小悪党ノートと龍の秘宝 12



「龍だと!?」

「樹林に住む龍!?」

「の、呪いの龍がくるぞぉおお!!?」



 一気に村人たちは混乱して、全員が村の外、樹林の反対側へ逃げようと走る。  

 祭りに参加していた観光客や商人は、何が起こっているかイマイチ理解が追いついておらずに戸惑っている。


 すぐに運営の二人が避難誘導を開始して、その指示に従って避難開始した。



「マイ!」

「セリオ!」

「あ、コラ…………ちぃ! 構ってられるか! お、おれも逃げるぞ!」



 混乱に乗じてセリオがマイに近づいて救出する。

 レイターは気づいたが、村長の命令よりも自身の命を優先して逃げていった。



「セリオ、一緒に村を出ましょう! 今ならチャンスよ!」

「い、いや流石にこの状況では…………」



 マイは村の脱出を考えていたようだが、遅かった。


 龍と思わしき影から、『何か』が飛んでくる。



 ゴォォオオオオ!!



「「「「わ、わぁああああ!!?」」」」



 ブレス攻撃――――

 龍種特有の攻撃。

 

 まだ樹林の上空からの攻撃なのに、荒れ狂う暴風がブレア村を襲ってきた。


 あまりの衝撃に建物も、人も吹き飛ばされる。




 風が止み、あたりを見渡すとボロボロの家屋や馬車、ケガをした人たちがいるが、パッと見て死者はいない様子だ。



 しかし、龍の攻撃は止まらない。

 遠くからでも分かる、息を吸い込む挙動。


 ブレスの第二弾がくる――


 全員が察知し、恐慌状態の中でも逃げようとするが、ケガ人が多くてほとんどの人間は動けない。

  

 そして、龍がもう一度ブレスを放ってきたその時――


 

「『ブレスアウト!!』」



 エレノアが上空をとび、魔法を唱える。

 すると、巨大な透明な魔法の壁が現れて、ブレスを龍がいる方向へ弾き返した。


 少し龍は驚くが、すぐに思い切り自身の尻尾をふりまわし、この反射されたブレスを破壊する。



「くっ!? なんて重いブレス…………まさに龍種ですね!」

「大丈夫、エレノアさん!?」

「ええ! ですが一人では無理です!守りで手一杯になります!」

「了解! いつも通り、攻めは僕ってことだね!!」



 そういうと、アーサーが剣を抜く。

 そして、ギーク村長を見る。


 先ほどの二回のブレス攻撃で、村長たちを含めて村人全員が恐怖と衝撃で足がすくみ、動けなくなっているよう。


 中には、「終わった……」「この村の終わりだ」「生贄を捧げなかったから……」と絶望の声を上げる。



 心が折れてしまったようだ。

 無論、ギーク村長も例外ではない。



「……あの龍、僕たちで対応してもいいかい?」

「む、無理だ! いくらあんたが王族で、Sランク冒険者でも、あの呪いの龍相手は――――」

「問答をしている余裕はない。いいよね?」



 圧を込めて再度問い返すと、ギーク村長は何も言わない。

 ただ黙って頷くだけだった。


 そうこうしているうちに、龍は樹林を抜け、村の近くまで来ていた。



「チッ!!速すぎる! もうこの村で相手するしかない! 村長!村の建物壊しても、文句も弁償も要求しないでね!!」



 そういうと、ノートはギークの返事も聞かずに走り出す。

 エレノアはすでに魔法をいつでも使えるように魔力を全身に漲らせる。



 そして――



 ズズゥウウウン――



 大地を抉りながら、呪いの龍『ブレア』は村に着陸した。




 グォォォオオアアアアアッ!!




「龍……本物の…………ふふ、こんな時だけど、血が滾るねぇえ!!」



 そう叫んだアーサーは最速で駆ける。

 ブレアを斬るために全力で駆け、剣を振るう。


 ブレアはアーサーに応えるように、自身の爪を振り下ろす。



 ガキィン!!

