小悪党ノートと龍の秘宝 14
「アーサー様、大丈夫ですか?」
「うん、少し痛むけど大丈夫! マイさん、治療ありがとう!」
「いえ、ただの応急処置ですので、後ほど専門の医師に診てもらってください」
「……この村唯一の医者は信用できないから、王都へ帰ったら治療するよ」
「……ッ!」
アーサーの嫌味に、医師のロビンが唇を噛む。
ギークやジェラ、そしてマルコもアーサーと目を合わせない。
アーサーとブレアは一旦休戦し、ブレア村にホッとした雰囲気が漂ったが、すぐに再び緊張感が蘇る。
まだ、呪いの龍ブレアが存在している。
必死で逃げようとする者がいたが、ブレアが威圧をする。
最強種族の龍種の威圧。戦い慣れている冒険者でも震える程なので、村人は動くことすらできない。だから逃げられない。
ブレアが目ざとく観察しており、少しでも逃げる意思を感じたらブレスで脅してくる。
…………ブレアにとっての脅しは、人間にとっては生死に関わるが。
「さて…………ノート、話してくれる?キミはこの龍から何を聞いたんだいい?」
アーサーの問いかけにノートは面倒そうな顔をする。
だが全員の視線が痛いので、渋々話をする。
「この龍の縄張りである樹林をこの村の連中がずっと汚し続けた。龍は当初放置してたけど、この村の連中が予想以上に縄張りを荒らしていて憤慨。怒って村に説教しようと襲来。現在に至る」
“うむ、だいたい合っておるな!”
「いや、もっと詳しく話してよ!全然伝わらないって!」
「これ以上なく簡潔にまとめたのに……」とブツくさ言いながら、ノートは面倒くさそうに経緯を説明する。
「まず、この龍の名は『ブレア』。このあたりに人間が住んでいないほど、気の遠くなる昔からこのあたりを縄張りにしている……らしい」
“そうじゃなぁ…………あの頃はまだ若かったなぁ……”
「ちょっと待って……この龍、ブレアっていうの?」
「ああ、種族はカースドラゴン……龍種の中では中級だが、名が付く龍だから実力的には上級の龍種と同格だ」
ノートの話を聞いて、思わずアーサーはブレアを見る。
今は昔を思い出しているのか、遠い目をしているこのとぼけた龍は、名前付きだった。名前付きのモンスターは、同じ種族同士でも別格になる。
どうりでSランク冒険者である
「……で、そいつが平和に暮らしていたある日、急に樹林にゴミが捨てられるようになった。そして、その行為は今も続いている」
「ゴミ?」
「ああ。それは、主に死んだ人間や気絶した人間だった」
「「「「!!?」」」」
「…………」
村人たちがざわつく。
逆にギーク、マルコ、ロビンにジェラは下を向いて黙る。
今まで村では、この呪いの龍に生贄を差し出して呪いを抑えている
そう思っていた。
だが、今の話では、龍の元へ行く前にすでに生贄が死亡している。
つまり、生贄が意味を成していなかったことを意味していた。
「本当はブレア、あなたがその人間たち殺したのではないのかい?」
“そこのへっぽこにも言ったが…………”
「へっぽこ言うな!」
“ワシが人間を殺すときは、襲いかかってきた時のみだ。それ以外に干渉なんぞせん”
「ほ、本当なのか!?」「信じられない!!」「お前は昔から我々村の者たちを生贄に差し出せと言ったじゃないか!!」
上擦ったり、震えるような声ながらも、ブレア村の連中が反論を言う。
積み重ねてきた悲しみの歴史がある限り、今の説明だけでは到底納得ができない。
だが、そんな村人たちの心情など、龍種であるブレアには関係ない。
ギロリと村人たちを睨みつけて不服そうな顔をする。
途端に村人たちは小さな悲鳴や息を呑むと共に黙り込む。
“そんなこと言った記憶なんぞない。そもそもワシはお前たちの言う『村』の存在を今日そこのへっぽこから初めて聞いたわ”
「……へっぽこじゃないです」
「それは本当かい?」
“こんなしょうもない嘘、言う意味がなかろう。貴様らは家畜や羽虫が自分の家に知らないウチに巣を作っても、煩わしくない限り無視しておるじゃろう? それと一緒じゃ。多少目障りと思ったが、ワシの日常に影響がなければまぁいいか、と見逃しておったよ”
「…………あれだけ討伐部隊を送り込まれていて、相当日常に影響があったと思うのですが?」
“……ん? あの雑魚どもはこの村が関わって負ったのか? まぁいいストレス発散になったからいいけどね”
エレノアの質問に随分と大らかな回答をよこすブレア。
自身が種として圧倒的な上位に立っている自信……いや、確信があるからだろう。
“じゃが……”と顔を顰めてブレアは続ける。
“ワシのスイートホームに、勝手に変な場所や道を作るは、そこにずっと、ずっとず〜〜〜〜〜〜っとゴミを捨てるは…………いい加減に腹立たしくなってきた!! すぐに黒服どもが回収するから許していたが、もうずっと続くのは許せんかった!! だから今日、ここに乗り込んだのよ!!”
