第5話「日々、死はすぐそこに」

では、綴ろう。私と穂村の初デートを。そして、最強の黒歴史とやらを。


今日も、今日とて私は恋人に絡まれている。わけではなかった。私の現在地はここ、地下鉄の改札口前。恋人の穂村を待っている。そう、今日私は、穂村と初デートを行う。(実際は私服でかつ休日に予定を合わせてのデートが初めてなだけど、放課後デートは、それは毎日やってますと……って、何言ってんだ私)……緊張してきた。私はスマホを取り出しインカメにして自分を見た。普段、私は化粧をしないが、今日は少し控えめに口紅やその他もろもろ顔に課金している。我ながら思う。可愛い。前々から、顔は整っている方だとは自負していたが、化粧をすることによって磨きがかかっていると思う。さらに私は顔を左右に振って自分えを見た。


「…化粧も悪くないな…」


キメ顔をかまして、ふと、呟いた。


「あの…日蔭~?、自分に見とれてるところ悪いんだけどさ、私、もうそろそろすねちゃうよ?もっと、私にかまって~って」


「っ!!??い、いつからそこに!?」


突如現れた私の恋人こと穂村に驚いた私は声にならない声で奇声をあげた。てか、やばい、すごく、恥ずい……。私は両目を隠した。この世から逃げるために。


「そんな、ことしても、消えられないと思うよ?と言うか、私は日蔭の事、消させるつもりもないけどね」


おっと、微ヤンを感じさせるセリフをどうもありがとう。私は、すごく愛を感じてうれしいです。でも、恥ずいって。

私は、ゆっくり両手を剥がし、赤面した顔で穂村を見る。


「…よかった、いつもの、日蔭だ…こないだの日蔭が残ってたらどうしようかと思った」


ニッと、いつものように穂村は無邪気にはにかむ。

……でも、これまた、ありがとうよ。わざわざ、冒頭で言わなかったこと言ってくれて。私が暴走したことを匂わせてくれてよ。……それにしても、私も安心したよ、いつもの穂村で。昨日の受け身な穂村が来たらって思うと、暴走しかねないからな……。


「………ねぇ、日蔭、もーそろそろさ、心の中で語るのをやめて感想、聞かせてくれない」


「?」


キョトンとした表情を浮かべた私を見て、くるりと穂村は服を見せつけるようにゆっくりと回転する。


「その……日蔭は…私の……私の、私服見たら、死ぬんでしょ?………って、え、日蔭、え??」


体を震わせ、ピタッと静止する私を見て動揺する穂村。そして、黒目が消えた私。そう、つまり


「し、死んでる!!!」


そう。私はもう、死んでいる。いや、そもそも、今日言う日が来ると決まってからすでに私の死は確定されていたのだ。ってことはないけど、つかの間の失神中です。はい。


「…か、可愛い…………です。」


「ありがとう、日蔭もいつもと違くて、かわいいよ」


「あ、ありがとう」


2人のを囲む空間だけが桃色のエフェクトがかかったみたいになっている。さぁ!!皆皆さん方、どうぞ、砂糖を吐いてくださいませ!!っと、のろけは一旦置いといて。今度は、穂村の私服をゆっくりと見て堪能する。穂村も、少し化粧をしているようっだった。服は薄いピンク色の控えめなフリルのワンピース。どこかのご令嬢が着ていそうな服。まぁ、穂村はご令嬢なんだけど。

2度目を見る事になった私に、その服が見事にマッチしているため、二度目に失神が訪れる。


「また、死んでるし……………にしても……日蔭のそのかっこ、なんかいいね……うん、はぁ、ハぁ…いいよ……日蔭……」


穂村から危なげな吐息が聞こえて、私はこの世に戻ってくることが出来た。身の危険を感じたからだ。まぁ、別に襲ってくれてもかまわないのだが…。


「いいの?」


「…貴様、本当に、ただの人間か?」


「うん。そのつもりだよ…ただ…」


「ただ?」


穂村は私の前を数歩先を進みクルリとターン。こちらを振り向く。そして、頭を少しだけ落とし、目から光が消える。


「ただ、毎日、毎日、毎日、日蔭の事を見て、見て、見て、考えて、考えて、穂村の事しか、考えられなくて、愛があふれて、この愛をなくしたくない……ずっと私だけのものになってほしい……て思っている。ただの、人間!」


目に光が戻り、ニコリと笑う。私は、この一連の動きを見て胸と腹の奥からぞわっとする何かがこみ上げた。だが、この感覚は拒否や危機意識などではない、そう。むしろ逆………私は、……結構やばいとこまで落ちてしまったのだろうか。この穂村と言う人間に本当の意味で落ちてしまったのだろうか。それとも、私は、本能的に…ま


「マゾっけあるよね、日蔭は!」


「ぐふっ!」


私は嘔吐く。そして、穂村の無垢な声での一言。言わずもがな、この日、自他ともに認めるマゾ気質が確立されたのであった。そう、私は穂村が好きな、ただの変態なのである。


「私…………私にいじめられて、束縛されて、興奮する日蔭、好き。だから、私いがいは無しだからね」


「うん。」


…うん。じゃねぇ!!!否定しろ私!!!!!!って、てか否定したくないと思ってる私消えろ!!!!!。あ、疲れた。もう、いいや、てか、改札口で何やってんだ。浮かれすぎだろ私。


「まぁ、じゃれ合いはここまでにして、デート。しよ、ね?」


「穂村に路線を直されるのは解せないが、まぁ、行くか」


私はそう言って、穂村の手を握り、前進する。


「……日蔭って、結構大胆だね」


「……うっせ、私ら恋人なんだろ、じゃあ、いいじゃねか…それに今日は穂村を体から外したくない」


「っ///」


ささやかな復習成功。いつも、遊ばれるお返しだ。


そして、私がマゾと分かった日、一つの決断をする。それは、私はこの前の暴走みたいじゃなく、私の意志で私の考えで、穂村をデレさせて、襲う。……いや、何言ってんだ私。襲うは置いといて……でも、この、私から手を繋ぐこれは私の第一歩だ。だから、片手に穂村の温もりを感じながら私は進む。


「別に、私は、もう日蔭にデレデレのデレだよ?」


「うっせ」


なんなんだよ。こいつは……。




私たちのデートは始まったばかりだ。





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