 ドォォォオオンッ!!



 Sランク冒険者の剣と龍の爪が交わり、凄まじい衝撃波が村中に広がる。



「くぅ!!? き、きつい…………けど、負けない!!」

 “ほう…………久方ぶりの『上物』か?”



 互いに難敵であることを一太刀で察する。



 小さな村で、最大の戦いが始まる。 

 そして、まだ誰も知らない。

 


 龍の背中に、一人の冒険者が必死でしがみついていたことに。




 *****




 (おいおいおいおいおいぃい!!!? この龍、いきなり何攻撃してんだよ!?)



 龍の背中にしがみついている冒険者――――ノートは、振り落とされないように必死だった。


 龍眠る呪樹林で、ダンジョンマスター…………本人曰く、ただの住人である呪いの龍ブレアにノートが考えた『仮説』を説明した。


 それを聞いたブレアは怒り狂った。


 『ワシのマイホームに、そんな穢らわしいことを…………それにワシを利用していることも許さん!!』と怒りの咆哮をあげて飛び立った。


 ノートは慌ててお宝を自作の魔道具『コンパクトブクロ』に収納し、その背中に飛び乗った。



 そこからは地獄の空の旅だった。

 怒って暴走しているブレアの乗り心地は最悪だった。


 揺れまくって酔ってしまい吐き気はするし、身体中に当たる風は速すぎて体が痛くなる。

 意識が何度も飛びそうになった。


 そして、気がついたらブレアは村に到着して着地。

 その衝撃でノートはブレアの背中から放り出されてしまった。



「グヘェ!?」

「え……あ、ノート!? なんでここに?」

「…………」

「ち、ちょっと!?」

「ノート殿? ………………気絶しているようですね。生きてます!」

「ったく…………セリオさん、そいつの介抱をお願いします」

「は、はい!!」



 そう言ってエレノアも呪いの黒龍、ブレアとの戦いに挑む。



「アーサー様!」

「エレノアさん! とりあえず適当に強力な魔法をよろしく!」

「承知いたしました! …………」



 エレノアは呪文を唱える。

 徐々に濃密な魔力がエレノアを包み込む。

 ただの一般人でもわかるほど、強力な魔力。それを感じる。



 “ほほう、まだこれほどの魔力を練れる人間がいるとはな……厄介なので退場してもらおう”

「それは僕が許さない!!」



 イストリア流 剣技『神風』――


 アーサーはまるで突風のようにブレアへ向かっていく。

 まさに目にも止まらぬ速度だった。



 “ははは! 速いな!”



 だが、ブレアも名付きの龍。

 アーサーの速度に難なく対応する。


 勢いよく薙ぎ払うような爪攻撃がアーサーを襲う。



「がぁ!?」



 今まで味わったことがない途方もない衝撃。

 アーサーは受け切ることができずに吹き飛び、民家に突っ込む。



“……やはりこの程度か、脆いものだ。さて、魔術師も屠るか”



 そういうと、ブレアは息を吸い込む。ブレスの準備だった。



「隙あり、だね!!」

 “!?”



 ドォオンッ!っという音と共にアーサーが突っ込んだ民家から出てくる。

 上空に飛んだアーサーは、剣を構えてブレアを見据える。



「イストリア流 剣技『流星』!」



 アーサーは猛スピードで空から落ちる。

 あまりの速度に剣は燃える。

 そして、まさに赤い流星となってブレアに降り注ぐ。



 “笑止…………消し飛ばしてくれる!”



 ゴォオオオオオ!!


