第2話 「チョイと話を盛って」

 その日から、おれは『完璧な言い訳』を作れるようになった。何度かやってみて、コツをつかんだ。

 コツとは言い訳と真実のバランスだ


『完璧な言い訳』には、一滴の真実が必要だ。


 たとえば遅刻には『移動系』を使う。リアルに起きた交通事故や電車の遅れ、みたいなものを調べて『言い訳』に入れ込むんだ。

 ほんの一滴でいい。それがコツだ。それだけで聞いたヤツ全員が納得する。

 おれは何をやっても許されるようになった。やっぱりチートだな。


 神さま、ありがとうよ。あの時『完璧な言い訳』能力を思いついたおれ、グッジョブだ!




『言い訳』を完璧に使いこなせるようになったおれは、一躍クラスの人気者に。

 なーに。チョイと話を盛って、おれが完璧な被害者みたいな流れをつくれば、女子はだいたい同情してくれる。男子からはくそくだらねえアドバイスをもらえた。

コミュ能力が最低ランクだったおれでも、クラスカーストの中の上くらいになった。


 それで十分だ。なにごとも欲ばると良いことがないからな。

 人生ばら色……と思っていたら、ひとり、おれの言い訳が通用しないやつがいる。


 ジミ子の、野々宮すみれ。


 いつも分厚い本を読んでて、ページの合間からおれをじっと見るんだ。

 はじめは、おれを好きなのかなって思った。

 よくいうじゃん、ジミ子はクラスカーストの上位にあこがれるって。


 だけど、だんだん視線の意味が分かってきた。

 あれは、おれの能力を見破っている目だ。

 今のおれがあるのはチート能力のおかげで、おれ本来の力じゃないってことを知っている目だ。


 ……おれは野々宮すみれが怖くなった。

 あいつをおとしいれなきゃ、夜も眠れない……。

 だが、どうやって?


 考えに考えて、イイことを思いついた。

 そうだよ、何のために『完璧な言い訳』能力をもらったんだよ……。





 ある日、おれは野々宮に話しかけてみた。

「いつもすげえ本を読んでるよな、おもしろいのソレ?」

「私にはおもしろいわ」

「へえ、貸してくれよ」

「いや」


 野々宮はぱたんと本を閉じた。眼鏡ごしにおれを見る。

 ぞくっとした。野々宮の眼は鏡のようだった。この世に在る真実を、そのまま映し出す目だ……。


「これは、私にとっておもしろい本よ。でも小暮君の受け取り方は別でしょ」

「……そうかもしれないけど。試しに読んでみようと思うよ」


 野々宮はますます疑い深そうに俺を見た。が、鞄から別の本を出して差し出した。


「やってみたら? でも、自分が本を選ばない読書なんてタイパが悪いわよ」


 彼女が行ってから、おれは本をみた。


『古代中国の24時間』。


 うへえ、本気で時間の無駄だわ……。

 だけどおれは、チート能力を持つ男。

 『完璧な言い訳』を発動させたら、野々宮攻略なんてちょろいもんだよ……。

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