大人しいとクールビューティ

 「ということで、退学関係により忙しくなるので、1時間目は自習です。今からチームとなる人たちを発表するので、隣に注意されないよう歓談して顔合わせをしてください」


 突発的な案だが、予想外の展開に流石の学校側も処理が追いつかないのだろう。これから更に新たな199人の相性指令をAIと共に考えるだろうし、イベントや授業内容だって逼迫しているだろうから。


 教員といっても、幽玄高校はブラックだったりするのだろうか。


 そんなことを遥が考えている中で、風早は朝のホームルームを使って全組み合わせを淡々と言った。それから退出すると、次第に分けられたチームが1つの場所に集結する。


 1時間目の授業の始まりだ。


 「やぁやぁ、なんとも見慣れた顔が多いこと。席順は意外と相性が良い人同士集まってるのかな?」


 それぞれ集まった6人の生徒。総合して運動能力が高いチームと言えるのだろう。真っ先に話した八雲は、メンバーを見て遥も思っていたことを口にした。


 「知らね。でも楽しめそうではあるな」


 それに反応したのは八雲の隣の席である九重。顔見知りであれば、八雲に対する少し冷ための対応も納得する。


 「取り敢えずはじめましてもいるから自己紹介から?」


 初対面でも臆せず陽気に話しかけてくることから察していたが、コミュニケーション能力が高次である八雲がやはり中心となるらしい。遥にとっても助かる提案だ。それに対して皆、頷くことで承諾する。そして先陣を切るのも八雲だ。


 「それじゃ私から。名前は八雲佳奈。最近は外出して幽玄について知ることが趣味かな。部屋では常にゴロゴロしてる暇多い女でーす。よろしく」


 ピースして陽キャという言葉の似合う生徒だとアピール。


 「時計回りにいこうか」


 「なら俺か。九重優斗だ。特にこれといった趣味はないが、好きなことは音楽聴くことと動画見ることだな」


 「一瀬逢。行ったことない幽玄の場所を散策することが今のとこ趣味かな。運動は普通くらいだから、当日は楽しむこと重視で頑張るよ。よろしくお願いします」


 ペコッと一礼する。それを見て終わったと確認すると、次は遥の番だと口を開く。


 「六辻遥です。趣味は……今のとこ何もないかな。マイペースだから、そこは理解してくれると助かる。よろしく」


 過去のことを思い出して、それでも趣味なんてないな、と寂しい幽玄高校入学から今までを振り返る。けれど今は慣れる期間と思えば些細なことだ。イベントも始まって入学から二週間もそろそろだ。本格的に幽玄高校の内側を知ることになるのだから、そのうち趣味も出てくるだろうと、あくまで受け身でいた。


 そんなことを思いつつ、ようやく回った残る2人。共にはじめましてだが視界に入れたことはある。先に自己紹介するのは、隣の男子生徒の方だ。


 「どうも。星中恋斗ほしなかれんとです。中学が退屈だったから面白そうな幽玄高校を選んで、偶然入学できただけの無知に近い知識しかないから、色々と教えてくれるとありがたい」


 気弱そうでもしっかり者という感じがする。他人と騒ぎ続けて教員に怒られる生徒には見えないが、人見知りの可能性もあるから何とも言えない。ただ、遥と似た静かな性格そうなのは正解だと、シンパシーを感じて思っていた。


 「最後は私か」


 そして最も遥が気にした生徒に回った。若干の紫髪をポニーテールに結った、陽気陰気どちらも窺える胡乱な生徒。


 「私は桜羽優さくらばゆう。流れ的に趣味を言うんだろうが、残念ながら今は見つけられていないからなしだ。それと、八雲、九重、一瀬、六辻、星中と呼ばせてもらうが、私を除いてその5人は席が近くで私だけ除け者扱いされている気分になる。良ければ私も早く打ち解けたい。よろしく頼む」


 淡々と自己紹介を終えると、ニコッと自分の顔面を知り尽くしたように綻ばせた。


 そんな桜羽だが、言うように席は廊下側の最前列。つまり遥と真逆に座っていることになり、星中は九重の前なので、1人だけ遠くからやって来た孤独感があったのだろう。その気持ち、分からないこともない遥は密かに共感していた。


 「ということで、一旦自己紹介終わり。なんだけどさ!優ちゃんって染めてるの?その髪」


 終わると同時に、身を乗り出して目の前に座る桜羽に問いをかける。勢いは凄まじく、隣に座る九重も「うおっ」と一言呟いたくらいだ。しかし桜羽は気にした様子もなく答える。


 「うん。紫が好きだから。それと、優でいい」


 「分かった。優って呼ぶ」


 「ははっ。ありがとう」


 人は桜羽のことをクールビューティとでも言うのだろう。女々しさはなくて、可愛いというよりかはカッコイイ。見た目に関しても雰囲気に関しても一目見て、大人だな、と思えるそれは、一瀬や八雲、それこそ一色とは真逆のオーラを感じる。


 接し方がフランクな八雲の勢いに咲かせる笑みも爽やかで、遥の感受性では可愛いとは感じなかった。


 ちなみに髪色は二色までなら染めて自由なので、校則に触れることは一切ない。


 「このメンバーで6人ってことは、それだけ運動得意ってこと?」


 右手は垂らして、左手は机の上に置いた一瀬が全員に問うた。誰が答えてもいいように。


 「俺と星中は得意な方だな」


 それに答えたのは九重。やはり前の席なだけあって、星中とは既に友人のようだ。

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