それはないでしょ……
入学式からカウントすると2回目の土日が来た。週初めではあんなにも怯えて面倒から避けようとしたのが現実とは思えないくらい、西園寺は一瀬に接近することはなかった。
基本八雲と一緒だったから、八雲の覇気に負けて接近を止めたのなら友人として居てくれることに感謝しかないが、どこか余裕がある様子でもあった。
しかし、そんなことは今ではどうだっていい。八雲が隣に居れば、多少の面倒は回避可能ということを知ったのだから。そして今は土日。休暇として心身を癒すことに注力できる。
だから一瀬は外出する気もなく、寝巻きそのままに怠惰を極めていた。
けれどそんなこと、運命の神様は許してはくれない。もう既に聞き慣れて、同時に嫌いになったインターホンの音が鳴り響いた。誰とも約束はしていないのなら、休日の連絡なしの訪問は1人に絞られた。
「……マジか……外出かな」
その可能性を考えて、見られることも好ましくないので、寝巻きから最速で着替えてインターホンに出ると、全く嬉しくない大正解を引き当てる。
「はい?」
『やぁ。少し話したいことがあるから、一緒にショッピングモールに行かない?』
西園寺尊。現在接触したくないランキング一位であり、ランキングに入っている唯一の人でもある。
「えぇっと、今から1人でゆっくり過ごそうと思ってて……」
『それなら僕と過ごそう。その方が一瀬も良いんじゃないか?』
カッコよくも何も響かない言葉に、当然感化されることはない。ただ相変わらずだな、なんて思うだけで、優れない気分を無理に上げようともしない。
「1人になりたい時もあるでしょ?」
『あるけど、そんなに照れなくても、僕は少しショッピングモールで買い物しながら会話したいだけだ。付き合ってくれても良いだろう?』
引き下がることを許してくれない。これ以上は刺激となるだろうから、若干の畏怖を覚える一瀬は、諦めることにした。
「分かった。 少し待ってて」
西園寺の反応を聞かず消すと、一気に疲れを感じる。これに加わる疲れがあると思うだけで、今すぐ熱を出したいと考える。休日を奪うのだけは止めてほしかった。
「大嫌いだよ」
伝えたくても伝えられない。不運にも変人の好意に触れてしまった対象者として、それは幽玄高校の狙いかと気になる。未だ相性指令は出されないが、もう既に出されている気分なのはきっと一瀬だけだろう。
それから簡単に持ち物を確認し、スマホだけを持った一瀬は部屋を出た。
「お待たせ。ショッピングモール行くだけ?」
「そのつもり。その後一瀬も喜ぶことがあると思う」
「それは楽しみ」
(君のいない休日が私の唯一の喜ぶことなんだけどね)
心に秘めた思いは日曜日に絶対使うと決め、今回は気分的にも乗り気ではないが、これも今後の何かの幸せに繋がると信じてショッピングモールへ向かった。
部屋を出たのは13時過ぎ。エレベーターを降りれば寮には人の行き来が激しくて多く目に映った。誰も彼も青春謳歌に必死ではなく、大半がスマホ片手に相性指令に向かっている様子だ。飽きないことは良くても、時々の休暇は欲しいと思いつつ、1人だけで楽しげな西園寺について行く。
それからは一瀬の覚えてる限り、地獄と比喩しても変ではない関係を築き続けた。一階でスイーツを食べたり、二階のゲームセンターでぬいぐるみを取ろうとして取れなかったり。それはもう、楽しいの欠片なんてなくて、時間の無駄だった。
時間は経過し、夕刻。次はどこに行くのか気になることもなくなって、他人の目も気にすることもなくなった一瀬は、六辻のように感情を失ったのか疑いたいほど悄然としていた。
階段だけを淡々と歩く。上に上に。
そして止まったのは、何故エレベーターではないんだろうと思った瞬間のこと。人気のない階段の屋上へ繋がる最上階だろうか。これより上は存在しない場所で、西園寺は静かに足を止めた。
(これ……ヤバい気がする……)
第六感がそう言っていた。一瀬の体を引き返そうと脳は四肢に伝達をした。けれど、不自然にも動いて見せれば、それは西園寺の逆鱗に触れることになると、何故かその時、一瀬は最悪の状況になることを未来視したように考えた。
振り向く西園寺。何を言われてもいいよう覚悟を決めた。
「結構疲れたな。デートも初めてしたが、案外楽しい」
「……デートね」
ボソッと聞こえないよう違うだろうと否定する。
「ここってどこ?なんでここに来たの?」
「一瀬の部屋を出る時に言っただろ?喜ぶことがあるって」
「あぁ……なるほど?それがこれ?」
「そう」
意味が分からない。人気のない場所に連れてくること。それが喜びと受け取られるような言動はした覚えがない。そんなマニアックなことを好む性格でもない。なら何故?全く読めない。西園寺のこれからしたいことが。
そんな理解に苦しむ一瀬に、次第に顔色の良くなる西園寺は深呼吸をして言う。
「多分、言わなくても伝わってるだろうし、もうそんな関係なんだろうけど……よし!」
微笑みつつ言った決然を感じるそれは、次の瞬間、一瀬に理解させた。
「一瀬――俺と付き合ってくれ」
最も恐れて、六辻からもまだ先だと言われた究極の選択を、たった今から迫られるということを。
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