第14話 遥が当然知りたいこと
「
「いいけど……なんで知りたいんだ?」
「前に私がふざけて『彼女がいたら、今日のバーベキューに連れてきてもいいんだぞ?』みたいなことを言ったら、その時の風くんの反応がおかしかったの。だから、知りたいな、と思って……」
「わかった。でも、教えられるかどうかは正直まだ決めらんない。それでもいいか?」
私には沙也加がなぜ私に「風くんの彼女」がいるかいないかを教えられない可能性があるのか、わからなかった。
「なん――」
私が「なんで?」と問おうとすると、沙也加はすばやく自分自身の唇に人差し指を当てて、ウィンクをしてきた。
そんな沙也加のいつもとは違う可愛い仕草に、私は少し見惚れてしまった。
※※
「バーベキューをしてる人たちが見えてきたねー!」
「おっ! 今日の
「ちょっ! 沙也加ぁぁぁ! あらぬ誤解を生もうとしないでぇぇぇぇぇ―――!」
心なしか、風くんがさっきから私と目を全然合わせてくれないの! これって絶対風くんが変な誤解をしてるからだよね? 冗談抜きでこれ以上は勘弁してほしい。
「ママが思ってる以上に二人は仲が良かったのね! フフフ」
ママも笑ってないで助けてよー!
すると、沙也加がやっと私の真意を読み取ってくれたのか、あからさまに申し訳なさそうな顔をしながら、
「ごめんって、遥。
「本当に? ……ううん。絶対に説明しなくちゃダメだからねっ!」
沙也加は少しの間を置いて、神妙な声音で言葉を発する。
「わかった。ちょっとふざけすぎました。ごめんなさい」
「……」
私はあえて何も言わないことにしてみた。
いつも私は沙也加にさんざん意地悪されてるんだし、たまには私が沙也加に意地悪をしてもいい、よね……?
「……」
「……えっ。ヤバくね? 許してもらえない……?」
あれ? 沙也加の顔が段々と歪んできている気がする。
「う、ううん! 許すよ! 許さないわけないでしょ!」
私が慌てて早口に捲し立てると、沙也加の泣きそうだった顔が今度は徐々にニヤリという表情に変わっていった。
「あたしの演技、どうだった? さすがの遥でも騙されたっしょ?」
「むむむ……」
「二人とも仲睦まじいところ悪いんだが、もう着いたぞ」
そんなパパの声のあとに、私たちは車を降りた。
※※
「それにしても、今日は絶好のキャンプ日和だなー」
「そうだね」
パパが今日の天気について感想を漏らし、それに風くんは頷きを返した。
パパが続けて口を開く。
「風雅、お前また背が伸びたんじゃないか? 今何センチぐらいあるんだ?」
私の前を歩いている風くんは、少し「うーん」と唸ったあとに
「一六八ぐらいかな? 最近計ってないからわかんないや」
その風くんの言葉にパパは満足そうな声音で言う。
「そうか、もうそんなにあるんだな。俺は今でこそ一八〇あるが、高校に入りたての頃は今の風雅よりも全然小さかったからなー。将来的には、風雅が俺を抜かすことになるかもな」
私はパパの後ろを歩いていて彼の顔こそ見えなかったけれど、パパが自分の身長を越す風くんに夢見ていることだけはなんとなく伝わってきた。
と、何故か私の隣を歩いている沙也加が私に縋るような目を向けてきた。
私はそんな沙也加に少し呆れつつも、彼女の今最も聞いてほしいであろうことを口にする。
「そういえば、沙也加は何センチあるんだっけ?」
わざと目の前で喋っているパパと風くんにも聞こえるような声量で言った。
「あたしは~、一七〇はあるかなー……」
すると、私の目論み通り私の横を歩いている人物──沙也加にみんなの視線が集まった。
そして、最初にそれに応えたのは私のパパだった。
「そうか。
「うん」
その風くんの声音は、ホントにそう思っているかどうかの判断が難しかった。
「遥のお父さん、あたしのことは『沙也加』って呼んでもらっていいっすよ!」
そう沙也加があっけらかんと言うと、私のパパは悩む仕草を見せたあとに
「でも、娘の友達を下の名前で呼ぶのはちょっと馴れ馴れしいような――」
「いや全然大丈夫なんで! 呼んじゃってください!」
「わかった」
と口ではパパはそう言ってるけど、その沙也加からのお願いにパパが全然納得していないのが私にはわかった。
すると、沙也加が今思い出したかのように言う。
「あ、そうそう。風雅は後であたしとデートだからな!」
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