「…………黒服が回収?」
“うむ、人間の死体や気絶していた人間は、その黒服が翌日かその日の夜に回収に来ていた”
「それって…………生贄にされた人たちを回収する何者かがいるってこと!?」
村全体がざわつく。
今まで信じてきた生贄と呪い――
その因果関係に初めて大きな疑問が湧いてきた。
「どう言うことだ?」「生贄を回収する人間?」「何者だ?」
「なら、呪いなんてなかったのか?」「いや、流行病の呪いは実際にあるだろう!?」
全員が口々に疑問が出るが、回答は得られない。
だが、ここでノートがある事実を口にする。
「流行病の件は知らんけど、少なくとも、この龍は呪いも聖水も知らなかったぜ?」
「!?そ、そうなのかい?」
“ワシは聖水なんぞ作れん。そもそも聖水って何じゃいって感じ。あと、ワシの呪いは病にはならん。基本的に即死か生きながら体が腐るくらいだな”
ゾッとするような呪いばかりだ。
しかし、それが事実ならば流行病はブレアの…………呪いの龍の仕業ではなかった。
では、生贄とは何だったのか?
神のお告げとやらは何だったのか?
村人全員の視線は、村長であるギークへ注がれる。
「村長? これはどう言うことかな? 神のお告げとやら…………それは何だったのかな?」
「…………お告げは事実です」
「ならば、この龍の言うことはどうなるのですか!?」
村人の誰かのこの言葉を皮切りに、一斉に村長へ厳しい言葉を投げかける。
だが、村長は何も言わない。完全に『無』に徹している。
「何とか言ってくださいよ、村長!」「そうだ! あんたには説明する責任がある!」
「今までの生贄は何だったんだ!?」「黙るな、卑怯者!」
先ほどまで、逃げた生贄を捕まえた手腕を褒められていたが、立場が完全に逆転した。
すると、ここでギーク村長がやっと言葉を発した。
「生贄は呪いを和らげるために必要だった。その龍が言っていることが本当である証明はない」
「あの龍が嘘を言う理由がない!」「呪いなんてしなくても、どうとでもできるだろう!」
「ならばわしが嘘いう理由もない。なぜわしが生贄なんて嘘を言わなければならないのだ?」
「そ、それは…………」
そう、仮にギーク村長の『神のお告げ』が嘘だったとした時、なぜ生贄を生み出したのか?
しかも、これはギーク村長から始まったわけではない。
ギーク村長の反論に、誰も何も言えずにトーンダウンする村人たち。
しかし、全員が疑心暗鬼になっている。
何が真実で、何が嘘なのか――
まさに混沌となってしまった。
(…………ヒヒヒ、この時を待っていたぜぇ!!)
そんな中、この状況になることを予想してずっと黙っていた人物がいた。
小悪党、ノートだ。
「じゃあ村長さん。あんたは樹林の生贄の祭壇で何があったのかも知らないのか?」
「……? その龍……もしくは他の何者かが生贄を回収しているのだろう?」
「それにあんたは関与していないんだな?」
「当然だ。わしはあくまでも生贄を神からの指示通り、宣言するだけだ。他は知らん」
ノートはニヤリと笑った。
アーサーはその邪な笑顔を見たが、何故そんな顔をするのかがわからなかった。
「だったら、あの樹林で手に入れたものは、誰のものかわからないよな?」
「?? そ、そうなるな」
「へへへ! その言葉が聞きたかった!」
そういうと、ノートは袋を取り出す。
それはノート特性、見た目に反してたくさんのモノを収容できる『コンパクトブクロ』。
全員が不思議そうな顔をする。
そんな中、ノートはコンパクトブクロから『ある物』を取り出す。
『ある物』を見ても誰も驚かない。
……袋から大きな
だが、それ以上に驚いている人物が四人いた。
村長のギーク。
村長補佐のマルコ。
村医者のロビン。
学者のジェラ。
この村の中枢の四人だった。
驚愕というよりも、青ざめた顔をしている。
先ほどまで冷静だったギークも、驚きと戸惑い、そして焦燥の表情へとコロコロと変貌させている。
ノートは予想通りの反応により嫌な笑みを深くする。
「だったら…………樹林で見つけたこの木箱、オレの物でいいよな!!」
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