誰にだって可能性は平等にあるべきだ

 後日、理事長室へ足を運んでいた遥は、慎也と2人で向き合って様々なことを聞きたいからと問いをかけた。


 「今回の件、仕組まれたことだったんですか?」


 相性を合わせるには、人の些細なことまで知る必要がある。その上で誰と誰が組み合わせとして成立するかを見分けるのだから。ということは、その時点で西園寺の性格については網羅していたと言っても過言ではないはず。


 それなのに何故、西園寺を放置したのか、それらが気になって問うたのだ。


 すると慎也は至極真顔で真剣に言う。


 「全く仕組まれていない。ただ西園寺尊という生徒が自分の考えに沿って動いただけ。私たちは何度も言うように、生徒間の諍いや恋愛などに干渉は特例なしで一切しない。その手助けをするだけだ。だからこの結果も、西園寺くんが自分の意思で起こしただけの事件だ」


 「でも、この事件は阻止できたのでは?誰かを傷つける生徒だと、予め把握可能な情報はあったんじゃないんですか?」


 「確かにあった。元々西園寺くんは自己中心的な考えを強く持ち、気に入らないことは全て淘汰して生きてきた所謂問題児だからな」


 「では何故?」


 阻止しなかったのか。


 「西園寺くんが誰に好意を抱いて、誰に嫉妬して執着して、誰を傷つけるかその答えを推測することは不可能だからだ。分かるだろう?自己中心的な存在でも、相手は選ぶ。好きになる基準はあってそれに当てはまったのが偶然一瀬くんだっただけだ」


 「ならば尚更、相性で調べられたのでは?」


 近づけないようにしたり、同じクラスから除外したり、西園寺の好意の対象になる存在を除けなかったのか、と。


 「無理だ。西園寺くんの動向の予測は不可能だからな。聞いた通り、好きという言葉を自分に言われたと勘違いしたから執着した。そんな人間が、一瀬くんだから執着したと思うかい?残念ながら違う。自分を認めてくれる生徒が中学の頃居なかった西園寺くんは、高校に入って強まった承認欲求がついに開花した。その結果、誰でもいいから自分を認めてくれた人に付きまとうことを決めたんだ。結局、誰でも良かった好意の範囲に、一瀬くんが入っただけ。誰だろうと同じ未来は辿っていたさ」


 遥の知る自尊心の塊や、自己中心的な人物とは違った存在。認められたい欲求が強まって人を傷つけるまで至った狂人は、どの道助けることはできず、攻撃を未然に防ぐことも無理だったというわけだ。


 「皆、可能性は平等に与えられるべきだ。西園寺くんのような人間を幽玄に入れるのは間違っていると言いたいのは分かるが、君もそうであるように、過去に悲しい人生を歩んだ西園寺くんにもまた、チャンスを与えたかっただけだ。だから恨むことは良くない」


 遥の思いを汲み取ったように納得させようと言った。それはよく伝わっていて、確かに自分もその待遇を受けて学校に通っているんだと理解する。


 慎也の、子供に対する優しさはやはり大きくて、学生という最も成長する期間をどれだけ大切に生きて欲しいかも伝わってくる。それに応えるのも、入学を許された者としての務めなのかもしれない。


 「安心するんだ。このようなことは二度と起こらないよう気をつける。今回は入学生の歴代最速の事件だったが、それなりに今後の役に立つからな。そして君についても少し知れた」


 「俺について?」


 「今回の事件、君も関わっているのは偶然か必然か。早速君という存在が干渉した結果、相性に変化が起こりつつあることもまた、偶然か必然か」


 「……俺が居なければ、一瀬さんは被害を受けなかったということですか?」


 「違う。そもそも西園寺くんが一瀬くんに好意を抱いた理由に君は無関係だ。そして一瀬くんから君に話しかけ始めたのだから、どの道西園寺くんが一瀬くんの隣の席の男子に不満を持つことは避けられない。そしてこの結果もな」


 遥が動いたことで未来は然程変化ない。遥だったから最小限で済んだのかもしれないし、逆の可能性もある。言えることは今起きたことが結果ということ。たらればなんて、考えても意味は無い。


 「私が言いたいのは、君が干渉したことが私たちの予想通りにいかないということが分かったということだ。西園寺くんは何人もの生徒に関わって、その中で相性の良い友人を見つける予定だった。だがそれが書き換えられた。良くも悪くも、君の干渉は予測を予測にしてくれるらしいな」


 「悪いことしてる気分ですね」


 「そんなことはない」


 「それを聞くと1つ、また新しい疑問が浮かぶんですが」


 「杞憂だ。西園寺くんの相手もまた、自己中心的な似た性格と思っているのだろうが、全くそんな性格ではない」


 同じではなく、逆転の発想というやつか。凸凹の組み合わせで嵌めて仲を深めるタイプだろう。それならば西園寺と関わったことを申し訳なく思うが、自分と関わったことも運命であり、鋭利な武器を人に向けて突き刺したことは人として許されることではないので、内に秘めたその悪辣を今後出さないよう教訓にして過ごしてほしいものだ。


 「とにかく、この件は君の干渉の結果の1つだ。絶対に成長する確約はしたが、上手く安全に楽に成長する確約はしていない。今後このようなことも経て、誰かを不幸にしてでも手に入れるべきことは無数にある。考えて行動し、バタフライエフェクトを成功させ、自らの意思で感情を取り戻せ。決して茨の道以外だけを歩くことを考えずにな」

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