第2話 親友、沙也加
「ちーっす、
相変わらず私の親友は言葉遣いが荒いというか乱暴というか……。でも、彼女は本当はすっごく優しい。
「
「わ、わかったよ。遥がそう言うんだったら、そうするしかないな……」
彼女はどうやら私の言うことに従うことにしたらしい。
「それで、こんな時間にここにいて大丈夫なの? 部活はどうしたの?」
私がそう言うと、沙也加は少し不満そうに口にする。
「それがさ、今日はなんかの手違いで校庭の予約ができてなかったらしくてさ。他の部活が使うらしいから今日は練習なしなんだとよ。ちっ、先輩たちは何やってんだか……」
すると、沙也加は「あ、やばっ」みたいな顔をした。私がそれに対し、じーっと彼女の目を見ていると――
「あ、いや、今のは不可抗力ってやつで……」
沙也加は私から目を逸らしながら、そう言った。
「ふふっ……」
そんな可愛らしい沙也加を見て、つい堪えていた笑いが零れてしまった。そんな私を沙也加は数瞬眺めたあとに声を荒げる。
「あっ! 遥、あたしのことを揶揄ったな! このっ!」
沙也加のその手から逃れようと咄嗟に身を翻したけれど、運動部の彼女はそんな私を察したのか、すぐに捕まってしまう。
「降参しました!」
そう言うと、沙也加は私の身体からすぐに手を離した。
「うむっ、よろしい」
晴れ渡った空の下、私たちは少しの間笑いあった。
※※
「じゃあ、帰るか」
「うん!」
沙也加に軽く頷きを返すと、彼女は私の前に手を差し伸べて、一言。
「姫。では、僕の手をお掴みください」
「もうっ。なにそれ~。私、別に姫って呼ばれるほど、偉くもないし可愛くもないんだけどー!」
すると、沙也加が全力でそれを否定し始めた。
「いやっっ! 遥は可愛い。誰が何と言おうと、遥は超可愛い。宇宙一可愛い。もう、私にとってはたった一人の天使!」
そんな沙也加の言葉に少し呆れつつも、「はいはい、ありがとね」と返した。
「酷くねぇか!? 全然感謝の気持ちが伝わってこないんですが!」と沙也加が残念そうに言うので――
「ごめんって! ほら、拗ねてないで帰るよ」
私が沙也加の手を取ると、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「いやー、遥の手はやっぱりいつ触っても気持ちいいよなー!」
「き、気持ち悪いこと言わないでよっ! そんなこと言うんだったら、今すぐにでも離すからね?」
すると、沙也加の顔がみるみるうちに弱弱しいものになっていった。
「嘘ですごめんなさいもう言いません」
「いや、弱っ!」
※※
沙也加はいつも通り、今日も私のことを家の前まで送ってくれた。
「じゃあ、遥。また明日な」
「うん。また明日ね」
私が踵を返して家の扉を開けるまでの階段を上り終えると、後ろから声がかかった。
「遥!」
「ん? どうしたの?」
私がそう言いながら、沙也加のほうに振り向くと、
「あのな、遥。あたしに全部を包み隠さずに話せ、とは言わない。でも、もし困ってることがあるんだったら、いくらでもあたしを頼ってくれていいんだからな」
その時の沙也加の真剣な表情は、やっぱり私が大好きな彼女の姿そのもので、そんな沙也加を前にしてつい泣きそうになってしまう。
「うん……ありがと」
「おう。じゃあな……」
沙也加はまだ何か言いたそうだったけれど、背を向けて歩き出している彼女の背中を見ていると、それは私の勘違いだったのかもしれないな、とも思う。
それにしても、いくら沙也加だからって、「私、パパが好きなの」なんて言ったら、たぶん私と友達でいてくれなくなっちゃうよね……。
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