第10話「日々、恋人の従姉妹に会うこともある」

今日も今日とて、空だけは美しいかった。そう、空だけは。私は、病み上がりの翌日、恋人が待つ待ち合わせ場所に行くと、目を赤く光らす姉といつものおっとり気味の口調では無くなっている恋人が言い合い睨み合っているところに遭遇した。結論、私が思い描いた未来にはならなかったことを知った。

なんなんだよ、こいつらは……はぁ……


「なに、してるんだ?穂村も、姉さんも」


私は呆れた声を出しながら2人を呼ぶ。


「日蔭~」「妹ちゃん~」


と、顔色も息もぴったり合わせて私の腕に2人が飛びつきしがみつく。左は穂村で右が姉さん。


「ちょ、シスコン先輩~まね、しなでいただけます?」


「そっちこそ、妹ちゃんは病み上がりなんだ、そんなに強くいぱらないでくれるかな?てか、離れてくれるかな?かな?」


そっちこそだぞ、姉さん。と、あーだこーだ。うるさい。本当にうるさい。…私病み上がりだぞ。


「もう、本当に二人ともうるさい!!!!!、もう!私は今日一人で学校行くからついてこないで!」


そういって、早歩きで去ると、後ろから喧嘩する声がしてくる。

あの二人は、ホント、口を開けば喧嘩だな、昔から。私、忘れてたよ。本当に。穂村を信じた私が惨めで泣けてくる。


ともあれ、二人の声が聞こえなくなって私は足を止めて、大きめの深呼吸をし、息を整える。


「はぁ…せっかく、元気になって穂村とあえると少しはしゃいでたのに…姉さんばっかりとじゃれあって……」


ふと、自分の気持ちが口から吐露してしまう。でも、まぁ、周りには人はいなかったし、いいっか、と一歩踏みだした。


「穂村ちゃんは、罪な女だねぇ~」


そんな、言葉が聞こえて、私は躓いた。さっきの言葉を聞かれたと思うとそりゃ、躓くさ。私は、ころびかけたが頑張って右足を前に出し踏ん張って、制服に泥を付けるのはどうにか阻止できた。そして、私は声の主の方へと顔を向けた。


「やぁ、はじめまして?かな」


そういって、声の主はニッと笑みを浮かべた。


「…………」


多分、今、私は、すごく歪な、複雑な顔をしていると思う。なぜならば、その声の主は例の写真の、穂村にハグをしていた張本人だったのだから。


「あ、あ…その、えっと、その顔、ちょっと、傷つくかな?」


そういって、そいつは頬をかきながら、はははと笑ふ。苦い顔しながら。


「…どちら様?」


「あ、自己紹介してなかったね。私は氷条 友奈ひょうじょう ゆうな、よろしく、日蔭ちゃん」


「よ、よろしく」


私は、元気いっぱいに差し出された手を握り握手した。


「………多分、あの写真のせいで日蔭ちゃんにそんな顔をさせてしまってるんだろうけど安心して、私、穂村が全くタイプじゃないから」


そういって、笑う。私はホッとはしたが、恋人がそんな風に言われて少しだけイラっとしてしまう。これも、また、惚れた負けなのだろうか…。

に、してもだ。この女、今思えば、どこか穂村の面影があるような気がした。


「まぁ、それに、私、穂村ちゃんの従姉妹だし」


「……あ!」


私は、ここで思い出した。穂村財閥の傘下にそーいえば氷条グループっていう確か、有名なゲーム会社が、あった事を。


「どう?これで、少しは、優しい表情になってくれたら嬉しんだけど…」


氷条友奈はどこか自信が無さげな顔をする。その顔を見て、私は心臓の鼓動が少し早くなった気がした。だって、今の表情が、弱っている時の穂村とそっくりだったから。しかも、穂村成分が足りんせいで余計に穂村そっくり……いや、穂村に見てえ来る。あーーー!!!!ダメだダメだダメだ!!!!切り替えろ、私!穂村が構ってくれないからって、目の前にある蜜に縋るな!!!!