 

 溜めていたブレスをアーサーに解き放つブレア。

 遊びのない、本気のブレス。


 

 赤い流星と本気のブレスの衝突。

 それは大爆発となって村中の家屋を破壊する。



「ひ、ひぃいい!?」「た、助けてぇえええ!!?」「これは夢だ…………」



 あまりの衝撃に悲鳴が響く。

 だが、当のアーサーとブレアは気にしない…………いや、アーサーはその余裕がない。


 剣技『流星』はブレス攻撃と互角の威力だったようだ。

 完全に勢いは殺されたため、アーサーは静かに着地をする……と同時に走ってブレアに斬りかかる。


 鋭く、素早い剣戟は素晴らしかった。

 だが、ブレアは軽く避けていく。


 アーサーは必死に振るうが、ブレアは楽しそうだった。

 先ほどまで怒っていたとは思えないほどに笑顔だった。



 “おお、まだ戦えるか! 嬉しいぞぉ!! まだワシの憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ!”



 ブレアはアーサーの剣を腕で受け止める。

 非常に硬い龍の鱗は、Sランクのアーサーの剣も通さなかった。


 ブレアは剣を掴みながら、反対側の腕の爪をアーサー目掛けて突き出す。

 アーサーはすぐに剣を離して飛び退く。


 しかし、ブレアはすかさず体を回転させて巨大な尻尾を振るってアーサーに叩きつける。



「グゥ!?」

 “終わりだな”



 ドォオン!!



 尻尾がアーサーに直撃し、再度吹き飛ばされるアーサー。


 普通ならば真っ二つになるほどの威力だが、アーサーは吹き飛ぶだけで済んだが、骨の砕ける音が聞こえた。

 さらに、ブレアの攻撃は、直接触れると呪われる。


 故に、ブレアもアーサーは死んだと思った。



 だが、アーサーは立ち上がる。

 少しふらついているが、まだしっかり意識を保って立ち上がる。



 “ん? 骨が砕ける感触があったのだがな……それに…………呪いがかかっていない?”



 ブレアが不思議そうにアーサーを見ている。

 ボロボロだが、アーサーは呪いは防いでいたようだ。



「イストリア流 体技『光衣』………………間に合った」

 “体が光っている…………なるほど、あらゆる状態異常攻撃から守るのか。それに、物理ダメージも軽減させるとは…………人間の小賢しさは時に感心させられる”



 そう言って感心していたが、ブレアはすぐにアーサーを攻撃しようと行動を開始する。


 だが、それを許さない者がいた。



“…………む? なんだこれは?”



 ブレアは複数の模様…………魔法陣に囲まれていた。

 どれも強力な魔力が込められていた。



「清浄なる光の嵐………………多重魔法陣展開! 神聖魔法『ホーリレイ』!!」



 魔法陣に主――エレノアの声と共に、魔法陣から白く、清らかな光線がブレアに降り注ぐ。



 轟音、爆発音、炸裂音――

 大きな音と共に、光の壁が形成されてブレアの姿が見えなくなる。



「は、はは…………エレノアさん、決まったね…………」

「アーサー様、ご無事ですか!? 全く、無茶をするんですから!!」

「無茶しなきゃ…………相手は、龍なんだから…………」

「…………そうでしたね。おかげで、神聖魔法が放てました」

「ここに、くる前、必死で…………覚えてくれたもんね」



 ブレア村に来ることが決まった時、アーサーとエレノアは呪いの龍と対峙した時の攻略のカギとして、神聖魔法に目をつけていた。


 呪いを浄化する力がある神聖魔法。

 習得難易度は高いが、Sランクの魔法使いであるエレノアならば可能性がある。


 そう考えて準備をしていた。



「まだまだ不完全でした。本来ならば、もっと魔法陣を展開できるはずだったのに……」

「はは、短い期間で、ここまでできれば上出来…………いてて!?」

「アーサー様!? …………骨が折れているじゃないですか!! 無理しないで!」

「ありがとう、でも、まだ終わっていないから…………」

「え………………!?」




 “び、びっくりしたぁ…………まさか、神聖魔法とはな〜”




 エレノアは絶句し、アーサーは冷や汗と脂汗が吹き出る。


 ブレアは無傷だった。

 黒いシールドを張って、エレノアの魔法を防いだようだった。



「まだまだ、戦いはこれから…………だね」

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