第15話 転生と母

僕らは、母上の後ろをついていく。

行先は、わからない。

「シンくん、行先がわからないっておもってる?」

「え、思ってます」

「屋敷の中の事は二人も大体は把握してるとは思うけど。

ちょっと特殊な部屋があるの。

この先は、内緒ね。しばらくはしっかりわたしに付いてきて」

なるほど、隠し部屋。それも特殊な仕掛けがある部屋なのだろう。

僕らは、静かに母上の動きを真似ながらついていく。

やがて、深紅の扉が見えてきた。

母上は、手を翳し何らかの魔法を使って中に入っていった。

僕らもその後を追って中へと入る。

すると、扉の鍵が閉められる。

振り返ると鍵穴も錠も見当たらない。

「どの扉は、魔法錠になっているのよ」

「魔法錠」。知らない単語だ。

でも、なんとなくわかる。

魔法による特殊な「鍵」のようなものでしか開けることができない。

そんな部屋なのだろう。

「遮音結界も張ってあるから機密も守られるわ」

かなり特殊な部屋なのは分かった。

「二人共全く驚かないのね。

私がお腹を痛めて産んだ子だからわかるけれど、貴方たちはだれなのかしら?」

「母上、それはどういう意味ですか?」

母上は、笑みを浮かべた。

たぶん、気づかれてる。

「転生」

「「えっ」」

僕とリサは、声を揃えていた。

「リクには、言わないから大丈夫よ」

僕は、リサを見る。彼女も僕を見ていた。

「あそこにはね、転生の本は一冊もないのよ。

だから、二人の反応でわかったわ」

これは、敵わないと思った。

母上は、かなり聡い人だと。

さすが、宮廷魔導士。

「兄さん」

「母さん、あまり面白い話はないですよ」

「あらあら、母上とは呼んでくれないのね。

でも、母さんっていいわね。普通の家族みたいで好きよ」

母さんは、笑みを浮かべていた。

とても、愛らしい笑顔だ。

「はぁ、僕らは前世でも兄妹だったんだよ。

事故に遭いそうになった璃紗を助けようと思って、代わりに僕が事故に遭って前世の僕は死んだんだ」

「私は、新太郎お兄ちゃんに守ってもらったけど・・・その時の衝撃が強すぎて結局次の日には死んじゃった」

母さんは、手を合わせるようなポーズを取りながら聞いていた。

合掌というか、まあまあといういつもの感じ。

「死ぬ直前に璃紗への想いだけは手放したくなくてずっと」

「私、お兄ちゃんへの想いだけは忘れたくなくてずっと」

「「愛してるっていかないでと願ってた」」

僕らの声が重なった。

死ぬ直前まで同じことを思っていたんだと知った。

「あらあら、願い続けて世界を越えて双子に生まれてきたのね。

もっと、二人の事教えて。

あ、お茶もお菓子もなかったわね」

母さんは、収納魔法で紅茶とクッキーを取り出していた。

収納魔法に、食べ物か・・・その手があったか。

「といっても、前世では両親が幼い頃に亡くなって二人で生活してたことくらいしか」

「あとは、二人共読書が好きでよく学校の図書室や図書館で日がな一日読書デートはしてたね」

「ああ、たしかに。よくいったね。

でも、前世の記憶は璃紗の記憶しかないんだよね」

「うん、私も新太郎お兄ちゃんのことしか覚えてないかな」

「あら、そうすると転生時の加護とかももらってないの?」

加護?たしかに、そういう物は何もない。

それにしても、転生にそんなものが与えられるのか。

「いままでの転生者ってね、言ってみればチートって言われてるみたいよ。

バランスを崩すような不正を働くような人たちの事ね。

あたかも英雄の様に、革命家のような人たちが多くて。

転生者が出るだけで、かなり大変なことになるの。

「知識の環」の隠ぺい魔法は看破スキルでみえちゃってるからね」

あ、それでバレたのか。

隠ぺいをしてもバレてたし、見せてもバレていたってことか。

「それにしても、名前はそっくりだったのね。

新太郎がシンくん、璃奈がリナちゃんね。

そして、前日にリクが持ち帰った遺跡の装飾品。

たぶん、二人が私の元に来たのは運命だったのね」

優しい笑みを浮かべる母さん。

「三歳児から婚約者にしたいなんて言葉、普通は出ないものよ。

私だって、10歳頃だったもの。

16歳で貴方たちを産んで・・・。

三歳で未来をしっかり見るのはきっと大変だけど、中身だけを見たら私とは同年代なのね。

不思議な感じだわ」

「母さん、たしかに僕たちは前世の記憶が少しだけあるけど。

母さんの子供で間違いないよ」

「ええ、そうねそうね。二人共これからもよろしくね」

「はい、母上」「はい、お母様」

僕らの関係は、少しばかり複雑ではある。

でも、確実なことはある。

「母さん、僕らは前世の両親の記憶は元からありません。

だから、僕らにとって母さんはシア母さんだけなんですよ」

僕らは、テーブルを両サイドから母さんへ歩み抱きしめた。

「あらあら、じゃあしっかり母の愛を捧げなきゃですね」

そういう母さんの頬は赤くなっていた。

ホント、可愛らしい。母さんだ。

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