赤くて甘酸っぱい、そんな春の味がした

CHOPI

赤くて甘酸っぱい、そんな春の味がした

「あ、いい香り」

 金曜の夕方に立ち寄った、スーパー入口の生鮮食品。その店先に置かれていた果実がとてもいい香りを放っていた。甘酸っぱくてみずみずしいその香りのする先を目でたどれば、赤い小さな果実が目に入る。そうか、スーパーではこの時期、よく見かけるのも当然だ、と一人納得する。その果実の名前は旬をそのまま指している、と聞いたことがある。“1月から5月が旬”、だから“いちご(1、5)”なのだと。


 日本で一番売られるのは、実はその旬の時期から少し早めに外れている、12月だという話も聞いたことがある。なんでもクリスマス時期、ショートケーキに使われる時期が一番いちごを消費しているのだとか。少し考えれば「たしかに」と納得もできるけれど、とはいえなんだかなぁ、なんて感じたりもして。だって一番美味しく食べられる時期よりも売れるって……。考えすぎなんだろうか。


 春先は、少しずつ暖かくなっていく気候に合わせて、果実の香りも甘いピンク色に染まるような感じがする。いや多分、これに関して言えば、完全に気のせいではあるんだけど。


 ふと後ろから、小さい女の子の声がした。

「おかあさん!みて、いちごー」

「あ。ほんと。いい香りがする」

「ねぇ、これ、たべたーい」

「ん……、そうねぇ……。……たまには、いちごも良いわねー」

 その親子はそういう会話をした後、お母さんの方がカゴにいちごを入れていた。その光景に微笑ましくなって、同時に『笑顔をありがとうございます』と親子の背中に心の中でお礼を言った。


 自分もその親子の後にカゴに一つ、いちごのパックを入れる。買い物中、甘い香りがずっとしていて、その香りは家に帰る道中、そして家についてからもずーっと漂っていて。彼にLINEで「いちご買っちゃった!」と報告する。するとそのメッセージに既読が付いて、了解、のスタンプだけが返ってきた。


「ただいまー」

 先ほどのLINEからほどなくして、彼もうちに帰ってきた。その手には珍しく買い物袋を持っていて、あまりの珍しさから「それなに?」と聞いてみる。

「ん?食パンと生クリーム」

 ……なんてことだ、その手があったのか……!!

「いちごサンド……!!」

「キミが食いついてくるのは目に見えていたので、少し多めに買いました」

 そう彼が苦笑いしながら、買い物袋の中身を一度冷蔵庫にしまっていく。

「流石……」

「ほめてもこれ以上の物は出ませーん」

 彼の持つ『先見の明』をこういう時に感じる自分は、考えなさすぎなんだろうか。……、まぁ、いいか。これで2人、上手いこと回っているんだし。


 次の日、土曜の午後のおやつに2人で作ったいちごサンド。それは甘酸っぱくて爽やかな、春の味だった。

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