【KAC20237】「『完璧な言い訳』チート能力、発動!」

水ぎわ

第1話 「もっと効率よくチャラく生きたいんだよ」

 その瞬間、おれは通学途中の自転車から投げ出され、真っ白な世界へ突っ込まれた。あたりはヒカリで満ちている。


「え、なに? なんなん、これ?」


 頭上から声が聞こえた。


『お前は、死んだのだ』

「しんだ? ほんとに? まじかよ」


 声は重々しくいった。


『天の裁きを受けよ……小暮幹也こぐれみきや……』

「は?」

『小暮幹也……19××年生まれ……西海大学卒……』

「ちがうちがう」

『は?』


「それ、おれじゃない。まだ高校2年だし、西海大にはいってねーし、第一志望だけどさ。あと、名前が違う」

『ほ?』

「おれは小暮公也こぐれきみや、コグレ・キ・ミ・ヤ!

 おっさんがいっているのは、小暮みきや? でしょ」

『……まちがえ……たわけじゃないぞ! 似た名前だからと言って、取り違えたわけじゃ……

 こら、天使ども! 魂のネームカードをよく見てから回収しろと言っておるだろうが

 ……なに? 今日はわしがやった? そんなはずはない……』


 頭上の声は次第に小さくなり、


『あー、その。まあ。端的に言えば』

「人違いね」

『そのようなものであって……たいへん遺憾に思うが……』

「いいよ、生き返らせてよ」

『ただちにそうするが……いちおう、あれだ、言い訳じゃないが……お前には臨死体験が必要だった、ということで、ひとつ』


 めっちゃくちゃ言い訳に聞こえるけどな……。

 その瞬間、おれはひらめいた。


「いいけどさ、せっかく死んだんだ、なにかお土産もらって生き返りたいわけ」

『みやげ?』

「だいたいこういう展開だとさ、チート能力をもらって異世界へ転生するじゃん? おれだけステータスが見えるとか、いきなりカンストとか。前世が大魔法使いだったやつ」

『……お前の前世はダンゴムシだったが?』

「ちっ、つまんねえな。いいわ、なんかチート能力くれ。たとえば『完璧な言い訳』を1秒で思いつく能力とかさ」


 声はしばらく考えた。


『そんなもの、役に立たんぞ』

「いいじゃん。だいたいアオハルってタイパが悪いんだよ。

タイパ、タイムパフォーマンスってやつ。

無駄な事ばっかりやってるだろ。くだらねえクラスLINEとか、付き合いのネトゲ―とかさ。

 もうそういうの、いやなの。もっと効率よくチャラく生きたいんだよ。

 だからソレ、くれ」

『人の考えることは、わからんな……まあいい。欲しければくれてやる。

だが永遠というわけにはいかん、発動時間に制限をつけておこう。これくらいでいいか……では』


 ぶわ! とまた目の前が真っ白になった。目の前は、自転車から転げ落ちる前だ。

 おれは自転車にしっかりと乗りなおし、学校に向かった。

 まず遅刻の言い訳がいるな……。

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