あくまで悪魔

富升針清

第1話

「あら、兄弟。今日は直帰じゃなかったのか?」

「ああ、兄弟。その予定だったんだが、取り急ぎ上司に確認してもらう書類が出来てね。今し方終わって帰るところさ」


 髭の男の問いに、シルクハットの男がため息混じりに答えた。


「最近忙しそうだね」

「冬になるからかな。一時的に増える死者の受け入れ設備の件で明日も天使達と打ち合わせだ」

「経理なのに?」

「経理だけで行くわけないだろ。君のところからも人が来るぞ」

「ファウストく〜ん、だろ?」

「似てないモノマネありがとう。何よりも伝わらなかったよ。しかし、君より優秀でとても助かる」

「あ、本当? で、私は誰と比べて優秀なのかしら?」

「君の格下に心当たりがないんだが?」

「メフィストフェレスと戦ったら私が圧勝。片腕だけで捻り潰せるぜ」

「仕事のノルマの勝負でもしたのかい?」

「あらやだ。か弱い私に何をさせようって言うの? 男性の方って本当野蛮っ」

「野蛮の中の野蛮な悪魔がしなを作るな」

「いや、私の営業成績が負けてるってわけじゃないんだよ。言い訳聞いてくれる?」

「言い訳でいいの? 言い訳だぞ? 訂正とか補足とかではなく、言い訳だぞ?」

「おもしろいね、それギャグってやつ? 言い訳でいいわけって」

「流石に軽蔑対象だよ、兄弟。それはいけない」

「お別科で言ったのに!」

「こんなに心が動かないお別科は初めてだ」

「初体験に心震えた?」

「怒りに拳が震えそうだ」

「暴力は何事にも良くないぞぅ? あんたは今すっごい疲れてて、イライラしてんじゃない? チョコ食べる?」

「君の人肌が残るチョコはいらない」

「悪魔肌だから大丈夫」

「温もりがあるチョコレートは宗教上食べてれないんだよ」

「それは残念。どんな宗教入ってるの?」

「君にチョコレート及び温度で溶ける系の食べ物は一切合切受け取らないし食べない宗教」

「信仰内容が宗教名になるなんて珍しい!」

「教祖が効率を重視する頭脳型悪魔なんだよ」

「流石に言い訳がすぎる」

「言い訳じゃないよ」

「改宗しない? 私にネトフリ観せる教に。いいでしょ?」

「いいわけあるか」

「矢張り、君が言い訳といいわけかけてるじゃんか!」

「言わせようとしてる魂胆が駄目」

「冤罪だ」

「冤罪の意味を辞書で引いた方がいいよ。さて、それじゃ帰るから。お疲れ様」

「え、帰るの? 成る程、お後がよろしい様でってこと?」

「後ろが控えてる奴がいるわけないだろ? 私が持ち堪えなきゃ、徹夜続きの天使たちがラッパを手当たり次第吹き始めるんだからな。まったく、冗談じゃない。いいわけないだろ。あの天使たちときたら……」


 シルクハットの男が小言を呟きながら立ち去ると、髭の男が首を捻る。


「悪魔的にはいいわけじゃない? それこそ、阻止する言い訳を言わなくていいわけ?」




 お後がよろしい様で。


お付き合いありがとうございましたー!

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