そんな、浮気まがいな気持ちも一緒に吐き出すためにいっきに息を吐き捨てた。そして、顔の緊張をほどく。


「少しなら別にいいよ。もう、そもそも気にしてないよ、氷条さん」


「あははは…少しならか~……それに、気にしてなかったにしてはきっつい顔してはりましたけど……まぁ、いいや!これから仲良くしてくれた嬉しいな穂村ちゃん!」


そうして、私は、穂村の従妹と出会いました。


「まぁ、それはそれと、気になったんだけどさ?なんで君らって、幼馴染なのに…って今は恋人か…恋人になったのに、苗字で呼び合ってるの?」


「え、あー、それは……ってあの、近いんだけど」


気がつけば、私の顔に数センチと言う距離に顔があった。って本当に近いんだよな…てか、まつ毛なげぇ~、穂村みたい。この、淡い少し赤みがかった瞳も穂村とそっくり…顔全体も、穂村みたいに整っててなんかすげぇ…可愛いだが…ってあれ、私すごく鼓動が速い気がするんだが!?あれ、あれ、!!??なんか、すごく顔が熱いんだが!?!?!?!さっき、吐き出したよな!?私!!ダメだ、ダメだ!!!!これ以上は!!!!!

そんな、私を見て、氷条さんがニタリと笑う。


「あれ?もしかして、照れてる?日蔭ちゃん」


「え、いや、あのっ!!」


私は、距離をとろうと後ろに逃げたが、ドンと衝撃音がなる。たまたまそこにあった電信柱にぶつかってしまった。そして私から退路を奪うがごとく壁ドンをかまされた。


「え、あの…」


私はどうすることもできない。だって、この氷条さんは、髪の色を除けばすごく穂村と似ていることに。それに、穂村成分が足りなくて、無意識に求めてしまっている。たとえ、それが偽物だったとしても。そして、思考回路ぐちゃぐちゃでどうしようもないせいで、彼女の息が耳にかかる距離までに接近されてしまった。


「あぁあ、いけないんだ~、恋人がいるのに、壁ドンされちゃって、こんな至近距離でささやかれちゃったりしちゃってさ……日蔭は悪い子だ」


私は全身を震わせてしまう。いけないのに、何故かこの、穂村の声には似ているが少し低い声が…すごく、私が好きな音としてとらえてしまう。…いま、私はどんな顔をしているだろうか、恍惚とした顔を浮かべてしまっているのではないだろうか…。


「………、そんな、顔して、わっるーい私が、襲ってしまうかもしれないよ?……例えばキス。とか…」


そういって、私は顎に手を掛けられてしまった。やばい、やばい、やばい……さっきまでは、ギリ穂村と区別ついていたのに、ささやかれてから、氷条さんが穂村にしか見えなくなってしまってる!!!そう、さっきから脳のどこかの働きでそう見せられてしまっている!!!!!!どうしよう…このままだと、き、き、キスされてしまう……穂村を裏切ってしまう。それだけは、嫌だ!


「おんどれ!!!!!!何してやがるんじゃぼげーーーー!!!!!!!」


その声と共にドゴン!!っと爆発したような音が聞こえた。それと同時に私の顎にあったはずの温もりが消えていた。そして、私は緊張がとけ座りこんでしまう。だが、音の正体も気になるので、事の顛末が詰まっているであろう砂埃が待っている方へ目線を向ける。


「いてててて……………何が起きたんだ?……………ひぃ!!!!」


砂埃を多く被った、氷条さんが痛めたであろう箇所をさすりながら起き上がろうとするが、顔をあげると、腕を組み仁王立ちしている人を見て悲鳴をあげた。


「友奈!!!!!!!、ねぇ…これ、どういうこと?…ねぇ?どういうこと!?返事によっては、友奈を殺さなくいけなくなっちゃうから気をつけてね、…」


そう言って、冷たい笑顔を繰り出している。穂村が。


「こ、怖い顔は、よ、よしてくれよ……穂村ちゃん」


氷条さんは頭をかきながらヘラヘラした口調でいった。だが、穂村は顔に筋を作って、冷たい笑顔がさらに凍てついた。


「ね?」


「……あ、はい」


氷条さんは死を覚悟したのか、顔面から表情が消えた。そして、その氷条さんをみた穂村は、氷条さんの首根っこ引っ張って路地裏へと連れ去った。


「………」


私は、状況がつかめずしりもちをついたまま。


「あ、そうだ、」


「ひっ!」


私は、鋭い悲鳴をあげる。


「日蔭、こいつが終わったら次は日蔭だから、あ、でも、かなり時間かかるから、日蔭は学校に先に行ってて」


穂村は、路地裏から頭だけのぞかせた穂村がそういった。


「日蔭」


聞いたことないくらいに低い穂村の声で名前を呼ばれた。


「逃げれるとか、思わないでね……わかった?」


「は、はい……」


私は、そう返事することしかできなかった。………でも、こんな、穂村の声を聞いて、状況も考えず、体をゾクッと興奮させてしまう私はやはり、変態の様だ。

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