第3話「日々、友達は障害なり」
「へい、へい、そこの恋人よ、言い訳はあるのか?」
「もーなに?穂村、昼休みに呼び出して、その茶番に付き合ったらいいのか?」
今日も、今日とて私の恋人、穂村に昼休みの屋上で絡まれている。うん。言っておこう。めんどくさい。
「これは、どーいうことか、説明してくれる?」
ドドン!と穂村がスマホの画面を私に見せつけた。そこには、あらゆる方向から友達に抱きしめられている写真だった。私のここの中では、「あーね」という棒線を含めて3文字しか浮かばなかった。
「シクシク、こないだ、土手であんなに口説かれたのに…私しか愛さないって言ったのに…」
あー、どうしよ…ほんと、めんどくさいな、これは。でも、あーするしかないよな。
「…何も、言ってくれないんだね…って…え?」
穂村の間抜けな声が耳元で聞こえた。え?なんでって?簡単だよ。抱きしめたんだよ!!……って、私の心臓早くないか?おい、音!!デカいデカいデカいデカいデカい!、え、ちょっと待って、はぐってこんなドキドキするもんなの?え!?ちょや、や、や、やばいって!!変な汗でできたし、ちょっ、この心臓の音、穂村に聞こえてないよな?聞こえてない!!うん!!!断定しておこう!!!
「……日蔭、心臓の音、すごいね」
!?!?!?…………………終わった。恥ずかしすぎる。………てか、こいつの体、やらか…!!!消えろ、私の煩悩!!!!ここでやましい気持ちをあらわにしたな!?穂村に流される!!!耐えろ!!!私!!!!!流されるな!!!!私!!!!!
「ふふ、私うれしな…こんなに、私で日蔭がドキドキしてくれるんなんて…」
ギュッと、穂村が強く抱きしめ返してきた。
!?!?!?!?!?あ、すっごい、当たってるって、…あーもう無理だ無理。私はうつむいたまま、ずっと、穂村から体を離した。あー穂村も、照れることもあるだな……
我慢しようとしているが、どうしようもない火照りが顔に広がる穂村が目に入った。
「すげー真っ赤だな顔」
「……日蔭こそ赤いよ」
「………」
「………」
って、私らホント沈黙好きだな。
「なんか、ごめん。私の友達さ、無駄に距離感が近いんだよ…不安にさせてたかな?ごめん」
「うんうん全然。距離感が近いのは知ってたし、まぁ、あんなことがあった後だしね、日蔭の友達みんな優しいから、慰めてくれてるんでしょ?」
「うん。ほんと、恵まれてるよ私…それに、最高の恋人もいるしね」
私は、穂村にはにかんで見せた。もちろん、例のごとく、「ズキュン」と射貫かれてはいるが、私のこの笑みは穂村に対する冥土の土産のようなものだ。……さて、イチャイチャはここまでにして……さぁ、始めようか断罪のお時間だ。
「じゃあ、私のいい笑顔を見れた穂村さんや、言い残すことはありますか?」
「まことに、素晴らしき笑顔でござった、わが生涯に一片の悔いはござらぬ」
穂村は両手のひらを合わせて、遠い空を見上げた。
「よろしい、では、一つ目、あの写真、すごく私が際立った写真だった…いつも、気になっていたんだ、私の恋人すごく私を撮るのがうまいんだなって、それに、私が写ってる写真は昔から持っているのは知ってた、そう、知っていただけなんだ、写真を撮られた記憶が私の中にはないんだよ、驚くことに……そうして一つの回答が導き出されたんだよ、穂村、私の事、盗撮してるよな」
「…………は、……い」
認めやがったぞ、こいつ。
「まぁ、今は付き合っているから私としては別によしとしておこう…まぁ、穂村は私の事綺麗に撮ってくれるから…」
まぁ、犯罪だけどな。許可はしたんだ。いいだろう。別に。
「では、二つ目だ、確かに、私の友達はみんな距離が近いよ?でもね、ハグとかみたいなスキンシップは取らないんだ、穂村と付き合ってることみんな、知ってるから……だから、穂村、わざわざ、みんなと根回して、写真なんか用意して……ねぇ、穂村、私から穂村にハグするまでの一連の流れ、狙ってやってただろ」
「はい、もちろん!!」
おい、盗撮より、素直だな。てか、盗撮はちゃんとうしろめたさ感じてたのかよ、けなげだな穂村…って、断罪中になに、罪人に、なにときめいてんだ私。
「いや~、日蔭から抱きしめて欲しかったし」
「だから、こんなはめるような真似をしたと……」
……可愛い……なんて口に出せない……くっそ!
「でも、日蔭だって悪んだよ!恋人の私を差し置いて抱きつかれるなんて、……だから、私も考えたんだ、これがお返しだ!!!」
何を、言う。お前が仕掛けたんだろが、おい。
そんな、思考をしている私を放置して、ズドンと穂村は私にスマホのスクリーンを見せつけた。その時、私の背筋がスっと冷めた。
あぁ……私も。かなり、めんどくさい人間なんだな……
私はそのまま、穂村を抱きしめた。さっきよりも、強く。深く。私のもとから無くならないように。
「……ごめん、だから、そんないけず、しないで」
私は自分の目元が凄く熱いのがわかった。
「うん。私もやりすぎたよ、ごめんね、日蔭」
スクリーンには顔も知らない、恐らく穂村の友人だろうと思われる女性とハグをしあっている写真があった。
「……穂村、私が悪かった、無防備だった……だから、これからは気をつける……だからさ、穂村は私だけを愛して、私も、穂村しか愛さないから……」
「……嬉しいけど、友達関係もしっかりしなよ、私も今回はいけずしたかっただけだし、それに、私が仕向けたことだし……そもそも、私は日蔭以外に抱きしめられてもドキドキしないよ?」
「……ありがとう」
私の恋はもう、穂村以外に向けるつもりはない。友達関係でこの関係が壊れるのなら私は、穂村がいるだけでいいとさへ思える。友達との縁を切ってもいいとさえも。だけど、私がここまで立ち直れたのは友達たちのおかけでもある。これから、私は、この関係を崩さずに生きていけるのだろうか……不安だ。
「にしても、私だけを愛してかー、ときめきますの~」
「うっせ」
でも、今は、穂村がいるだけでなんでも出来るような気がする。
おちゃけているつもりだろうが、耐えきれず顔を赤くしている穂村をみて、さらに私はそう思った。
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