小悪党ノートと龍の秘宝 11
「村長、こっちです!!」
「おお、ご苦労さん! その馬車の中か?」
「ええ、念の為に縛っておきましたよ」
ギーク村長に話しかけていた相手…………それは全員の予想通りだった。
「レイター!? なんでここにいるんだ!!」
「誰だい?…………セリオくん?」
「レイターさんは………………宿屋の店主、マイをウィニストリアへ運ぶ依頼をした人物です」
「あ〜…………やっぱり」
「予想通りですね……はぁ」
驚愕よりも悲しげな表情を浮かべてアーサーたちに説明するセリオ。
対してアーサーとエレノアは想像通りの展開にため息をつく。
「話の流れで予想はついたけど…………してやられたね」
「ええ、ギーク村長が一枚上手……ということですか。このような抜かりのなさは、さすが元商人っと言ったところですね」
しかし、なぜ村長側に寝返ったのか?
それは、憤怒の表情を浮かべるマルコも当然考えていた。
「すまねぇなマルコ。俺はギーク村長側につくぜぇ」
「貴様…………友だと思っていたのに…………大金も払ったのに!!」
「へへ、悪いな! 俺もお前のこと友人だって思ってたけど、村長の方が金払い良かったからさ!」
「お前……!!」
非常に下世話な理由での裏切りにマルコは絶句して言葉がうまく出てこない。
そこへ歩きながらギーク村長が宿屋のレイターの元へ近づく。
「相変わらずお前は詰めが甘く、人を見る目に欠けるな……マルコよ」
「ギークゥ……」
「金で動く人間は、金で寝返るのは当然だろう? お前がどう動くかなんて折り込み済みだよ」
「何なんだ、ギーク!! お前の性根はどこまで腐っていやがるぅ!!」
「お前が言えたことか! わしを裏切って、次期村長に名乗りを上げるとは! 知っているぞ! 貴様が色んな人間に貴様を次の村長に選ぶように賄賂を贈っていることに!!」
「な、マルコ、そうなのか!?」
「それって違反でしょうが!?」
まさかのギークのリークに、ロビンとジェラも大きく反応する。
だがマルコはギロリと睨んですぐに言い返す。
「相変わらず用心深いというか、臆病者というべきか……」
「おいマルコ! 貴様、そんな違反してまで村長になりたいのか!?」
「あんたがそんな浅ましい人間だとは思わなかった!」
「黙れ!! お前たちも同じようなものだろうが!!」
マルコはそう言って、ロビンやジェラを指さして次々と言葉を続ける。
「ロビン、ジェラ! あんたたちはかつて自分たちが呪い解決する、と大々的に宣言したせいで、まだ解決できていない今、村人みんなに不信感を持たれている……そのことを気にしていただろう!」
「「んぐ……!?」」
「ジェラ! あんたはブレア村の学者として樹林調査という名目で国から費用をもらっているな! それを賄賂に使用している! 樹林調査なんて行っていないくせに!」
「……何だって?それは王子としては聞き流せないな〜?」
「ご、誤解ですアーサー様!ちゃ、ちゃんと樹林調査も行っています!」
「樹林へ潜って三十分くらいで調査ができるのか!!」
「み、短くても調査は調査だ!」
(……この件は後で問い詰めよう)
(そうですね)
(っていうか、このジェラさんも賄賂やっているんだね)
(まぁそんなもんですよ)
「ロビン! あんたは呪いに対抗できる薬を開発している、と甘いことを言って村人からお金の支援をもらいながら、その人たちの治療を優先している! 薬の開発なんてしていないし、今も流行病に苦しんでいる人たちを後回しにしてまでな!」
「う、うわぁ〜…………」
「最低……」
「な、ち、違いますよ、アーサー様!? 開発は……その…………なかなか医師の仕事が忙しくて進めれていないだけです!」
「流行病の人たちの治療を後回しにしている理由は?」
「あれはしょうがないです! 病にかかっているのは、自業自得ですよ!今まで甘い蜜を啜ってきたんだから!」
「ん? どういうことだい?」
「ロビン!!」
