第6話「日々、デートは続く」
今日も今日とて…と行きたいところだが、現在穂村とのデート中である。そして、時刻はお昼時。息まいて第一歩を踏み出しておきながら、アクション1つ起こせていない、日蔭は一人、穂村の帰りを待っていた。
昼ごはんの会計をしようと伝票をもってレジに向かおうとした時、穂村に止められ、伝票を奪われた。私が払うと、言って私は店から追い出されたってのが現在だ。でも、あの時の穂村の感じがいつもと違うと思ったのは気のせいだろうか。
「おまたせ~」
いつものように、しかっりさは残っているものの少しおっとりしたその声を出しながら店から出てきた。
「あの店、味のわりには高いと思うんだよ」
「おい、爆弾発言やめい」
私は、少し苦笑い。いや、思うよ?私もそう思ってしまっているところある。それに、確かにそういう店もあると思うよ?げんに、ここみたいな……でも、それ口にはだしちゃいけないと思うんだよね、まぁ、お店の人だとしたらまだしも…。
「なに~?別に、いいじゃん、ここも、私管轄の店なんだから」
と、少し、頬を膨らませながら私の事を見つめてくる。
いや、そうなんだよ。さっきから行くところのほとんどが、この穂村の店なんだよ。
「ま、言いたいことは分からるから、まだまだデート。続けよう!!」
「いや、まだ、口でも心でも、なんも言ってねぇーよ」
こんな、私を無視して、私の腕を引き満面の笑みをこぼしながら走り出す。
「ご飯食べったってことは…ゲーセンだー!!!」
「なんでだよ」
「え?だって、デートってゲーセン行くもんでしょ?」
そーなのか?と首をかしげる。ってか、私普通のデートの常識とかしらねぇーし…ってなんでこいつはデートの定石を知っているんだ?まさか昔恋人がいたとか、いや、もう高2だしいたことあるくらい別にいいよ、現に私もいたけどさ……でも、なんか、こう、嫌だな…って、私、やばいな、やっぱ。すげー重い奴に、なってるじゃあねーか、……まぁ元から重かったけど……
「やばくないよ?日蔭は。………それが普通なんじゃないかな?だから、世の中の恋人たちは、昔を掻き消す勢いでデートしたり、その、…夜は、はりきったり、しちゃったりしてさ………言ってって恥ずかしなぁ~まぁ、その」
走り出した足を止め穂村が私の手を握りギュッとして目を見て、瞳をさすように見てくれる。
「だから、いっぱい楽しも?日蔭の昔も私で、上書きできるように……まぁ私はアイツみたいなことはぜったいしないし、アイツの事をさ、日蔭の頭の中から消え去れるくらいまで…いや、それ以上に日蔭の中で私の事しか考えられなくなるまで私で埋め尽くしてあげる。」
「トゥンク」
私は勢いよく口をふさぐ。
「声、出ちゃってるじゃん」
そう言って、はにかむ彼女の顔から目が離せない、いや、離したくないのかもしれないな、私は。
でも、この世界は二人きりではないのだ。周囲から、拍手や喝さいが巻き送る。穂村の愛の演説が周りの人々にこの現象を引き起こさせたのだった。それを、今更ながら気が付いた穂村は顔面を紅色に染めた。
「い、いっこ///」
そう言って、今度は私の手を握ったまま走り出す。この場から逃げ出すように。彼女はこれでいて結構シャイな、女の子だった。そして、それが可愛いと思ってしまうのも日蔭の性というものなのだろう。
だからかな、私は、今だと思った。ここなら、暴走せずに穂村に勝てると踏んだのだ。
「そ、そのありがとね、…私も、穂村の中を私だけで埋め尽くしてやるから…その、いっぱい楽しもう!」
「トゥンク!」
「まねせんでええい!!」
茶化されたせいもあり私は自分の顔が、熱くなるのを感じた。でも、それよりも、穂村の顔が、さっきよりさらに赤く染まっているよに見えた。それは、今は走っているから赤くなっているのか、それとも、私の言葉で赤くなったのか、正解はどちらかはわからない。だけど、どこか勝った気分になってしまう。それくらいはいいだろうか。
「いや、良くない!!私は負けてないよ、走って赤くなってるだけで、まだポジションは譲らないから~!!」
「いや、別にいいじゃあねーか……てか、さっきもそうだけど、私の心を読むんじゃねぇ!!!」
と、いつものやり取り。どこか、心地よい気持ちになれるやり取り。
「さぁっ!日蔭、デートはまだまだ続くよ、」
「うっせ」
それから、目がくらむようなデートが続いた。ゲーセンで、クレーンゲームしたり、太鼓をたたいたり、踊らされたり…それから、穂村がブランドを束ねるファッションコーナーに行ったりして、私たちにしか、できないデートした。昔のことがかすむくらいに。いや、この時だけは今だけを見ていたのかもしれない。それが、楽しくて、心地よくて、とても良かった。
でも、別れはやってくる。だからと言って、切なくはない。私は、今日と言う日があったからこそ、穂村の事がもっと好きになった。だから、今の私は別れがつらくない、明日から楽しみで仕方ないから。穂村と歩める未来があるから。確かに、今の時間がずっと続けばいいとも思う。でも、それよりもいろんな穂村が見てみたい、私が穂村に一泡吹かせるようになりたい。だから、私は明日に向かうため帰路につくのだが……
「いやだ、やだやだ!!!!!やだーーーーー!!!!、帰りたくないよ~!!!!!!」
と、腰にがっちりくっつかれホールド状態である。どうしたものか。
「ねぇ、穂村、明日学校で会えるでしょ?」
「それでも、嫌なものは嫌なの!!!!!」
やばい、かなりめんどくさい。さっきも言ったように、私はこれからを楽しみたい人間なのだ。と言うか、未来を見るようにうながしてくれたのは穂村なのだが……まぁ、穂村の気持ちも分からないではないが正直ここまでなる意味が分からん。
「じゃあ、私が今日を圧倒的に満足できた日としての証拠を残してください」
そう言って、穂村は私から少し離れ目を閉じ両手を大きく開いた。
だが、これが、いけなかった。穂村の行動が、いけなかった。こんな、楽しかった一日で、夕暮れが照らす分かれ道。目を閉じた恋人が私を待つ。たとえ、両手を広げた、という行為だけを考えていた穂村にとって、たった、これだけの状況……いやこんな状況になったことによって、暴走する私の行動は誰にも読めないのだ。恋人である穂村でさえも。
そして、広がったのだ。やらかい感触が。幸せな温もりが。なんとも言えない甘酸っぱさが。
そして、余韻を残しながらも、消えていく。
「え?」
「え?」
両社の間に流れる、絶妙な空気。
それ以降の記憶はない。
そして、暴走を引き起こした私の黒歴史が刻まれたのだった。
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