小悪党ノートと龍の秘宝 13
“お前たち、いいぞ! ここまで戦いが続いたのは、百年ぶりくらいだろうな! ワシ、今すごい楽しい!!”
嬉しそうにブレアが言う。
お気に入りのおもちゃを見つけたような無邪気そうな声を上げてアーサーたちを褒めるが、当のアーサーたちは嬉しくない。
切り札の神聖魔法『ホーリーレイ』が全くダメージを与えられなかったからだ。
唯一といっていい武器が効かなくて、絶望に近い感情が湧き上がる。
“よ〜し、ワシ、もうちょっと張り切っちゃうぞ〜!”
ブレアが上空に向けて咆哮を上げる。
村に現れた際の怒りの咆哮とは異なる、気持ちが高揚したために上げた、ただの声。
それでも心も体もボロボロの村人たちにとっては、その『ただの声』でも恐怖の対象だった。
「ははは……まだまだ元気だね……」
「そうですね…………どうしましょう?」
「エレノアさん……もう一度神聖魔法は撃てる?」
「ええ、撃てます。ただ、また時間がかかります」
「オッケー……僕が…………時間を稼ぐ!!」
「アーサー様!?」
アーサーはブレアに受け止められてから手放した剣とは別の剣を抜く。
こちらもアーサーの技量について来れるだけの性能を持つ名剣。
その剣を構えながら走る。
体が軋み、折れた骨が痛み、口の中に鉄の味が広がっている。
しかし、そんなことは気にしない。
ただ目の前の『怪物』に集中する。
“まだ元気があるな! よ〜し………………フンッ!!”
嬉しそうにブレアは迎撃の拳をアーサーに振るう。
応えるように、アーサーも仕掛ける。
「イストリア流体技『光衣』…………そして剣技『神風』ぇえ!!」
アーサーは呪いに備えて防御の技を使い、さらに急加速してブレアに迫る。
ガキィイインッ!!
Sランクの剣技と龍種の拳。
巨大な力の衝突で大きな衝撃波が生まれ、周囲の家屋や地面が壊れる。
村人たちは力無く吹き飛んだり、倒れ込む。
冒険者であるエレノアでさえも立っているだけで精一杯だ。
だが、当の二人はニヤリとしながた楽しそうに笑う。
そして、二つの巨大な力の応酬が再開された。
*****
「……………………ッ? こ、ここは……?」
「あ、ノート殿、気づかれましたか?」
「よかったです!」
「あんたは…………セリオと、生贄の…………マイだっけ?」
ノートが目を覚ますと、目の前にセリオとマイがいた。
どうやらブレア乱入の混乱に乗じてマイを解放したようだ。
「ここは……ブレア村か?」
「はい。村長に聞き取りをしていて、その最中に色々とありまして…………」
「ふ〜ん……で、なんでこの女が? もう村を出ているはずだろう?」
「連れ出す人が村長側に寝返りまして……」
「なんじゃそりゃ!? ひどいやつだな!」
自分の事を棚に上げて他人の悪辣さにダメ出しするノート。
周りを見てみると、村長たちを含め、全員が動けないでいた。
ケガやブレアが発する威圧による恐怖の影響のようだ。
ケガ人たちは、祭りを運営していた二人を中心に、一箇所に集められて応急処置をしている。
ちなみに、ノートが悪態をついた裏切り者のレイターは、ブレアの攻撃でケガをして気絶している。
そして、当のブレアはアーサーとエレノアのコンビと戦っている。
アーサーが剣で迎撃し、エレノアが魔法を唱えている。
ノートの目ではほぼ追うことができないスピードの攻撃の応酬が続いているが、アーサーが劣勢のようだった。
必死に攻撃し、防御や回避をしているアーサーに対して、ブレアは軽やかな動きだ。余裕を感じる。
「アーサーが負けそうだな」
「は、はい。エレノアさんの神聖魔法も呪いの龍には効かず……正直言ってマズイ状況です」
「なるほどな……………よし!」
そう言って立ち上がったノート。
セリオは、ノートがアーサーたちを助けに行くと期待した。
だが、ノートは戦場とは逆へ向かっていた。
「ノ、ノート殿、どこへいくんですか?」
「え? そりゃ村から出てくんだけど……」
「「……え?」」
「え?」
