第9話「恋人の姉とであう②」
side穂村
今日も今日とて私の最愛の恋人こと日蔭とイチャイチャする予定だったのだが、そうとも言ってはいれなくなった。どうしてか、日蔭の姉、灯香が私の事を見極めると言い出したのだ。ていうか、私が逆に日蔭にふさわしい姉か見極めてやりたい。そうしたら有無も言わさず、失格の烙印をあげるのに……でも、その話題の中心の日蔭は風邪でお休み。それで、日蔭成分が足りないブルーな私。そして、時は現在お昼休み。
「つーちゃん、また来てやったぞ」
そう言って教室に入ってきたのは灯香だ。現在の生徒会長ということも関係しているのか、そのたたずまいは私でさえもおくしてしまいそうになるほどだ。
「なんですかシスコン先輩」
私の素っ気ない返しに反応せず、私に近ずいてくる。その間、昼休みまでにも何回も何回も休み時間になる度、この教室に訪れてはクラスメイト達を懐柔していき、今となっては、挨拶を交わしながら私のもとに向かってくる。恐るべし、生徒会長。と、でも言うのか。
「お昼一緒してもいいだろうか?」
そう言ってきたが、断るに限る。
「そんなの、嫌に決まっムゴムゴムゴ……」
隣にいた、クラスメイト達が私の口を塞ぎ、構いません!と言っている。ふざけるな。……私、日蔭成分が足りないせいで日蔭みたいな口調になり始めてる気がする……。セルフ日蔭で、補おうとしている自分が居る……日蔭……会いたいよ……。……はぁ……でも、日蔭は私を信じてくれたんだよね……このシスコン野郎に認めてもらわないといけないんだけど、……はぁ、私が、嫌だと、言ってる。体も心も。……このままいっそ、日蔭と共にどこか遠くに行ってしまおうか。……でも、このシスコンからは逃げ切れる自信が無いな……。元に昔試みたが、大失敗に終わったしな……………………はぁ……日蔭……。
そんな私の心情は露知らず。クラスメイト数人とシスコン先輩、そして私を含めた昼食会が始まるのであった。
「あぁ、そうなのか、………すまなかった、君たちにまで、迷惑をかけてしまっていたんなんて…いや、言い方が無粋だったな、すまない、妹がここまで元気になれたのは君たちのおかげなんだ、ありがとう」
あの件以降の日蔭を中心とした話の顛末を聞き、灯香が深々と頭を下げた。周りのみんなはそれを見て、否定や、灯香の事を慰めることなどをかけた。ただ、穂村一人は除いて。
「みんな、なに、言ってるの?この人がこの話の原因なんだよ?………私は、許せないよ、日蔭をあんなめに合わせた癖に………私は、やっぱり、許せない」
周りが、重い空気を放ち始める。だって、これが真実なのだから。でも、そんな空気の中一人の女生徒が、やって来た。
「そんなこと、言っちゃってさ、穂村ちゃんはやっぱり、ツンデレなんだよ、特に会長に対してさ」
そういって、やって来たのは隣のクラスの人、ハグの一件の時に協力してくれた腐れ縁の、
「なんでさ、今更、会長の事をけなすことをいうの?あの一件を解決するには、日蔭ちゃんを助けるだけじゃ、解決にならない!だから、しゃくではあるけど、会長も救わなきゃ、彼女は本当の笑顔は見せてくれないからって、言って、会長のことも守って立ち回ったのはどこの誰だったかな~?まぁ、でも?会長の性格上、適度に他人からの責めがなくちゃ自壊するのもまた事実だし、理にはかなってるよね~」
余計なこといいやがりやがって。
うっざい声と、似ても似つかない私の物まねをして、もう一つの事実を提示した友奈はジト目でニヤつき、私の頭の上に腕を置いた。
「………本当なのか?それ」
シスコン先輩は珍しくおどおどしている。だって、考えてみれば、私はずっとこの人から嫌われることばっかりしてきた。だって、だって、日蔭との邪魔をするから。……でも、あの時はちがったんだ。この姉妹は顔はそこまで似てないけど、放つオーラは一緒だったんだ。出会い方が違っていたならば、私は、もしかするとこのシスコン先輩の方に惚れていたのかもしれないってほどに。だから、あの時、このシスコン先輩の事も救いたくなった。だから、救った。友奈に力を借りて、私が関わったてことを隠すために。それだけの話だ。