「あ!? …………と、とにかく、理由があるんです!」
急に大声で割って入ってきたギーク。
しかし、マルコ、ロビン、ジェラ――
村長候補全員が裏工作をして村長選に有利なるように働いていた。
この四人は村の中心として運営をしながらも、虎視眈々と自らがトップに立つために暗躍をしていたようだ。
(結構ギスギスしているな〜)
そうこうしていると、四人の大声に気づいて多くの村人が村長邸に集まってきた。
「何事だ?」「あの四人がケンカしているのか?」
そんなことを言いながら、皆が不安げな表情と、好奇心を持って様子を見てくる。
ここでギークが大声をあげて集まった村人に語りかける。
一瞬だけ、いやらしい笑みを浮かべたことを、アーサーは見逃さなかった。
「皆騒がしくして申し訳ない! ちょっとトラブルがあってね! もうすぐ解決するから!」
「ギ、ギークさん、問題って何だい?」
「あんな大声で四人がケンカするなんて…………穏やかじゃないよ」
村人たちの心配の声にギークは村長として答える。
「……残念なことに、生贄のマイさんをマルコが逃したようなんだ!」
「な、何だって!?」「どういうことだ!?」「さっき生贄の儀式は行われていたぞ!?」
「あれはマルコとセリオくんが用意した身代わりだそうだ! 娘であり、最愛の恋人を守りたいという気持ちがそうさせたようだ!」
「ふざけるな!」「私たちが呪われてもいいというの!?」「自分たちが良ければいいのか!?」
次々とマルコとセリオに向けられる罵声。
マルコとセリオも反論しようとするが、数の暴力によって声を発するタイミングすら与えられない。
「……アーサー様、見ていてください。これはキルリアの王位継承争いに通づる浅ましさです」
「ははは、だね。見てて僕も同じことを連想したよ! 自分たちのことしか考えていない…………他の人の犠牲も、ただの必要経費としか考えていない」
「笑い事ではありませんよ」
「わかっている…………マルコさんの裏の顔を垣間見て、ちょっとテンション下がったけど、セリオくんに裏はない…………と信じている」
「ええ」
「だから、助けてあげたいねぇ」
次々と村人が集まって、もはや龍水祭どころではない。
他の地域からきた観光客も、「何だなんだ?」と野次馬として集まってきた。
すると、集まってきた人混みをかき分けて、少しくたびれた男が二人慌てた様子でやってきた。
「ちょっとちょっと!? みんな何やってんだ! 祭りがめちゃくちゃになっているじゃないか!!」
「各自持ち場についてくれ!」
「でも、生贄が偽物だったって話だぜ!? 祭りどころの話じゃねぇよ!」
「え!?」
「ギーク村長、どういうことだよ!? 祭りを運営する身としては、ちゃんとした説明が欲しい!」
どうやらこの二人が龍水祭を指揮しているようだ。
その二人の言葉を受けてギークは笑顔で「まぁまぁ」と手で制する。
「安心しろ。私がちゃんと生贄を取り戻しておいた…………レイター」
「へい! …………さぁマイちゃん、出てくれ」
レイターに引っ張り出されるようにして馬車から出てきたのは、紛れもなくマイだった。
両手は縄で縛られている。
「「マイ!!」」
「ご、ごめんなさい、セリオ、お父さん…………」
「おっと動くなよ、お二人さん!」
「うっ……!」
「レイター……!!」
駆け寄ってきそうだったマルコとセリオを制するために、レイターは縛ったマイを引き寄せて首に手を置く。
悔しそうな二人を前にギークが大声で宣言する。
「今回の生贄の替え玉騒動…………マルコと徴税官セリオ氏が共謀したこと! その助力をしたのが、そこにいる王族のアーサー様と侍女のエレノア氏!」
「お、王族を巻き込んだのか!?」
「王宮勤めという利点を利用したのか…………なんと卑怯な!」
「職権濫用だ! 前の徴税官の横領といい、とんでもない奴ばかりがこの村にくる!」
「これも呪いの影響なのか!?」
次々と不安の声を上げる村人たち。
