そのフィールドをどこまでも


「アスリートだったわけでも、レーサーだったわけでもない」


 だが、目の前に広がる景色をどこまでも駆けていきたいと先輩は言った。


「なだらかな丘も寄せてあげれば谷間が生まれるッ! 私は、この谷間を攻めてみたいッ!」

「……などと起きたまま寝言を言う、というか変態発言してる痴女が今、僕の上に乗ってるんですが、どうするべきなんでしょうねぇ、これ」


 とりあえず防音仕様なお金持ちの自室であることを感謝しつつ、思わずつぶやく。多分満足するまで放っておくしかないのだろうなぁと自分で答えを出しながら。


「そもそも男の僕の胸に寄せてあげて谷間が出来たところで誰得なんです、先輩以外で?」


 たぶんこの人以外にとってすべからくどうでもいいであろう。


「はぁ」


 百年の恋も冷めるではないが、美少女がベッドに押し倒して身体を密着させているという状況下だというのに、僕の心の中では「本当にどうしよう、コレ」という言葉だけが呪文のように繰り返されていた。


「六分で百円とか言ったら――」

「六百分頼むッ!」

「早ッ?! いや、冗談ですから万札出さないで下さいよ!」


 先日どこかで見たバイトの求人の時間換算を参考にして冗談半分で呟けば、僕の胸に顔を埋めたまま指に一万円札をいつの間にか挟んでいた痴女先輩に僕は戦慄する。

 先輩もいいところのお嬢さんで一万円はそんなに大したことないのかもだけれど。


「十時間って、今からぶっ続けだと深夜に突入してるんですが?」

「まさに『今夜は帰さない』というシチュエーションだな、竹痴君」

「ここ、僕の家ですって!」


 それともそのセリフをくちにしろというリクエストなのだろうか。


「そうか、ならば次回は私の家に来てもらおう。それなら使いどころも正しくなるし、色々フェアだ」

「待って!」


 公平だとかそういう問題ではないと思う。いろんな意味で。


「お父さんぶっ倒れますよ?!」


 あちらは僕と先輩のアレな関係を把握してるはずなのだ。倒れなかったとしても、僕の来訪理由は察すだろうし、お引き取り下さいと帰されることもありうる。

 いや、僕はお引き取りしてもかまわないのだけども、痴女先輩はちょっと我慢を強いただけでこんな風になる変態である。


「あぁ」


 その後の先輩がどう暴走するかを鑑みると僕もお引き取りしてもかまわないとはならないのか。

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