小悪党ノートと龍の秘宝 10



 ギーク村長との対談。


 村長補佐のマルコ、医師のロビン、学者のジェラの三人で、今回の龍水祭が早まった理由を問い詰めたが、この三人も何か隠し事があるようでギークに言い負かされて黙ってしまった。



 (でも、このままじゃ終われないな〜。ここからは、僕たちのターンだよ)



 アーサーはエレノアとセリオを見る。

 二人とも同じ気持ちだったのか、無言で頷く。



「ねぇ村長、僕も聞きたいことがあるんだけど、いい?」

「ええ、何なりと」



 ギークは笑顔だ。

 マルコ達とのやりとりを終え、心に余裕ができたのだろう。


 だが、それならば油断して何かを話してくれるかもしれない。



「ここに来る前、一部の村人で病が流行っているって聞いたんだけど、大丈夫かい?」



 まずは軽く話題をふるアーサー。

 これにはギークも特に何も警戒せずに答える。



「ええ、そうです。ですがご心配なく。これはこの村の呪いに由来するものです。アーサー様方のような村の外の方々には感染する事はありません…………のぉ、ロビン、ジェラ?」

「え、ええ。流行病の患者は全て診察しましたが、全員がブレア村に定住している者たちのみです」

「過去の文献を見ても、村の外に感染が広まったことはありません。全てブレア村内でおさまっています。故に、先祖は『龍の呪い』が続いていると判断したのです」



 ここまではアーサーも聞いた龍の呪いの伝説通り。

 しかし、それ以上のことが知りたい。


 だから、少し踏み込んで話を聞く。



「実はさ、その話聞いてたからちょっと気になってさ、その患者さんに会いに行ったんだ」

「え!?」



 まさかのアーサーの行動にギークは驚く。

 ……と言うよりも、マズイ! っという表情だ。



 (お? これはいきなり当たり・・・かな?)



 だが、驚愕の表情は一瞬だった。

 よく考えたら、それだけでは何も影響がないと思ったのだろう。


 すぐににこやかな笑顔を取り戻した。



「それは…………その村人たちもさぞ喜んだでしょう?」

「う〜んそれがね、皆僕たちを邪魔者扱いして追い返したんだよ〜……悲しいね」

「申し訳ございません、無礼な真似をしたようで…………ですが、皆病で弱っていたのです。それにアーサー様と知らなかったと思います。このような辺境まではなかなか王族の方々の顔を知る機会がなく…………それにアーサー様は表に出なかったので………………ご容赦ください」



 村人を庇うようなスタンスをとる村長。



「それはいいんだけど、僕が気になったのは、皆懇願するように帰ってくれ、って言うんだよ。ちょっと病状を聞こうとしても、『何も話せない』ってさ。ちょっと異常を感じちゃってさ」

「い、異常、ですか?」

「うん……まるで、誰か・・に口封じされているみたいだった」

「それは…………気のせいでは? 先ほども言いましたが、皆病人ですし」

「うん、でもさっき知ったんだけどさ、病気になった人たちって…………皆貧乏で、かつて村長だった人がいる一族らしいんだよ」

「!!?」



 流石にギークの表情が凍る。

 よく見ると、他の三人もだ。


 (あれ?村長だけじゃなくて、マルコさんたちも?)



 気になったが、アーサーは話を続けた。



「貧乏なのは、まあ医療費に莫大な費用がかかったのかな、って納得したよ………………まぁ村や治療院からの支援がないことは違和感あるけどね」

「な……ちゃ、ちゃんとした支援はしています! 申請さえすれば医療費の負担はしています!」

「医師である私もその案内は必ずします! それでもなぜかしない者もいるんです!」

「それはなぜ? 理由聞いた?」

「「!?………………」」

「………………まぁいいや。それよりも村長経験者の一族ばかりが病にかかる方が、すごい妙だよね?」



 ギークも、マルコたちも何も言わない。

 無表情だ。感情を表に出さないようにしている。


 非常に、不自然だ。



「あと、生贄になった人たちの家族にも会ってきたんだ。 その人たちも同じく口止めされているようで、何も聞けなかったよぉ」

「………………それは家族を生贄に選ばれて傷ついているのです。いくら王族でもそれは配慮が足りないのでは?」

「はは、確かにね! 申し訳なかった! でも、生贄の人たちってみんな裕福なんだね!どの家庭もすごくいい家に住んで、いい服を着ていたね〜」

「台所もちらっと見えましたが、料理も豪勢でした。まるで王都の貴族が食べているような……」



 エレノアがアーサーの言葉に加勢する。

 さらに、セリオも徴税官の資料を取り出して話をする。



「彼らの過去の税収を調べましたが、皆とある時点から桁外れに収入を上げていますね」

「セリオくん、そのある時点とは?」

「………………家族が生贄になった翌月からです」

「村長、これって偶然?」

「む、村かの見舞金です。 呪いのせいとはいえ、大切な家族を奪われたので、少しでもその心の傷が早く癒えるようにと」

「でも、それからずっと同じ収入ってすごいね! ずっと村が補填していたの?」

「そのような記録があれば、我々徴税官の資料に残っているはずです。村としての支出ですから。確かに初回は出てますが、その一回のみですね」

「……」



 ずっと冷静にと努めていたギークの顔から冷や汗が流れている。

 では、なぜ裕福なのか?


