小悪党ノートと龍の秘宝 15



「ノート、それは?」

「樹林の中間らへんで見つけたんだ。ブレアの物でもないことは本人に確認済みだ」

 “ワシはこんな物、興味ないからな〜”



 そう言って、ノートは宝箱を開ける。


 そこには、金銀財宝の煌びやかさが眩しい――宝の山だった。


 村中の人間がどよめく中、ギーク村長たち四人は集まって焦ったような声で話し合っている。

 小さい声で聞き取れないが、大方の予想はついているノート。



「村の物じゃないなら、これはダンジョンのお宝! つまり発見者であるオレの物ってことだよなぁ!!」

「ま、待て! それはダメだ!」

「あん? 何だよ、さっき自分で知らないって言ったじゃん!」

「そ、それは………………ワシの商人としての売上なんじゃ!!」

「…………はぁ〜?」



 唐突なカミングアウトに全員がポカンとする。



「何だそりゃ? 嘘つくにしても、もう少しマトモな嘘つけよ」

「う、嘘じゃない! 誰にも盗まれないように、樹林の奥に閉まったのだ! ほ、本当だ!!」



 (んな訳あるかよ。ダンジョンにタンス預金するバカがこの世にいるか)



 そうノートは心の中で毒づくが、それならば次の手札を切るだけ。

 ノートはギークに話す。



「その売り上げって、あんた以外だと誰が知っているんだ?」

「わ、わしだけじゃ……」

「そっちの三人も何か知ってそうだったけど?」

「そ、存在は教えていたが、詳しい場所はわしだけじゃ!」

「ふ〜ん……あんた以外にその売り上げを見るような人間は?」

「む、無論おらん!」

「…………だったら、あいつらは誰なんだろうな〜?」



 ノートはわざとらしく「う〜ん……」と考える、ふりをする。

 何かを察知しているのか、ギークたちは苦い表情だ。イラついていると言ってもいい。



「う〜ん、わからないな〜?」

「……何だかわざとらしいね。何がわからないんだい?」



 アーサーは苦笑しながらも、話を進めるためにノートに話を促す。

 ノートは笑顔で話をする。

 非常に邪悪な笑顔で、ギークたちは険しい表情で見つめてくる。

 


「実はオレ、樹林で謎の男たちに襲われたんだよね。しかも話を聞くと、そこのマイ…………生贄と間違えられて」

「「「「!?」」」」

「え、私ですか?」



 ビクッとするギークたち四人。

 イラつきから、再び青ざめた表情だ。


 (お、この反応……予想当たり・・・か?)



「襲われた? なんで?」

「さあ? 仕事で来てたって言ってたけど、冒険者じゃないと思うぜ。ダンジョン攻略じゃなくて、生贄の暗殺を優先していたからな」

「なるほど………………村長、これは?」

「し、知らない! わしは知らんぞ! こ、こい、こいつらの誰かの差金だろう!?」

「な、何だと!?」

「わ、私じゃない!」

「む、無論、私もです! 娘を襲うなんて、そんな指示をするはずがない!」



 全員が関係ない、お前だろう!っとなすりつけ合っている。


 ギークたち四人以外が、冷めた視線を向けていることも知らずに、醜い言い争いをしている。

 苛立ち、怒り、不安……村人たちの間にあるのは、そんなネガティブな感情のみ。



 ドクン――――



 (ん? 何かいま…………気のせいか?)



 ノートは手に持っていた木箱に、妙な熱を感じたが、特に気にせずに話を続けた。



「あんたらの誰の差金か知らないけど、そいつはこの木箱も執拗に狙っていたぜ?」

「「「「えっ!?」」」」


 (ま、嘘だけど)



 しれっと嘘を混ぜるノート。


 襲撃したナイフ男と弓矢男は、誰も木箱を狙っていない。

 ……というか、その時は木箱の存在をノートは知らなかった。


 だが、今までの話の流れで、ギークたちと襲撃者には何らかの関係があると考えて、ここでブラフを使ったのだ。


 そして、予想通り四人は激しく動揺した。



「明らかにこの木箱の中身を知っていそうだったな〜。こんな古い箱、興味を持つなんておかしいだろ?冒険者でもないのに」

「…………」

「これ、あんたの箱なんだろ? だったら、何で襲撃者どもは狙ったんだろうな〜?」

「ぐっ………」

「ギーク村長、どういうことだい?」



 アーサーの強い圧を受けても言葉に詰まるギークたち。

 しかし、ようやく言葉を絞り出す。



「じゅ、従業員…………そう、従業員です! 急遽必要な備品があったので、売上金の入った木箱を――」

「たかが備品のために、売上金に手をつけたの? しかもこんな危険なダンジョンにある?」

「そ、それは――」

「そもそも、本当に従業員かが怪しいけどな!」

「そ、それは間違いありません! 神に誓います!」



 ギークの言葉を聞いてノートはニヤリと笑った。

 

 引き出したかった言葉。

 言い逃れできない言葉。



「だったら、あんたの従業員は何で裏クラン・・・・の人間なんだ?」

「「「「え!?」」」」

「裏クラン?何だいそれ?」



 ギークたちは思わず声を漏らしたが、アーサーは知らないようだ。



「裏クランは…………まあ汚い仕事を請け負う非合法な連中ってこった。つまり、この村長の従業員は、裏社会の人間ってこと」

「な!? ち、ちが――――」

「違わないよな? あんた今自分で言ったよな? 木箱を狙い、オレを襲った人間は『自分のところの従業員』って。周りの人間が証人だ…………なぁみんな!!?」



 ノートの問いかけに「そうだ!」「確かに聞いた!」と肯定の返事がそこら中から聞こえる。



「オレはそいつから直接聞いた。生贄を殺す依頼ってな」

「しょ、証拠は!? その男が襲撃者・・・・・っていう証拠を見せろ! それがない限り、貴様の言いがかりだ!」

「あれ? オレ、その襲撃者がなんて言ったっけ?」

「っ!? そ、それは、その…………」

「語るに落ちるってな。まぁいいや。証拠か〜………………これは証拠にならないかねぇ?」



 そういうと、ノートは『ある物』を見せる。



「魔力の宿った弓?…………まさか、魔剣の類ですか?」

「ああ、襲撃者の一人がそう言ってた。『魔弓ヒュドラス』って」

「魔弓ヒュドラス? ちょっと待ってください………………あ、やっぱり!!」

「どうしたの、セリオ?」



 セリオは何かの記録書を見ている。

 そして、その記録書のある点を指さしてアーサーに訴えかける。



「これ、前任の徴税官が横領していた金銭や宝物のリスト何ですが、中には既に裏ルートで売却されていた品もあったんです! これがそのリスト何ですが…………」

「……………………なるほど、その一つがその弓ってわけか」

「決まりですね。こんな貴重品、そう簡単には手に入らない。でも裏ルートなら…………」

「そ、それでも、それでも、それが証拠になるとは――――」

 

「往生際が悪いね、ギーク村長」



 Sランクの威圧――

 アーサーとエレノアがオーラというか、殺気というべきか、強烈な波動を発する。


 見苦しいギークの言葉を聞きたくない、そんな意思表示をするかのようだ。


 これには流石のギークも冷や汗をかきながら黙り込む。


 静かになったところで、ノートは一つの結論を告げる。



「ここまでの話を総合して出てくる仮説――

 それはギーク村長は、生贄を殺したり気絶させて裏社会へ村人を流していた。


 要は人身売買をしていた。この木箱はその報酬ってことだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る