第43話 本番に向けて

「試合ですか。ワタクシたちはまだ一度もチーム内で練習をしたこともないですのに。いきなり試合となると……」


 言葉を詰まらせ、咲島さきじまのほうに顔を向ける。


「いいんじゃねえか! やろうぜ! やろうぜ!」


 案の定、沢西さわにしはやる気満々だった。


 私の隣では、このチームでリーダー的存在の咲島が顎に手を当てて、うーんと唸っている。そして、ついに答えが出たのか彼女が口を開く。


「思ってたよりもいきなりだけど、……私たち対相手チームででできる機会もそうそうないし、みんながよければやったほうがいいと思う」


 咲島のその答えを聞いた者の反応は様々で、沢西に関してはなんかずっと真上に飛び跳ねている。

 私の隣にいる咲島とは逆方向の、私の隣の人に声をかけてみる。


悠斗はるとくんもやってもいいかな、って感じ?」


 悠斗くんは驚きながらこちらに顔を向ける。


「う、うん! 咲島さんの言うとおり、相手と戦えるのは本番以外は中々できるものじゃないと思うし! み、宮森みやもりは?」

「私もやってもいいかなー……」

「となると……姫川ひめかわさんはやっぱりやりたくない感じ~?」


 咲島が姫川さんのほうに訊ねる。

 というか、咲島は私たちの会話聞いてたの!? 恥ずい……。


「……みなさんがやりたいというのなら、ワタクシもやる、とういうことで大丈夫ですわ」


 全員が賛成票に投じたところで、試合をする、という案は無事に可決された。


 ※※


 チームごとに一列に並び、どこからともなく現れた審判によってこの場が仕切られる。


「本番と同じで、各チーム外野が二人、内野は三人。線に関しては赤いコーンを置いたからわかるよね? まあ、ルールは本番と同じね」


 まさかの審判役の人が別でいたなんて。


 列の一番前にいる咲島と相手チームの列の一番前にいる、私たちに試合の提案をしてきた男の子が頷いた。


「では、開始しますね。コインは表と裏どっちがいい? これが表、これが裏ね」


 コ、コイン……。先ほども思ったことだけど、思ってたよりも向こう側のチームが本気っぽくてちょっと怖い。あと、審判がチャラそうで個人的にあまり好きじゃない。


 審判がお互いのチームのリーダー? にコインの絵柄を見せたあとに咲島が即座に答える。


「裏で……」

「じゃあ、僕は表で」


 審判が「おっけー」とだけいい、コインを親指でくいっと空に向けてはじく。それによって高々と上がったコインがある程度の高さまで上がると、今度は地面に向かって急降下してくる。

 その後すぐに、審判の手の甲に着地した。審判がその瞬間にもう片方の手のひらでコインを隠す。


「はい、じゃん! これは表だね。ボールとコート、どっちがいい?」


 覆いかぶせた手を離したあとに、審判はそう発した。


「ボールで」


 相手チームのリーダーがチームメイトに訊ねることもなく答えた。もしかしたら、このことについては事前に話しあっていたのかもしれない。

 咲島がコートを選び、各自が自分のコートに移動する。相手にボールが行き渡ったところで、審判が声を出す。


「始め!」


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