「…………」
私は黙った。なんだか、肯定したら、負ける気がしたから。でも、このシスコン先輩はどこか優しい笑みを浮かべている。それも、日蔭が時折見せる微笑み方。
「………そうか、そうだったな…私こそ、忘れていたよ、つーちゃんはそーいう子だった…隠れて、こそこそして、他人を助ける奴だったな…………ありがとう」
そういって、はにかむ先輩。私は、少しドキッとしてします。ほんのり頬を桃色に染めて。日蔭がたまにする顔にそっくりだったから。
「くくく、寝取られの危機かな?」
「う、うっさい!!!」
ちょっかいかけてきた、友奈に私は怒鳴る。それを見た周りの友達たちはそうだったそうだったと先ほどまでの重い空気はどこかに消えるくらいの勢いで茶化しの言葉と笑い声だけで満ちた。
「はは、本当に、妹ちゃんはいい友人たちと巡り合えていたんだね………もしかしたら、本当に、君たちの関係を認めてもいいかもしれないな…」
「ほ、本当ですか!!!」
私は、友奈を振りほどきシスコン先輩の両手を握る。
「あ、あぁ…気に食わないことには変わらんが。うん、気に食わんが、本当にそういったところは、君を信用できるところでもあることもまた事実ではあるからなぁ……まぁ、今は会うことぐらいは許可をだそう」
「ちっ、なんだよ、全部ささっと認めてくればいいのに」
「おい、舌打ちしたな?」
「えーそうですか?空耳じゃないですか~」
と、いつものようにやりあう。……これで、また、ある程度は、もつかな。こればっかりは私だけじゃ、解決できないし。…いずれ、また、この問題と向き合わない時が来るだろうから…それに、生徒会書記でもある友奈にも協力してもらってるし………だから、今は、今でもなお、日蔭と日蔭の周りをかき乱すアイツの事は忘れて、楽しもう。いつか、本当の意味で向き合わないと行けない時が来るかもしれない……だから、備えて、ダメージが極力ゼロに近づけるためにも、私も、日蔭も……まぁ、このシスコン先輩も含めて、楽しい時間を作ろう。そうやって、今は前に進もう。
シスコン先輩は予鈴が鳴った為、教室にかえっていった。そして、なんだかんだあったが、収まるとこに収まった昼休みだった。
「……収まるところに収まった感じかな?」
「友奈、余計なこと言わなくて、よかったのに…」
まぁまぁ、と言って私の背中をバシバシ叩く。
「でも、よかったじゃん日蔭ちゃんとの関係に兆しが見えてきてさ、ね?」
と、予鈴が鳴ったのにいまだに帰ろうとしない友奈であった。
「はぁ…にしても、日蔭……日蔭成分が、足りないよ……」
「そんな君に……はいよ、これでも、吸って元気だしな」
そう言って、渡してきたのは1枚の体操着であった。体操着には日蔭と書かれている。そう、紛うことなき日蔭の体操着である。これが、あるということは、私はこうすること以外できないのであった。
それは、勢いよく顔を埋めて日蔭の名前を連呼するだけ。たったそれだけだ。
「あーーーーーー!!!!!日蔭!日蔭!!日蔭!!!日蔭ぇー!!!!!」
そして、空気を読んだかごとく、教室の扉が開く。
「あー、済まない、忘れ物をしてしまっ……………て………」
忘れ物を取りに戻ってきた灯香は自分の失態に恥じた顔を浮かべていたが、日蔭と、書かれた体操着に顔を埋めて恍惚な顔を浮かべている穂村を見て、スンと顔に影が入り、瞳からは光が消える。そして、息継ぎのため仕方なく顔をあげた穂村はその目を見てしまった。
「……」
「……」
そして、始業の鐘がなるのであった。
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