ムズい

 本当なら期末試験一週間前に勉強を教えてもらうつもりだったが、相性指令や6098号室さんの都合などで予定が合わず、結局前日の日曜に教えてもらうという学生あるあるを経験していた。


 「今日はよろしくお願いします」


 「はい。どうぞ」


 玄関で迎えてくれる一色に言って、快く中に入れてもらう。


 「先に隣の部屋の人来てるので、一緒に寛いでください。私は飲み物だったりちょっとしたお菓子を持ってくるので」


 部屋に繋がる扉を開ける寸前に言われて、頷くことで理解を示した。それから扉に手を掛けて捻って入る。構造は同じだから慣れもなにもない。スルッと流れるように入れば、そこには言われた通りの五組の女子生徒が1人、ぽつんとベッドに座っていた。


 「あっ」


 お菓子を食べているようで、スナック菓子を口に運ぶ瞬間に目が合うから、キョトンとして見つめ合う静かな空間が生まれた。


 「……どうも」


 少し間があって頭を下げつつ言うと、パリパリっと1つ食べて金髪の少女は見た目通りに言う。


 「どもぉー!君が奥の部屋に住んでるって人?思ってたよりカッコイイじゃーん!へぇ、雰囲気良くね?!見た目に合ってるって感じするー!ってかこの見た目で頭悪いって、ギャップ良すぎっしょ!美月からミステリアスでも人から好かれるって聞いてたけど、その通りじゃんか。すんげぇなぁ」


 ギャルだ。間違いなくそっち系の人だ。


 突然人が変わったように反応するから、流石に遥もその勢いに乗ることはできなかった。話の内容的に置いて行かれることは入学前から覚悟していたことでも、独自のスタイルでテンション爆アゲして話されるとこんなについていけないのかと、現実を見せられている気分だ。


 見た目通りというのは第一印象でギャルかな?と思ったからだ。金髪は染めているだろうし、両耳のピアスはしっかり開けている。腹部が露出した服を着て、クルクル巻いた髪は綺麗にまとまっているから、十中八九そうだ。


 しかしメイクは派手ではなく、むしろ薄めだ。


 結果話し方もイメージ通り。それでも呆然とするくらいには、ギャル耐性がなかった遥である。


 「まぁ……うん……」


 大半何を言われたか忘れたので、取り敢えず適当な反応しかできなかった。


 「いやぁ、もっと勉強できませんって感じの人が来ると思ってたから、これはこれで良いよ!良いハズレだよ!」


 「……元気だね」


 「いつもこの感じですよ」


 飲み物食べ物を取りに行っていた救世主の一色がテーブル付近に来ると言った。既に慣れた関係らしく、ついていけるくらいには築けたのだろうか。だとしたら、試験前日に会うのは良くなかったかもと思う。


 「そうなの?」


 「私の話?私はいつもこんなんだよ。常に陽気!そんで可愛い!」


 「へぇ……良いね」


 陽気な人は好きだ。一瀬から始まって関わる人は皆陽気だから、それだけ慣れているという理由もある。だが、受け身の遥だからという理由が最もだ。


 「でしょ?!あっ、私が誰か分かる?君」


 「ううん。知らないけど?」


 「それは良い。私の名前を当ててみよーう!」


 一瀬、八雲、朱宮などの比較的天真爛漫な人を大幅に超えた性格の6098号室さん。名前当てゲームなんて、答えが無数に存在するから正解が分かるはずがないのに。


 「ちなみに美月は全然当てれなかったよーん」


 「無理です。私の頭だからという理由ではなく、難しくて当てられる気がしません」


 「そんなに難しいの?」


 「多分日本で1人くらいじゃないかなって名前!」


 喜び方からして、誰もが笑ったりして社会的に羞恥心を抱くキラキラネームではないのか。それでいて1人くらいの名前。漢字が珍しいならまだ分かる。けれど名前自体にそれだけの自信があるなら、未知過ぎて分からない。


 「んー……何文字?」


 「二文字!」


 ピースしてその数を教えられる。


 「二文字……」


 「ちなみに名字は小夜さよ。だから合計四文字が私のフルネーム!」


 (上も下も名前珍しいのか……)


 小夜という名字を聞いたことがない。聞いたことがない名字は遥の中で全て珍しい名字なのだが、それらでも四文字五文字、それ以上の文字数の名字を想像するから、逆に二文字は珍しく思えた。


 「小夜……りい」


 「りい?残念!でも惜しいよ!」


 (惜しい?どういう惜しいなんだろう)


 二文字なら、倉木の名前である杏や、香月の名前である凛。他には、らん、れん、りえ、はな、りこなどのよく知られた名前が頭を過る。だから余計に答えが分からなくなって、結局珍しい名前に辿り着けなかった。


 「無理だよ。五十音であ行から組み合わせれば正解するけど、そんな時間もないから降参するよ」


 「えぇー!美月が君なら正解するかもって言ってたのにぃ!」


 「そうなの?」


 「はい。ミステリアスな人は、人が不得手とすることを得意としそうだったので」


 ニコッと綻ばせる。最近は一瀬も桜羽も笑顔を作ってもゲス笑いが大半だから、こうして癒し効果のある笑顔は重宝物だ。


 「それは残念。でも俺はそんな神のような存在じゃないから、普通に聞かないと分からないよ」


 「つまーんない。まぁ、惜しい答え出したから十分なんだろうけどぉ」


 不貞腐れ方もイメージ通りとは、常に遥の頭の中にあるギャルで居てくれるのは無駄に驚かなくて楽だ。


 「仕方ない、教えよう!私の名前は弖笑てえ。第一学年五組所属の小夜弖笑さよてえだよ!」

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