こちら、裏政府直轄組織【ヤハタ】

タルタルソース柱島

また、俺の髪の毛がむしられた

「―――いいわけなら聞こう」

「え、へっへへへ」

別に立ち聞きするわけじゃなかった。

 けれど、耳に入ってしまったものは仕方がない。


 仏頂面で腕組みをしている女がアサベ班長。

 鬼神などというかわいそうなあだ名がついている。


 その前で愛想笑いを浮かべる女は、新人のミカミだ。

 小動物、リスっぽいと言われる彼女は、天然でも入っているのだろうか。

 どうにもそそっかしく、ミスを頻発する。


「ミカミ、なんかやったの?」

「いや知らん」

俺に囁くように尋ねる優男は、相棒のジュン。

 俺もたまたま通りかかっただけだ。

「いいわけ、ねぇ」

なんかやらかしたんだろうな。

 俺は目をそらすとジュンのキレイな前髪が目に留まる。


 ジュンのこだわりで6対4で前髪を分けているのだ。


「いいわけ具合じゃねえか」

「お! 普段ほめないダイドーがデレた!?」

ジュンの顔がぱっと明るくなる。

「デレてねえよ」

俺は相棒の肩を小突く。


「いや、だからね! このスーツはキミの任務にもってこい! とってもいいわけよ!」

「スーツってハイレグレオタードじゃないですか!!」

衝立の向こうからは男女の口論が聞こえる。

 確か、科学者バードンのラボがあったはずだ。


「イーーーーヤーーーーーですーーーーーー!!! そんなの!!」

叫んでいるのは、くノ一課のシラトリだろう。

 ここは、見事なプロポーションの彼女に新型スーツを勧める科学者(バカ)だらけだ。

「いやいや! シラトリ君が着ている“履いているのかよく分からないくノ一装束3号”、アレより防弾性が良いんだって!!」

「防弾性が良くても!! 見た目!! こんな切れ込みいっぱいのが、いいわけないです!!!」

「ま、待ってくれ、ここを押すと電磁バリアが―――」




 裏政府直轄組織【ヤハタ】。

 表立って処分できない厄介ごとの対応をする秘密組織だ。

 現代の忍者組織だとか陰陽組織とか言われている。



「ダイドー、仕事いこ!」

「へいへい。仕方ねぇ」

ぎゃいぎゃい賑やかなオフィスをあとにした俺たちは、タブレットで任務を確認する。

「ブレードよし、銃よしっと。ダイドー、準備できてる?」

ジュンがブーツのジッパーを上げながら尋ねる。


 近代忍者は、高周波ブレードを振るい、シルバーチタンの銃弾をぶち込む。

 手裏剣なんて高価なものは使わない。

「・・・・・・あ、弾切れかよ」

愛銃・白虎の残弾を確認してからボヤいた。

 消耗品は経費で落ちるが、一旦立て替えないといけない。



 そして、いま金欠だ。


「仕方ねぇ・・・・・・ババアんとこ行くか」

「今度は何を請求されるのかな?」

かわいそうに、という顔をして、首をすくめながらジュンがついてくる。



「あらあらぁあん? どうしたのダイドーちゅわん」

ババアこと河童の干物がへし折れそうな体をくねらせた。

 まごうことなき河童の干物だ。例えではない。


「銃弾切れだ。ババア、予備をくれ」

遠い昔、大妖怪だったが、過行く時には勝てず、今や干物だ。


「いいわ、毛と交換したげる」


 干物の頭部に俺の毛が植えてある。

 それはそれは、まるで田んぼのような見た目だ。

「また、髪の毛か・・・・・・」

いろいろなストレスで胃がキリキリ痛む。

 ババアが俺の髪の毛を伐採していく。


 早いところ辞める言い訳を考えなければならないな。ハゲる前に。


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