 ギークは少し言葉を詰まらせたが、すぐにその答えを用意した。



「…………彼らが頑張ったのでしょう。家族を生贄にとられ、その不幸をバネに頑張ったのだと思いますよ。現に、私も王都で商売に失敗し、その失敗をバネにしてこの村で商売を始め、今では村長にまでなったので」

「へぇ〜、村長昔は商人だったんだ?」

「えぇ、今も続けておりますよ。村長としての仕事がありますので、本腰を入れてはできませんがね」

「それはすごいね!どんな仕事なんだい?」

「それは…………まぁ色々な商材の販売ですよ」



 なぜか言葉を濁すギーク。


 アーサーは気になったが、それよりも先にギークが話を続けた。



「ちなみにですが、そこのマルコとコンビを組んでです」

「え、マルコさん、そうなのですか?」

「…………ええ。セリオくんには言っていなかったね」

「正確には、私がマルコを雇って手伝ってもらっていたんですがね」

「おお、長年培ってきた絆だね〜」

「ええ、いつも助かっておりますよ」

「………………」



 まさかの関係性だったギークとマルコ。


 かつての雇い主と従業員という上下関係。

 そして今は、村長と村長補佐という上下関係。


 腐れ縁なのだろうか。

 ギークは笑顔だが、マルコは顔を下に向けており、表情が見えない。



 (う〜ん、しかしどうしたもんか)



 怪しい点はある。

 だが、決定的な確証が出てこない。


 自分の話術にも問題があるだろうが、ギークは商人なだけあってその場の会話が上手い。


 この後どう切り込むべきかアーサーが悩んでいた時、ずっと下を向いているマルコが静かに声を上げる。




「もう、終わりにしよう」



 突然のマルコの終わり宣言に全員が目を丸くする。


 マルコは勢いよく顔を上げて、ギークを見る。

 それは、決意と覚悟を決めた男の顔だった。



「ギークさん…………もう止めましょう。これ以上、犠牲は増やしたくない……」

「な、何を言っているんだ、マルコ?」



 ここにきてギークが今日一番の焦りの表情を浮かべる。

 対するマルコの表情は険しい。



「今回の生贄……マイを選ばれて、私ももう限界だ。あなたには…………ついていけない」

「き、気でも狂ったか!? こ、こ、この場で言ってしまえば、お、お前も破滅するのだぞ!」

「構わない……マイが…………娘が助かるならば、本望だ! ここで、ブレア村の呪いを終わらせよう!!」



 マルコはそう宣言した。

 その言葉を聞いて焦るロビンとジェラ。



 (やっぱり、この四人はブレア村の呪いの真実を知っていたね。でもマルコさんは、四人を裏切ろうとしているのか)



 だが、どうやらまだ一波乱ありそうだ。


 なぜなら、ギークは焦りの表情から一変、冷や汗をかきながらもニヤリと笑顔を浮かべた。



「お前の娘が助かる? どういうことかな? お前の娘は、今頃生贄の祭壇へ向かっているはずだが?」

「………………」

「お、おいまさか…………マルコさん、あんた…………娘を逃がそうとしているのか!?」

「そ、それはマズイだろう! そ、そ、そんなことになったら『け――」

「ジェラ、口を慎め!」

「!?」



 大声を上げるギークにビクッと反応したジェラは慌てて口を閉ざす。



 (……? 『け……』なんだ? ジェラさんとやらは何と言おうとしたんだ?)



 アーサーが気にしているが、ギークたちの会話は構わずに続いている。



「マルコよ、まさか本当に生贄を逃がそうというのか?」

「………………」

「沈黙か、まあいい。ところで、私も先ほど報告をもらってな。何やら急遽ウィニストリアへの定期便に乗せて欲しいという荷物・・があると報告を受けてな」

「!!?」

「「「え!?」」」



 ギークの言葉を聞いて、マルコの顔が青ざめる。

 アーサーやエレノア、セリオも思わず声を上げた。



 その時、家の外から声が聞こえた。



「ギーク村長!! 例の荷物・・持ってきたぜぇ!!」



「こ、この声は…………!?」

「ふふ、まあ一緒に外へ出よう」



 そう言ってギークは立ち上がり、全員を家の外へ案内する。

 皆が立ち上がる中、マルコとセリオは立ち上がれない。

 外で目にする光景に嫌な予想が立っているのだろう。



「セリオくん……」

「あ、あ、アーサー様、まさか……」

「僕にはわからないけど、君たちの反応を見れば、同じ予想していると思う。でも、まずは状況確認が大切だよ」

「…………はい」



 気が落ち込みすぎて、うまく立てないセリオを支えながらアーサーとエレノアも外へ出る。

 未だ立てないマルコの近くには、ギークが近づいて声をかけている。


 アーサーたちは外へ出る。

 その時に聞こえてきた、ギークの言葉が忘れられない。



「お前は私からは逃れられないんだよ、裏切り者・・・・


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る