第42話 ドッチボール

「よし。これでみんな揃ったね」


 授業が終わり、教室を出てすぐの廊下でドッチボールのメンバーを集めた咲島さきじまが言い放った。


 前から思っていたけど、咲島のこのグループを仕切る能力がとんでもなく高い。


「今日はたまたま部活と委員会活動、どちらもなくてよかったですわ」


 そんな姫川ひめかわさんの言葉を聞いて、私にはその感覚はわからないな、と思ってしまう。


「そっか。部活がある人もいるんだもんね」


 当たり前の言葉が口をついて出た。


宮森みやもりさんは部活に入りたいとは思わないのですか?」

「ううん。思わないってわけじゃないよ」


 ただ、恥ずかしながら──沙也加さやかといることに私はほとんどすべてを捧げていたから……。

 ──部活という選択肢が私の頭の中にはまったくなかった。

 でも、これは口には出せない。


「私がやりたいような部活がなくって……」


 半分嘘で半分本当のこと。


 その話題から逃れるように次の言葉を紡ぐ。


「とりあえず、行こっか」


 ※※


「チームどうする〜?」


 その咲島の問いに決まって答えたのはやっぱり彼だ。


「グッパーでいいんじゃね!?」


 私も沢西さわにしの意見に賛成の声を上げようとしたけれど、ある考えが私の脳裏をよぎった。


「男の子と女の子だとやっぱり力の差があったりするのかな?」


 私が思っていたことを口に出して言うと、みなが考えこむようにして黙り込む。


「そうだね。ハルの言うとおり、男子と女子だと力の差はありそうだよね。ただ、そのハルが言ってる力っていうのが何を指してるかにもよるけどね!」


 咲島が言ったことも尤もだと思い、私が次の言葉を声に出そうとすると――


「早くやろうぜ~! そんなもん考えたってしかたないだろ! そんなに決まらないんだったら俺が決めちまうぞ!!」


 先程からとても落ち着きのなかった沢西が痺れを切らしたのか、考えていた私たちに早くチームを決めるように促した。


「たしかに。沢西の言ってるとおり、こればっかりは考えるよりも実際にやったほうが早いかもしんない」


 咲島がそう発すると、みな一様に納得したような表情になった。咲島が続けて言葉を述べる。


「じゃあ」

「すいませーん!」


 咲島の『じゃあ』という言葉のあとに、少し遠くから聞き覚えのない人の声が聞こえてきた。その人物は、どうやらこちらに小走りで向かってきているみたい……。


「ふぅ。すいません! これからドッチボールをするんですか?」


 小走りできたからか、少し息の調子を整えてから彼は言った。


「ええ。そうのつもりですけれど……あなたはたしか、クラス委員の方ですわよね?」


 すると、隣にいた沢西が声を荒げた。


「あっ! こんな奴いたかもな――!」


「こんな奴、なんて言ってはダメですわよ。彼に対して失礼です」


 さらりと沢西の言葉遣いを訂正する姫川さんを見て、なんだか頬が緩む。委員会活動のときもこんな感じなんだろうなー、というのがなんとなく予想できた。


「はい、そうです。お二人もクラス委員の方だったんですね。そこで折り入ってお願いなんですが、僕たちとドッチボールの試合をしてくれませんか?」


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