意外と聞けてる?

 これで本題に入る前の話題は終わりだ。だからこれからは、九重の時に習ったようにしれっと聞くことが求められる。もちろん、そんな才能なんてこれっぽっちもないが。


 「話は変わるけど、あれから何か進捗あった?恋について」


 違和感のないように、前教えてくれたこの学校に通うことを決めた理由の1つを上手いこと使って問うた。


 「あぁ、それですか。残念ですけど、今はまだ」


 「やっぱりそう簡単に見つかる相手じゃないか。友達とかも、相性に関してはまだ分かったりしてない?」


 「はい。皆さん優しいですし、私と仲良くしてくれる良い人たちですけど、この人だって思うことはないです」


 明確な基準がないからこそ、自分にとってこの人だと判然とする人が相性の良い相手となる。それを見つけられたか否か、とても簡単に分かるからこそ、聡明な一色がまだ見つけられていないと言うことは、友人たちではないことは確かなことだと分かる。


 「そう簡単に見つかっても、この学校に通う意味もそんなものかと思うし、まだ見つからないのが普通なのかもね」


 「若しくは、私がただ鈍感や理想が高いだけで気づけてないだけか」


 その言葉、遥には刺さるくらいに共感しかない。


 「気づけてないって思う理由は?」


 「この人が私の相手かもしれないと思うことはなかったんです。複数の人と関わって、他クラスの人とも相性指令によって接しても。でも、誰と関わっても新鮮で楽しくて、常に心は嬉々とするばかりなんです。私の理想や鈍感が関係して、相手を見失っているかもと、そう思うことは最近増えましたね」


 「なるほど」


 感情が豊かで、誰も彼もがその中の幸せだけを満たしてくれるから、もしかするとその中に最も距離の近い相手が居るのではないかと思った、と。

 

 「なら、関わる人のことは皆、好印象ってこと?」


 「はい。六辻さんから始まって今まで、関わった人は全員私にとって優しくて良い人でした」


 「そっか。それはありがたい」


 素直に受け取る。一色は嘘をつかないから、その言葉に裏があるとは微塵も思わない。たとえ嘘をつかれたとしても、それは一色が必要だと判断したこと。悪いこととは思えない。


 「その中で上位の好印象な人は居ないの?」


 順調に自然に進める。一色は気づいていなさそうだから、グイグイと。


 「上位……思いつくのはやはり六辻さんでしょうか」


 「俺?」


 「はい。六辻さんは感情が乏しいですけど、だからこそ全てに正直に答えてくれて、不審感もなく信じられる人なので、そういう面では好印象です。私どうしても人には裏があるんじゃないかと思ってて、それが理由で人を信じることって大切だと思うんです。なので、六辻さんはその点問題が皆無なので一番ですね」


 「高評価なんだね」


 「稀に見る素直な人ですから」


 これまた予想外。好印象を持たれていても関わることも少ないからそこまでと思っていたが、実は最も高い位置に居たとは。しかも俯瞰する立場なのに、一色と七宮の関係に干渉する可能性がある立場になるなんて、厄介なことにならないことを願うばかりだ。


 「まぁ、ありがたいことを言われたけど、俺と一色さんは多分高確率で相性の良い相手ではないと思う。だから、その次くらいの人はどう?」


 遥からすれば絶対に違うことは明らか。それでも自分に相性の良い相手がいないことを吐露することはしないから、濁して対応した。


 「次は……三組の人ですかね」


 「三組?クラス飛んだね」


 ここでやっと希望の光が見えた気がした。


 「僅差ですけど、その人は他の人と比べて素で話してくれる気がしているので」


 「へぇ、結構良い感じじゃないの?」


 「最近はよく図書室で会います。初めて会ってから、窮屈感のない会話ができて楽なので、私的にも可能性はあると思ってます」


 詮索はしない。しないが、図書室というワードは一歩七宮という答えに辿り着いたのではなかろうか。図書室の利用率はどこのクラスも低い。第一学年は最も高いが、それでも一桁が常にキープされているくらいらしい。


 そんなとこに行って、初対面図書室の三組生徒。七宮の確率は大だ。


 「その人だと、今後の苦労が減ったりしてより楽しめるね」


 「ですね」


 若干の微笑みがあった。そうなることを願っているような、含みのある笑顔が。


 「でもまぁ、私から会話をすることは苦手なので、その性格と合う人じゃないと違う可能性も高まりますね。それこそ、私に恋とは何か教えてくれる人のように積極的なら、それに越したことはないないんですけど」


 「それは分かる。受け身の方が楽だもんね」


 「間違えもないですし」


 一色は自分に積極的にアプローチする人が好み。それを無意識にする人が良いのだろうが、たとえ意識的にしたとしても、見合った努力の結果で積極的になったのなら、それは一色だって受け入れるだけの内容にはなるだろう。


 内気っぽい惰弱と自負する七宮に、積極的なんて似合わない言葉が求められるが、きっと七宮ならば努力で越えられる。そう、信じて聞いたことを伝えることにする。


 「六辻さんはどうです?成長だったり、誰かこの人となら今後も付き合えるという人は見つけられましたか?」


 主導権は一色に渡されるが、もう必要条件は満たしたので次は答える側に移るとする。

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