あまりにも予想外の言葉に聞き返してしまったセリオとマイ。ノートも思わず驚いてしまった。
「な、何を言っているんですか!?アーサー様たちを救ってくださいよ!」
「っざっけんな!Sランクが苦戦する相手にEランクのオレが勝てるかよ!邪魔にならないように離れるのもあいつらへの手助けだ!」
「へ、屁理屈!? あなた同じパーティでしょうが!?」
「役割が違うんだよ!オレの役割は終わった!戦いはあいつらの専門だから!」
「あいつを倒せば全て解決するんです! 倒してください、ノート殿!!」
「あの龍倒しても呪いなんて解けねぇよ!!」
突然のノートの発言。
意味がわからずにセリオとマイがポカンとする。
「え…………ど、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ! あの龍、別にこの村を呪っていないんだよ! 本人…………本龍?…………まあいいや、とにかく言ってたんだよ!」
「そんなの信用できないですよ!」
「じゃあお前らも本人から聞けよ! あいつ人間と話できるし!」
「そ、そんな怖いことできませんよ!! だったら話を聞くために一緒に戦い止めてください!!」
「はぁ!? あ、あの中に割り込めっていうのかよ!?」
ノートは嫌そうな表情を浮かべ、アーサーたちの方向を見る。
「はぁあ!!」
“ははは!! ボロボロのクセによく動く人間だ! 楽しいぞぉ!!”
「アーサー様、離れてください! 清浄なる光の嵐……多重魔法陣展開『ホーリーレイ』!!」
ビュオォオッ!!
ドドォオン!!
“あまい! もう効かんわ!!”
「な…………も、もう順応するの!?」
「エレノアさん、一旦引いて! イストリア流 剣技『神風』!!」
ビュン!!
“それはもう飽きたわ!! 他の技を見せんかい!”
ゴォオッ!!
「そっちこそ……もうブレスは、もう見飽きたよ!!」
“おう!? 避けるか!? ははは!! つくづく面白い男よ!!”
このような激しい戦いがずっと繰り広げられている。
少し動けば大地が割れ、雲は衝撃で吹き飛び、何かが衝突する轟音が響く。
こんな戦いに、自分が割って入ることができる未来を想像ができないノート。
「やだよ! 絶対やだ!」
「あ、こら、逃げるな! 一緒にいきましょう、ノート殿!!」
「ぐえっ!? く、首を……つかむな…………ぁ!?」
ジタバタの暴れるノートだが、意外と力が強いセリオとマイに首を引っ張られてアーサーたちのもとへ連れて行かれる。
まだ戦いは続いており、その余波でノートたちは吹き飛びそうになる。
しかし、なんとか近づいて大声で呼びかける。
「アーサー様! 一旦戦いを止めてください! ノート殿から興味深い話が!」
「悪いけど……そんな余裕は……ない!」
未だにブレアが攻撃を続けるため、アーサーも攻撃を止めることはできない。
ブレアを止めない限り、戦いは終わらない。
「ちょっとノート殿! あなたあの龍の後ろに乗って来たん出すよね!? 仲良くなったんなら止めてくださいよ!」
「仲良いわけねぇだろうが!必死だよ! 命を守るのに必死だったよ!」
「いいから止めてください!」
「この……腐れ公務員がぁあ!!」
セリオとマイに急かされて大声で反論していると、ブレアも気づいたようで、ノートたちを見てきた。
“む? なんじゃ、貴様もここにきたのか。邪魔だ、どけ”
「そ、そうもいかんでしょうよ。あんた、この村に何しにきたんですか?」
“そりゃ貴様………………あ、そうだった。ワシのマイホームを汚した輩を懲らしめにきたんじゃった!”
「……マイホーム?」
「なんですか、それは?」
そうだった!っというような顔をしてブレアは攻撃をやめた。
アーサーとエレノアも不思議そうな顔をして攻撃をやめた。
村全体にホッとしたような雰囲気が漂う。
しかし、ここからブレア村にとって、本当の嵐が始まろうとしてた。
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