嫉妬からボッチ

 「遠回しに俺らの悪口言うなよ」


 「そう受け取る方が悪いんだよ。私たちはただ、六辻くんの純粋さに癒されてるって言っただけ。誰もラブラブカップルが眩しいからとか言ってないし」


 「そうは言っても、逢だって好きな人を見つける気はないし、優はそういうことが分からないし興味もなく見る専門なんでしょ?」


 「そうだな」


 恋人を求める人だけ求めればいい。結局はそういうことだ。恋人が居ないことを憂いても、元々自分に作る気がないのなら話は別だ。見て腹が立つなんて、冗談の範疇に過ぎないのだから。


 「今年しかないって限られた風物詩はないんだし、お祭りに行かないと成績に関わることもないんだから、違うことを考えよう」


 「祭りの選択肢を消したのは君たちだがな」


 「さぁ、何のことでしょーか」


 むしろあのタイミングで見せつけたいから言ったのかと思うくらいに完璧な切り出し方だった。だから、知らんぷりする八雲のその行為が意図的に思えたのは確かでもあった。


 「考えれば他にもあるよ。すぐそこには海水浴場あるし、プールだってある。人工林に入れるならキャンプもできるし森林浴も。一応夏にできることは大半できるから、その中で良さそうなのを選ぼうか」


 「結構調べてるんだな。そんな俺たちと遊びたかったのか?」


 「そりゃ、折角の夏休みを無駄にしたくないでしょ?それに普段遠出しないと経験不可のことが簡単に経験可能になる。それを見逃すなんて私には無理だよ」


 アウトドアタイプの一瀬は昔から遠出が好きだったと聞いた。その血は夏休みという長期休暇で沸騰寸前となったようで、桜羽をギュッと抱きしめるくらいには興奮して話していた。


 「私は何でも良い。森林浴もキャンプも海水浴も、今一瀬の言ったことは全て経験したことがあるから、私はどれでも構わない」


 「へぇ、逢と同じタイプでアウトドアなんだ。意外」


 「それだけ――」


 「待て九重。どうせまた、私がボッチだからとでも言うんだろ?ああ、そうだ。私は友達が居なかったからアウトドアが好きだったんだ。どうだ、満足か?」


 九重が口を開いた瞬間だった。勢いよく割り込むと未来視して、若干拗ねたように言った。


 「……いや、活発で行動力ある人なんだって言おうとしただけだぞ?……なんか悪いな」


 しかしその予想は大きくズレた。


 「……穴があったら入りたい」


 桜羽は悄然としてしまった。一瀬に後ろから抱きしめられて、向日葵のように項垂れた。


 「そんな良い性格をしてるのに、ホントに中学生の頃友達居なかったの?」


 遥は気になった。これだけ人を笑わせ、不憫でも友人たちと楽しそうに歓談して接するのに、何故中学生の頃にボッチだったと言うのかが。冗談ならまだしも、桜羽の本心は本当にボッチだからと言っていたので率直に問うた。


 「そうか、六辻なら分かってくれると思っていたが、君は無感情だったな。何故私に友達が居なかったかって、答えは単純明快――私が完璧超人だからだ」


 それも冗談には聞こえなかった。


 それだけ言えば他の友人たちは理解したようで、疑問に思うよう首を傾げたり聞き返すこともなかった。


 「私の通っていた中学校は女子の比率が少し高かった。だからという関係性も大きくはないが、それでも私は疎まれる存在なことに変わりはなかったんだ。私の知るクラスの女子は、顔の良い女子を嫌悪する人たちで溢れていた。だから私には友達が居ないんだ。呼吸をして教室に座るだけで、好きな人の好きな人になってしまう。それだけで私は避けられ嫌われた。結局、私は1人で中学時代を過ごしたんだ。それが理由だ」


 嫌そうにも雰囲気を出すことはなく、淡々と過去を振り返って答えてくれた。それを聞いていたのはもちろん遥だけではないから、全員桜羽の暗い過去に、聞いてはいけなかったかな、なんて空気感になると思っていた。


 「暗っ。そんなテンションで言うことじゃないくらい暗い話するじゃん」


 でも一瀬はそれに飲まれなかった。


 「でも私は当時、それが避けられていると思ってなかったんだ。勝手に嫌われて勝手に避けられてたから、私はそれに気づかなかった。だからそんな暗い話ではないと思うが?」


 「お前のメンタルすげぇな」


 「だから私たちのいじわるにも屈しないのか」


 「普通は気づくのにね」


 一瀬だけではなく、他の友人たちもだ。過去を乗り越えてここに来た者同士、通ずることがあるのだろう。


 「強い人なんだね、桜羽さんって」


 「言っただろ?私は完璧超人だと」


 「うん。流石だよ」


 見習うことは多そうだ。


 「脱線したが、これで私の過去の話は終わりだ。今度こそどこ行くか決めなければ」


 本当に些細なこととして記憶しているらしく、次に話を進めようと意気揚々としているとこはアウトドアを友達と楽しめるという高揚感からだろう。


 「私は海水浴したいかな。キャンプも森林浴もしたことあるから」


 「夏って感じで私は良いと思うよ」


 「こんな顔面偏差値の高いやつらと海行けるなら全然良いな」


 「八雲に殺されるぞ?」


 「大丈夫。そんな乱暴な彼女じゃないから」


 「普通に右手が出そうになってたが?」


 遥もその瞬間は捉えていた。八雲の右手が一瞬にして動いて、それを見た桜羽が殺されると注意すると手を引っ込めた瞬間を。


 「嘘つきは嫌われるよ、優」


 殺意込みの瞳を向けられていた。


 「まぁまぁ、イチャイチャしないで。どうする?六辻くんも良いなら海水浴になると思うけど」


 「俺も良いよ。久しぶりだし」


 何年ぶりだろうか。いつかは忘れたが、海水浴をしたのは覚えている。泳ぐことは好きだったとも記憶しているから、選択肢に出た時からを忘れ、選びたかったのは海水浴だ。


 「良いね。それなら、各々予定が合い次第海行こうか」


 「だな」


 そうして、いつものように駄弁を混じえて予定を決めた5人は、夏休みに海に行くことを決めた。

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