その好き勝手な振る舞いに少しだけイラッとするアーサー。
「なんか好き勝手言ってくれるね〜」
「…………不快ですね。燃やしてやりましょうか?」
「こらこら!? 落ち着こうよエレノアさん!」
意外とケンカっ早いエレノア。
アーサーを侮辱された思って怒ったようで、慌ててアーサーが宥める。
「だが、安心したまえ! まだ龍の怒りは買っていない! 身代わりの生贄を捕え、改めて生贄の儀式を行えば間に合う!」
「本当ですか!?」
「うむ! わしは神からのお告げで確認した! 身代わりの件もお聞きしたから間違いない!」
「おお、ならばすぐに身代わりを捕らえなければな!」
「やはり、最後に頼れるのはギークさんなのかもなぁ」
「これは次期村長もギークさんにしたほうがいいのかもな」
「いろいろとあるけど、俺たちの生活を守ってくれているしなぁ」
次々と村人たちがギークを褒め称える。
その様子に、密かにほくそ笑むギーク。
「……なるほどね。ギーク村長、この為にわざとこんなに話を大きくしたのか」
「そのようですね。身代わりの件を利用して、自身の支持率アップと最大のライバルであるマルコさんを蹴落とすことが目的みたいですね」
悪知恵の回転は、さすが商人の経験で培ったようだった。
しかし、このままでは自分たちは勿論、『龍眠る呪樹林』にいるノートも危ない。
早いところノートと合流した方がいいかもしれない。
何とかして樹林へ行こうと考えていたアーサーだったが、ギークが先手を打ってきた。
「身代わりの生贄となった者は、今頃樹林にいるだろう! ここはこのような事態を引き起こしたマルコ、セリオ氏……そしてアーサー様とエレノア氏に責任をとってもらおうと思う!」
「どういうことですか?」
「この四名には樹林に入ってもらい、身代わりの探索をしてもらう!」
(お、まさかあっちから提案してくれるとはね)
ラッキーと一瞬思ったが、すぐに怪訝な表情になるアーサー。
意図が読めなかったからだ。
しかし、次の言葉で何となく意図が読めた。
「それだけでは諸君も不安だろう! 私が彼らを監視しよう! 念の為にロビン、ジェラにもきてもらうが…………いいよな?」
「「……わ、わかりました」」
「おお!? あの危険な樹林に自ら行かれるとは!」「ギーク村長万歳!!」「ギークさんが村長でいる限り、この村は大丈夫だな!」
(わざわざ樹林へ同行する? …………あの樹林には龍や呪い以外に何かがあるのか?)
一気に警戒レベルを上げるアーサー。
油断すると、どこで命の危険にあうかわからない。
アーサーは、もうギーク村長が自分たちを殺そうと考えていてもおかしくない、そう考えていた。
「ギーク、あんたは…………!!」
「マルコよ、飼い主に楯突いたらどうなるか、身を持って知って反省するがいい………………まぁ反省したところで次の機会がないだろうがな」
「ギークさん! マイを生贄から――」
「その話はすでに終えたはずだよ、セリオ徴税官殿? だが安心しろ。キミもすぐにマイと同じ場所に行ける………………ん?
(どういうことだ?)
ギークの言い回しに疑問を持ったアーサー。
だが、質問をする暇はない。
「ギ、ギーク村長。祭りはどうします?」
「無論、このまま続けてくれ。生贄の儀式だけもう一度早急にやるぞ。見送り人を樹林へ行くメンバーに変更する」
「しょ、承知しました。すぐに準備をします!」
そういうと、祭り運営をしている二人は走り去っていった。
「さあ諸君! 諸君らはこのまま祭りを楽しんで――――」
その時だった。
グォォォォォオオオオ!!
今まで聞いたことのない重低音。
聞くだけで心の底にあった恐怖を引きずり出されるような感覚。
本能的に感じる、根源的な絶望。
樹林の方角、その上空から影が見える。
その姿を見て、誰かが叫ぶ。
「り、りりりりり、龍だぁぁああ!!?」
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