報告
翌日、遥は再び三組へ足を運んでいた。言わずもがな、七宮に結果の報告をするためだ。
「要約すると、三組に他の人と比べても話しやすいって思う人が居て、その人には好印象を抱いている。そして、積極的に接してくれる人が良いっていうことだったよ」
「つまり、可能性が僕にあるかもってこと?」
「受け取り方次第だけど、俺はそう思ってるよ。一色さんって消極的って自負するくらいだから、そう多くの人と関わってないだろうし」
聞かれたことだけを答える。頼まれたことだけ遂行する。だから、遥が最も好印象だったことを言わない。それを言わないことで今後に支障があるなら言うが、隠したとこで全くデメリットがない。
たとえ後に七宮の耳にそのことが入っても、遥だからと理解してくれるだろう。
「そっか。まぁ、なんとなく好印象抱かれてるとは思ってたけど、改めて確信に近いものを得られると嬉しいよ」
「良かったね」
本当はどうだろうか。好印象を持たれているから、必ず人を好きになることはない。好印象というのは好意に繋がるだけの前段階なだけで、その種類は無数にある。
まだ先は長いし、これから消極的を改善して一色に接触を続けなければならない七宮には、少し苦難の道かもしれない。
「これから積極的に動くって……なんとかなるかな」
「なると思うよ。そう実行する意思と行動力さえあれば」
それだけの想いがあるならば。
「だね。さっ、そうと決まれば早速積極的に動かないと。六辻くん、スマホだして」
「分かった」
気分晴れ晴れとした七宮に言われてスマホを出す。きっと指紋認証だろうと思うと正解らしく、七宮は右手だけを伸ばした。だから相性指令の画面に切り替えて指を借りた。
「完了したよ」
「良かった」
ついでに悩みは何なのか、その答えも【人間関係】として打ち込む。幅広い概念だが、それでも正解なのは違いない。
「それじゃ、僕はこれから図書室に行くよ。昨日で早速動いてくれてホントにありがとう。それと、僕の惰弱さを否定しなかったり話を真剣に聞いてくれたことも。今後も関わる時はよろしくね」
「こちらこそ」
「じゃ、また」
「また」
手を振って駆けて行く後ろ姿は高揚感に駆られた人の雰囲気が漂っていた。
それにしても初めて会う人だった。何がかと言うと、深層に闇を抱えていない無垢な人についてだ。
七宮は優しさに溢れた人だ。それでいて惰弱に悲壮感漂わせてしまう、少しネガティブな人。しかしそれ以上のことは何もなくて、人間が素敵だと言われる性格そのものの性格をしている。
これまで訳有りの過去を持った生徒と関わり続けて、ここでやっと普通の生活を送ってこの幽玄高校に足を踏み入れた生徒を見た気がする。
とはいえ、深層――本心が絶対間違いなく読めると言い切れない遥には、見間違いの可能性も十分考えていた。
「今日はもう終わり?」
七宮が離れてから少し、今日は問われる寸前に気配を感じたから、振り向きつつ声色と雰囲気で誰かを察していた。
「ん?今日で相性指令達成だよ」
「そう。そんなに簡単だったのかしら?」
「難しかったよ。ただ、七宮が優しかっただけ」
もしまだ追加の悩みとして頼みごとをしてくる人なら、その時は明日明後日も続いたかもしれない。独力で動くからこそ成長と考える七宮の想いがあるから、救われたと言っても過言ではない。
「いつまでも謙虚ね」
「そんなことないよ。倉木さんは何か用事?」
「貴方を見たから来ただけよ。いえ、来てあげただけよ」
圧倒的上から目線へとお巫山戯のつもりで変えたのだろうが、それを上から目線と捉えずに魅力込みの真顔で言う。
「そうなんだ。何か話してく?」
「……貴方ってホント純粋無垢の権化ね。まぁいいわ。今日は私の方に用事があるから無理よ」
「喫茶店でも回るの?それとも友達と遊んだり?」
「それを組み合わせると正解するわ」
「へぇ、楽しそうだね」
流石は三組で最も美少女として人気が高く、社長令嬢としてコミュニケーション能力も高次な倉木。桜羽と違って友人はそれなりに居るらしい。性格も冗談を加えて会話することを得意とするから、それだけ人から好かれる要素を持っている。
しかし、前聞いたように社長令嬢と言う肩書きは消えないから、どうしてもその一線が越えられないことに苦労はしているのだろう。
「貴方も思っているよりエンジョイしているようだから、たまには私を誘いなさいよ?」
「俺からもお願いしたいよ」
「仕方ないわね。近いうちに何かしらで誘うわ。もう夏休みもすぐそこだし、休みは増えるから」
「それもそうだね」
遥にも誘う選択肢はある。倉木とあれこれしたいと思うこともある。しかし、無計画にも誘うことは後々面倒に繋がること間違いないので、成り行きで「あっ、今度遊ぼうよ」なんて気楽にも口にしないのだ。
「はぁぁ……社長令嬢の私が手荒く使われるなんて初めての経験よ」
「実は社長令嬢でも我儘だったりする?」
「違うわ。
「そっか。でも嬉しそうだから良いじゃん」
「手荒く使われて喜ぶドMのような言い方しないでくれるかしら?ドMではないけれど、まぁ、初めての経験だから嬉しいわ」
しっかりドMだった。
「これ以上話してると長話にハマってしまうわ。だからここで私もお暇するわね」
「うん」
その後すぐに友人に呼ばれた倉木は微かに微笑んで戻って行った。
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