好きか否か
小夜が期末試験の範囲全てを教えてと言うから、それはもう朝の10時から始めた勉強会も、気づけば18時になっていた。それでも全てを教えることは不可能だったから、晩御飯休憩の後に再び再開されるくらいには、逼迫していた。
「いやぁ、悪いねぇ!私のせいでまた勉強しないといけないし、晩御飯まで食べちゃったし」
「いえ、小夜さんも六辻さんも容量が良いので、教える私もストレスなくて楽な方ですよ」
「確かに。いつの間にか18時って感じだったしね」
「やっぱ私にも才能ってやつがあんじゃね!」
「かもね」
「だとしたら、もっと早く勉強しとくんだった!やらかしたぁ!!」
たとえ早めに始めていても、身につくかと聞かれればどうだろうか。1人だと決して今のように頭の中に文法や公式が入ることはなかった。畢竟、一色パワーを借りなければこの幸福感と達成感、疲労感は味わえなかったので、最善の選択が今であることに変わりはない。
「相変わらず元気だね。疲れないの?」
「めっちゃ疲れる!けど、それ以上に楽しいから気にしてない!まぁ、私が部屋に戻った時のテンションの低さ見たら多分別人に思えるくらいやべぇよ!」
これは過去の影響から被った仮面ではないようだ。
仮面を被ることは、自分の過去を忘れたい、若しくは消したい思い出したくないと思ってする行為。だから、疲れた時に仮面を被ることはしない。しかし小夜は常にハイテンションで居続けた。それは根っからの性格という証明だ。
それを演じているなら大した才能だが、小夜は嘘が苦手な部類の人だ。バカ正直のようで、それは遥と同じだった。
「なぁなぁ、それよりさぁ、前々から2人は仲良かったんでしょ?お互い恋愛的に好きになったりしないの?」
急に何を言い出すかと思えば、ギャルっぽくても思うことは年相応の学生なんだと思わされた。恋愛に興味あるのは意外だ。
「ないよ」
「私もないですね」
「即答かぁーい!普通にそういう仲じゃないの?!私ずっと期待してたのに!この質問したくて我慢し続けてたのに!全然違うのぉ?!」
「学校指定の相性の良い相手じゃないし、俺には恋愛が分からないからそれを知ってる一色さんだって俺に恋心なんて抱かないよ」
「そうですね。今は私も、男女関係なく相性の良い相手を探すことに注力したいですし、私に六辻さんは届かない存在ですから。特待生ならそれだけ人に好かれますし、ライバルが増えるのも大変ですしね」
もし好きになったらの話だった。
恋愛感情を利用した相性で相手が決められることは多い。でも多いだけで絶対ではない。それに、生徒たちは恋愛感情を利用していることを知らない。知っていても特待生の3人くらいだろう。
だから基本生徒は相性が良いから恋愛に発展すると思っていて、恋愛感情を利用するから恋愛に発展するとは思っても、知ってはいない。
それが関係して、一色のように恋愛をしたいと興味を持っても、消極的な人は幾人も存在する。
「そうなんだぁ。前々から仲良いって美月から聞いてたのに」
「仲良いからって恋愛感情持ってるとは限らないからね」
「あれか、男女の友情ってやつ!だとしたら、今後好きになるってことじゃん!男女の友情なんて無いんだからさ!」
経験済みのように威張る。威張っても可愛いので威圧感も確信を抱くこともないが。
「いえ、多分ですけどホントにありますよ。六辻さんなら高確率で誰とでも友人になれますから」
「なんでなんで?」
「俺の感情が乏しいからだよ。人を好きになることが何なのか知らないから、一色さんはそう言ってるんじゃないかな」
「そうですね」
更に言えば、人を好きになったことがないから、好きが分からなくて友人になれるのではなく、好きになる感情が欠如しているから、そもそも好きになることがなく、感情が戻るまで分からないということになる。
「えっ、そんな人居んの?」
人間を見る目ではなく、バケモノを気持ち悪がって見るように顔を顰められる。なんとも不憫だ。
「居ますよ。現に六辻さんは入学してから一度も感情を見せたことがないですから。笑ったとこも泣いたとこも、怒ったとこも見たことがないです」
一度か二度、記憶ではそのくらいの偽りの作った笑顔を一色に見せている。しかしそれは悉く看破されたということだ。やはり人のように感情を持って笑顔を見せることと別格な笑顔だったのだろう。
「マジ!?ホントに人間?」
「人間だよ」
「やっば!思えばそうだよね。さっきから表情筋動かないもん!だから大人っぽく見えんのかな?それはそれでカッコイイと思うけどさっ」
高身長なので、それなりに雰囲気も合えば大人に見られることは普通だ。成人男性の平均身長は既に超えているのだから。
「こういう人がめっちゃ居んのが幽玄かぁ。面白っ」
「まだ同学年の1割程度しか関わってないから、もっと面白くなるかもね」
「だとしたらやべぇ!やべぇしか言えないくらいにやべぇ!」
語彙力も全教科赤点ギリギリを狙うくらいには欠けている。
「楽しみってことですかね」
「じゃないかな」
はしゃぐ小夜を前に、休憩する遥と一色は保護者のように見守る。今のところ全く恋愛に発展しない関係故に、お互いに意識することは何もない。だからこそ、友人として男女の友情を築ける気がしていた。
そうして暫時、再び勉強を始めた3人。遥が自室に戻った時間が23時だった。
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