退学者と記録更新中の学年
慎也のアドバイスは正しい。遥はなるべく楽をして学校生活を過ごし、その結果楽に感情を取り戻して成長という一石二鳥を考えていた。だが先日一瀬が被害を受けるという形でその考えは改めさせられた。時に西園寺のような存在を捨てることも、邪魔を淘汰するとして必要だと考え直していたところだ。
「そのつもりでいます」
「だろうな。しかし、常に逼迫することもない。自分が最優先なのは人間誰しもそうであるように、そう思っていていい。必要な時に他人を優先するのが賢い生き方というやつだ」
「肝に銘じます」
今回はごく稀に起こる犯罪が入学早々近くで起きただけ。普通は頻繁に誰かが襲われるなんてことは起きないし、起こる組み合わせをされない。だから先に貴重な経験をできたことに、一瀬の安否関係なく感謝する。
「それでは、君の謎も解けたなら戻るといい」
そう言って帰宅を促す慎也に、しかし遥は待ったをかける。
「すみません。最後に1つ聞きたいことがあるんですが」
「なんだ?」
「友達から聞いた話では、卒業時の相性の良い相手を見つけたか問うアンケートで、99%がはいと答えたらしいですが、100%ではないんですか?」
元々聞きたかったことだ。今回偶然聞く機会があったから問うた。99%ならば一組の相性が紡がれなかったということだが、そんな稀有なパターンはあるのかと、遥と同じ誰とも相性の良くない生徒が居ないのか知るためにも聞きたかった。
「そんなことか。理由は単純で、甘えさせないためだ」
「甘えさせない?」
「100%――つまり絶対という事実を見せてしまえば、人は努力を怠る。勝負でもそうだ。残り時間10秒で100対0のバスケの勝負は、既に絶対なる勝ちが決まっている。だから試合中でも負けを認めて相手と味方を称え合うように、人は絶対に安堵感を覚えて危機感を消すものだ。それと同じだ。絶対見つけられると安堵されては成長に何も繋がりはしない。だから100%にしていないんだ」
「なるほど。では実際は100%なんですか?」
「それは教えられないな。君が卒業する時に、どうだったかなと今を思い出して答えを出せば良いのではないか?」
「それもそうですね」
卒業。そこまで辿り着けるか心配ではある。
「ちなみに、毎年退学者は何名出ているんですか?」
「各学年平均を言うなら2人か3人だな。まぁ、今年は知らないがな」
遥を見て、お前がその渦中に居て退学させるか否かを決めているんだとも言いたげな表情だ。確かにそうなのかもしれない。遥は自分で言ったことが他人にどう思われるかを知らない。所謂無神経だったり、ノンデリカシーという言葉の似合う生徒だ。その結果人を不快にさせることも多くあるだろう。それが起点となって騒動が激発とならなければ良いが。
「既に1人出たのだから、今後増えるかどうかが見どころか」
「えっ……西園寺ですか?」
驚いたように目を見開いた。まだ西園寺も在学して、共に卒業まで成長する仲間として時間を過ごすと思っていたから。
「何をそんなに驚く。人を刺したんだぞ?退学以外に残された選択肢はない」
「そうですか」
けれど悲しみはしない。それを持たないから。
「ちなみに最大の退学者数は11人だ」
「……そんなに」
「現在の第二学年が更新中だ」
「……は?」
流れるように驚愕した。3年間過ごしての結果でなく、1年と少しだけの結果で現在更新中とは、当然信じられなかったから。
「中々昨年の新入生は活発でな。毎年誰かしら学年に大嵐を運ぶ者を呼ぶが、昨年は少し予想外にも選抜を失敗した結果、大勢の退学者を出している。詳細は教えないが、とにかく大変だ。1年遅く生まれたことを……いや、君にそれは失礼極まりないな」
過去を聞いたからこそ、言い淀んだことに納得する。しかし今だからそんなことはどうでもいい。今はただ、問題児と呼べる存在が多く居るのか、それともサークルクラッシャーのような密かに場を乱して破壊する存在が1人だけ居るのか、それが気になった。
けれど聞かない。関係がないだろうということと、関わったとして初めて知ることの方が今後その時の自分がどう動くことが最善かを考える試練にもなるだろうから。
「なんにせよ、君はそんな学年と関わることはある。若しくは関わられることもある。今回は自分ではない生徒に被害があったが、次は自分かもしれない。まぁ、そんな怯えて生きることはないが、相性指令によって導かれる先に不幸がないと思うことは避けた方がいいかもしれないな」
「そのつもりです。元々いいことだらけの生活を過ごそうなんて思ってないですから」
「そうか」
まだまだ冷酷。酷薄であり排他的な性格。それは未だ六辻遥の根底にある性格で、変えようのない人格形成の1つ。それを今後どう活用して成長に繋げるかは、自分次第。選択は自分しかできないのだから。
「では、色々とありがとうございました。俺はここで失礼します」
「ああ。今後も何かあれば私に連絡してくれて構わない。楽しい学校生活を送れるようにな」
「はい」
そうして慎也との会話を終えた遥は考えを改めると同時に、これからの学校生活で、先に起こるだろうことを予測することも視野に過ごそうと決然していた。
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