第15話 バーベキュー
「デート?」
私にはさっそく
さっすが沙也加っ!
「おう! どうだ、嬉しいだろ?
すると、今度はパパが突然足を止めた。
「よし。ここら辺にするか」
私がこちらに身体ごと振り向いたパパに一瞬疑問の顔を浮かばせると、
「ここでバーベキューをするってことだ」
「よっしゃー! バーベキュー♪ バーベキュー♪」
思いのほか……とはとても言えないけれど、とにかく沙也加が一番テンションが高かった。
※※
「うまかった~! ホントに今日は誘ってくれてありがとな、遥!」
「全然大丈夫だよ。こちらこそ来てくれてありがとね」
すると、椅子に座って休んでいたママが私たちのほうに飛んできた。
「ねえ、あなたたち。もうそろそろマシュマロでも焼かない?」
「はい! 焼きましょう! いや、焼いちゃいましょう!」
私が答える前に、沙也加がそう返事をした。
「沙也加ちゃんはホントに元気ね! こんなに元気なお友達がいたら遥がこんなに元気になったのも納得だわ~」
――そうだよね。私は今とは比べものにならないくらい沙也加と知り合う前は暗かったもんね。
しかし、沙也加はそんなママの言葉を否定し始める。
「いや、遥もあたしと同じで最初から元気な子だったと思いますよ。ただ、一時期は、その気持ちを他の人と共有するのが苦手だっただけで」
「……そうね」
ママは沙也加からの思いがけない言葉に少し動揺したのか、一瞬の間を挟んだあとに一言だけそう漏らした。
「「……」」
ママと沙也加の間に沈黙が流れる。
私は何か言わなきゃと思い、ママに一つの提案をすることにした。
「ママ! マシュマロを焼くんだったら
「そ、そうね。じゃあ、探しに行ってくるわね!」
それだけを言い、ママはやや駆け足で風くんを探しにいった。
「遥はさ……両親に相談、してたのか?」
私がママの背中を見送っていると、沙也加がそう訊ねてきた。
そして、いつもの沙也加にしてはその問いかけに少しの遠慮が垣間見えた。
「それって――私が虐められてたことに関して、だよね……?」
隣にいる沙也加からは返事がなかった。ただ、何故か沙也加の鼻をすする音だけが耳に届いてくる。
「沙也加……泣いてるの?」
空を見上げている沙也加。私のほうからは彼女の表情を窺い知ることができない。
「泣いてなんか、ねえよ……!」
沙也加がこちらに振り向いて声を少し震わせながら言った。
「……」
声が出なかった。
今までで一度として沙也加のこんな表情を見たことがあっただろうか。
そして「じゃあ、なんで……目に涙を溜めているの……?」と思ったけれど、それが声になって沙也加に伝わることはなかった。
「なんで――もっと早く気づいてやれなかったんだろうな……」
沙也加が何について言っているのか私にはわかったけれど、それでも、その沙也加の呟きに答える声は出なかった。
その代わり、沙也加の視線の先には、私たちのほうに向かってきている私の大好きな家族の姿があった。
※※
「どうだ、凄いだろ!?」
こんなにテンションが上がっているパパを見るのは久しぶりかもしれない。
「こんなにたくさんのお魚、どうしたの……?」
私がバケツの中で元気に泳いでる魚を覗き込みながら言うと、パパは誇らしげな顔に合わせて胸を張りながら、
「俺と風雅で釣ってきたんだ! なっ? 風雅」
「うん。まあ、父さんには負けちゃったけどね……」
風くんがそう言いながらも、少ししょんぼりとした顔を浮かべる。
「いいっすねー! ってことは、もしかしたらもしかしすると、これって焼いて食べれちゃうってことですか!」
沙也加がテンションを上げながらそう言うと、パパもすかさず親指を上げてグッドサインを作った。
「そういうことだ」
※※
「いやー! 食った食ったー!」
沙也加が椅子に背中を預けながら、大して膨らんでもいないお腹をさすっている。
「その割には、沙也加ってスレンダーだよねー。羨ましいよ〜」
すると、沙也加は満更でもなさそうに頬を赤らめながら、
「それほどでもないってー! ってか、褒めたってあたしの腹を見せることくらいしかできないんだからな!」
「いや、見せなくていいからっ!?」
やっぱり変態だし露出魔でいつもどおりの沙也加でよかった、なんて内心思いながら私は一人安心する。
すると、沙也加が「あ、そうだ」とか言いながら急に席を立った。
そして私が沙也加の行動を目で追っていると、彼女は自分の傍に置いてあった自分のバッグから何かを取り出した。
「これ、一緒にやらないか?」
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