最近は
「今後も付き合えるって人たちなら、関わった人全員かな。それが恵まれてるか恵まれてないか分からないけど、今は会話交わした人たちの中で嫌だとか思う人は居ないよ。あっ……いや、居ないね」
言いながら過った西園寺のこと。何か知っていると思われたくないので、思い出す要因にもしたくない遥は口に出すことはなかった。それに首を傾げると、気にしないと決めたのか一色は言う。
「六辻さんもそうですか。私も、相性指令で関わる人たちは良い人に恵まれてるので、やはりそういう意図があるんでしょうかね」
「多分とあると思うよ。じゃないと今頃、どこかで喧嘩が起きてたりしてもおかしくないだろうし」
相性が良い人を集めると、自然とそれと対となる存在も生まれる。価値観の違い、身体能力の違いなど、自分にとって不満ない人が周りに増えると、不満を少しでも与えられる存在には敵視してしまう。
それが入学して4ヶ月目の今、激発しても不思議ではない。
「最近は桜羽さんと一瀬さんと一緒ですけど、その組み合わせが当たり前になってたりします?」
「うん。なってるよ」
「おぉ、良いですね。六辻さんは誰とでも馴染めるのでそこは考えないとして、桜羽さんと一瀬さんは傍から見ても仲良さそうなのがとても伝わるので、相性も良いのかなと思います。なので、楽しそうな六辻さんたちの関係が少し羨ましいです」
「そう?」
「私は受け身で消極的なので、六辻さんたちは憧れる関係ですよ」
苦手だから、やはりその分他人が得意としていることに憧れる。けれど憧憬を抱くだけ素晴らしい人格者だとも思う。普通なら嫉妬してその性格を嫌悪することが普通と思う遥だから、自分の苦手を得意とする他人に、素直に憧れることができる一色は、それこそ憧れてしまう。
「消極的なことや受け身でいること、それらはダメなことだとは思わないよ。俺が言うなって感じだけど、でも、消極的だからこそ冷静な判断力を備えていられるし、受け身だからこそ他人を自ら進んで傷つけてしまうこともない。そんなメリットも実は隠れてたりするから、気を落としたりしなくても大丈夫だよ。視野広く持って客観的に見れば、この学校ならそれなりに人は選ぶだろうけど、色濃く馴染めるよ」
「ふふっ。それもそうですね。六辻さんからそう言われると安心します」
それだけ信頼してくれているということだろうか。
「あっ、そういえば、六辻さん確か料理教室に通って最近辞めたと耳にしましたけど、どうでした?」
「えっ、よく知ってるね」
「さっき桜羽さんが席に戻りながら、六辻が料理教室辞めたなら時間があるのか……と独り言を言っていたので」
「あぁ、桜羽さんが」
さっきならば、一瀬に強制的に付き合わされることになって荷物を取りに行った時か。それとも遥と別れた後の帰宅途中か。どちらにせよ桜羽ならば言いそうだったので、謎に説得力があった。
「料理教室は結構楽しかったよ。学べたことは多かったし、自炊もできるようになったし」
「3ヶ月で慣れました?」
「正直朝は苦手だし、億劫に感じることはある。だけど、料理教室に通う前と比べたら早起きに気をつけるようになったし、栄養についても考えるようになって、それらを全て意識してたから、もう慣れたよ」
「学習能力も高いんですね。凄いです」
実際4日に1回は朝に敗北するので、今はそれを習慣化しないよう体に言い聞かせているとこだ。それでも忘れ物を探す時間を確保するくらいには余裕があるので、全てがダメなこととは限らない。
「長い時間使えば流石に慣れるけど、勉強とかは試験期間入ってからしか手を動かさないから、基本頭に入らないこともあって学習能力が高いとは言えないよ」
「どうでしょう。近々分かるかもしれませんね」
「期待し過ぎて幻滅しないように気をつけて」
一色ならミスを続けても笑って対応してくれそう。何度も何度も同じミスをしても怒らなそうで、遥の中で最も怒らないだろうランキング一位だ。
ちなみに最も怒りそうなランキング一位は朱宮だ。
「それじゃ、俺はそろそろお暇しようかな。頼み事も言えたし、一色さんと他愛ない話もできたし」
「もう少し長居しても良いんですよ?」
「それは勉強を教えてもらう時にするよ。今日は疲れてるし、明日も学校あるから、一色さんも体休めないと」
「分かりました」
少しでも一色の頭の中に、遥という存在を消したかった。自分が最も好印象ならば、それを超える必要がある。そのためにはまず、意識の中で鮮烈に記憶に刻まれなければならない。
それに助力するとして、ここは後日会うことを盾に帰宅する。しかし、部屋に戻って休みたいと言う気持ちも、休ませたいという気持ちも本当だ。本心だ。
「では、改めて後日連絡します。もし、マンツーマンになったとしても勉強は教えれるので、来れる日は連絡してください」
玄関まで来てくれて、尚且つ今後の予定を伝えてくれる。
「分かった。俺だけじゃなくて一色さんも自分の成績を下げないように頑張ってね。杞憂だろうけど」
「いえ、そんなことないです。励みますよ」
受け取り方も謙虚だ。
「じゃまた」
そんな一色に手を振って、要件を淡々と済ませた遥は、疲れを身に感じることもなく隣の自室に戻った。
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