしてスマホをいじる。そして、サブスクでアニメや映画なのどをほどほどにたしなむ。まぁ、これがだいたいしている休日の過ごし方である。あと、姉はいつも外出している。

でも、今日はいつもの休日とは違い、基本外出している姉が珍しく家に居る。それも、私の足を自分の膝に乗せソファーに座っている。


「……姉さん、さすがにシスコンが際立ってないか?」


「何か、問題があるのか?」


「…別に、ないけど…その、重くないの?」


「いや、全然重くない!、軽いくらいだ、何だったら妹ちゃんを抱えて私も寝転びたい!!」


フンスと鼻を鳴らし私を見つめてくる姉。

………。私は、あんたのその愛がおもてぇーよ。シスコン姉。………よしておこう。まだ、呼び名は、姉さんにしておこう。勘だが、私まで、呼び名をシスコンにすると何かやばいことが起きそうで怖い。ソースは私。私は何故か暴走するときがある。だから、姉妹である姉さんも、暴走体質は持っていると仮定しておいた方がよいと思っている。だから、怖い。


「それにしても、姉さん、今日はどうして家に居るの?」


「あー、そうだな、特に今日は外に出る予定がなかったからこうして、妹ちゃんにくっついている」


「あ、そう……と、言うか姉さんはいつも休日はどこに出かけてるんだ?」


「そーだな……学友に遊びに誘われるのが2割、友奈くんに呼び出されてるのが7割、残りの1割はボランティアとか地域貢献系かな?」


「ふーん」


え、ちょい待ち。友奈……え、氷条さん?、えなんで?しかも7割って…ホントに


「え、なんで?」


「え、なんでって言われても、それは私は生徒会長だし…地域貢献は私がうたう活動内容出しな」


「いやいや、違う違う。なんで氷条さん!?」


私は体を起こし姉の目をみて真剣に問いかけてみた。私の中の驚きのボルテージが振り切ったからだ。


「あ、あぁ…まぁ、彼女は生徒会の書記だし、…それに、私にすごくなついてくれてて、なんか、面倒が見たくなるというか、その、母性ならぬ、姉性みたいな?そんな感じで、呼ばれては会いに行ってるかな」


「ふーん、あっそ」


何故か、モヤモヤする。…いや、正直に言おう、嫉妬したのだろう。これは穂村に抱く恋愛感情としての嫉妬心とはまた別の…………………あぁ、これが、妹の性ってやつなのかもしれない。


「フーンって、なに?、妹ちゃん何か怒っ……て…あぁ、もしか嫉妬してる~?」


凄く声がうざかった。あげくニヤついた頬をちらつかせてくる。それに加え体を左右に揺らしながら、図星をつかれて顔を伏せている私の顔を覗きんでこようとしているのがまた厄介だ。


「うっせ」


私は頬を少し桃色に染めてうつむくことしかできなかった。


「可愛いやつめ~うりうり」


姉さんは私の頭を両手で撫でまわす。だが、今は、気分ではない。


「やめて」


私は、冷たく鋭い視線を送る。


「…妹ちゃんは猫かな?」


そういって、姉は手を離していった。これもまた、妹の性ってやつなのだ。


「…猫なわけねぇーだろ、人間だ。…てか、姉さんは氷条さんと付き合ってるのか?」


「え、なんで?」


物凄く、素っ頓狂な顔をする。え、まじ?ってなるほどの鈍感をかましている顔だ。


「え、なに、姉さん、それ本当に、言ってるの?」


「あぁ、なぜそうなるのか、皆目見当もつかないでいるが?」


「あー、ね。うん。わかった」


「ん?それならいいが」


そう言って、姉さんは今来たであろうメールを確認するため自分のスマホへ視線を送った。

まあ、つまり、あの雨の日の氷条さんの反応はそーいう事で、あとファイト!って、ことだ。




それから、しばらくいつのもような時間が過ぎた。

私はふと姉さんの顔を見てみた。そしたら、姉さんは何か決意をした顔になっていた。


「…………妹ちゃん、そのすまなかった……」


突然の姉の謝罪に私は理解出来なかった。何か、言い返そうと考えたが、どうやらまだ姉は何か言いたげだったので、口をつむることにした。


「……その、こないだ、妹ちゃんが風邪で休んだ時、妹ちゃんのクラスに行ったんだ…」


「うん。」


私は何となく察しが着いた。自分の姉が私に対して何を謝ろうとしているのか。でも、姉の顔を見た時、いつもとは少し違っていた。だから、私は優しく相槌だけ、うってまた口をつむる。


「あの子達……それに、つーちゃんが、君をここまで、元気にさせたんだって気づいた。それがとても嬉しく感じた。……でもね、もう1つ気づいたんだ…いや、見て見ぬふりしてたことに、向き合えたんだ……自分勝手に、自責して…あの時の記憶を呼び覚ましてしまう原因のいとつになってることに」


「…………」


私は何も返せなかった。姉が、いつものように、あの件は私が悪いと言い出したら止めるつもりでいた。でも、自責の事で私に思い出させてしまう機会を作っていると言われたらそれは、真実である。だから、否定出来なかった。……いや、否定しちゃいけないと思った。もし、それまで否定してしてしまったら、本当に、姉が自責の檻から出れなくなってしまうと思ったから。

そんな、アイツのことを思い出して、あの件の姉への考え事をしている自分の顔はすごく暗いだろう。だけど、姉の顔は違った。どこか、明るかったのだ。


「……だからさ、私、……自分を許せるように……頑張ってみたいんだ……」


「姉さん……」


「……いいだろうか…」


「うん。」


そんなの、良いに決まってるじゃないか…。

私は目尻に涙を少し浮かばせた。すごく、それが嬉しかったから。


「…だから、その…妹ちゃんも、まだまだつらいだろうけど、私に、どうか、力を貸してくれないだろうか……」


「うん。」


「ありがとう」


そう、言って姉は私を優しく抱きしめた。私もまた、優しく抱きしめ返した。すごく、心地が良かったから。でも、少し不安を覚えてしまった。私で本当に良いのだろうか。と。

もちろん、家族だから、手を貸すのも助けるのも私は突然だと思う。でも、何故か私は思うんだ。本当の意味で、救いをもたらせるとするのならば、それは私じゃないと思ってしまうんだ。…家族だけじゃ、決定打にはならないと思ってしまうんだ。

だから、極端に言えばだが、私で言うと、穂村のような存在が必要なのではないのだろかと思ってしまう。私は、クラスメイトたちのおかげでもあるが、ここまで取り戻せたのは紛れもなく、穂村のおかげなのだ。……それに、……もしも、仮にあの時、私に手を差し伸べたのが姉さんだったら…………ここまで自分を取り戻せてはいなかったと思ってしまっている自分がいる。…………こう思ってしまう私は間違いなのだろうか。いや、別に間違いだとは思わない。正しかったとも思わないが。

……あの時、姉さんも潰れていた。だから、この考えは私の結果論に過ぎないとは思う。だから、私は今出来ること、全力で頑張ろう。それが、姉さん…それに、私自身を救えることに繋がると信じて。


……にしても、今でも、大概ではあるが、あの時よりは、姉さんはましになっている。……時間がそうさせたのか……もしくは、穂村が私に手を差し伸べたように、姉さんにも手を差し伸べた誰がいるのだろうか……。…………………あぁ、ひょう……………いや、もし、思っている通りなのならば、それは、姉さん達の物語だ。



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