小悪党ノートと龍の秘宝 2
「ヤダ、無理」
「はっはっは! 取りつく島もないなぁ、親友!」
「親友ちゃうわい」
「な、何故ですか!?」
即答で拒否するノートにセリオはオーバーリアクションでショックを受けたポーズをする。
ノートの性格をある程度知っているアーサー、エレノア、そしてクレアは返答がわかっていたからら特に驚かない。
アーサーは大きく笑い、エレノアとクレアは呆れた表情を浮かべている。
セリオの問いかけにノートは心底嫌そうな顔をして答える。
「村の謎を解けってなんだよ。そんなの勝手にやってくれよ」
「まあまあ、その謎について話を聞いてから考えておくれよ」
「っていうかコイツに頼めよ。Sランクの冒険者だぞ?」
コイツコイツ、と言ってアーサーを指差すノート。
相手は王子なはずだが、全く気にせずに不敬なノートの態度にセリオはあたふたとし、エレノアは不快そうな表情を浮かべた。
「お、王子相手になんて不敬な態度を!!」
「ははは!いいよいいよ、彼は親友だからさ!親友に上下関係はないからね!」
「親友ちゃうっつーの」
アーサーの大らかな態度にセリオは感動する。
他の王族だったら確実に不敬罪で牢獄に入れるのに、この寛大さな心は素晴らしい。この王子に頼って良かった。
……そう考えているのだろう。
「無論最初は僕に相談を持ちかけてきたのだけど、僕やエレノアさんの得意な分野ではなさそうだからね。そこでノートを頼ることにした」
「だからまずは依頼内容を聞きなさい。それくらい聞いてもバチは当たらないでしょう?」
「…………勝手に連れてきて聞きなさいって、相変わらず勝手だなぁ」
「パーティでしょ? だったら協力しなさい…………不本意だけど」
相変わらず相性が最悪なノートとエレノア。
お互いに睨み合って言葉を発さない。
すると、ノートの頭をパコンッ!と軽く叩く人物がいた。
「いってえぇ!? 何すんだよクレア!?」
「いじわるしないで、さっさと話聞いてあげなさいよ!」
「なんでお前にそんなこと――」
パコン!
「あうぅっ!? 二回も叩くなぁ!」
「あんた、大金がドーンっと入る仕事がしたいんでしょ? アーサー王子と仲良くできる国の士官なら、もらえる報酬も多いんじゃないの?」
「む……」
「なら話くらい聞けばいいじゃん。聞くだけならタダなんだし」
クレアの言葉に思うことがあったのか、ノートは少々考える。
そして確かに一理あると考えたのか、ムスッとした顔をする。
「…………まずは話を聞くだけなら」
「あ、ありがとうございます!」
「おぉ〜ノートが少しやる気出したかな?」
「やるわね、クレアちゃん」
「まぁ付き合いは長いので。コイツ単純だし」
「そこ、うっさいぞ!」
そしてセリオは依頼の経緯と村の謎について話し始めた。
「私が徴税を担当している村には昔から伝わる呪いがあります。その呪いの謎を解き明かして欲しく……」
「呪いねぇ〜。古臭い小さな村にはありがちだな。オレの故郷の村にもそんな感じの怖い話あったなぁ」
「あ、私の村にもあったかも」
「ええ、よくある話です。ですが、その村の呪いは実在していて、今も残っているのですよ」
少し顔を強張らせてセリオは言う。
まるで実際に目の当たりにしたかのような感じだ。
「その村には、昔から疫病が常に流行っています。かつては村のほぼ全員がかかっていたと言われていたほどの蔓延具合でした。今は落ち着いていますが、それでも村の数名が常にかかっている状態なのです」
「偶然じゃないか? 病気なんてどの村や町でも流行るし」
「いえ、その疫病は他の地域では見られない…………その村固有の病気なのです。学者の方々が何度調査しても病原がわからない。それがもう何百年と続いております」
「それは…………確かに異常だな」
流石にノートもその疫病が異様なことは否定できなくなった。
だからこそ、そんな危険な村には行きたくないノート。
正直もうここで改めて断ろうと思ったが、その前にセリオは話を続けた。
「そんな疫病が落ち着いた理由なのですが、呪いの
「い、生贄?」
「穏やかじゃないねぇ…………」
一緒に話を聞いていたクレアは気分が悪そうにする。
ノートはあまりに時代遅れなことに呆気に取られてしまった。
そんな二人の様子を見てセリオはぎこちない笑みを浮かべて続ける。
「古臭いですよね。実際に私も初めて聞いた時は『そんなバカな』と思いました。ですが、今その生贄の効果についてはどうでもいい。
問題なのは、現在もその生贄の風習が続いており、そして…………およそ一週間後に生贄を捧げる祭りが開催されるのです」
そこでセリオは言葉を区切る。
正確には言葉にすることをためらっているように見える。
口にしたくない……そんな雰囲気を感じる。
アーサーはそんなセリオの気持ちを察したのか、優しくセリオの背中を叩いて落ち着かせようとする。
セリオもそんなアーサーの気遣いに答えるように、一度深呼吸をして話を続ける。
「今回生贄に選ばれた人物が…………私の、恋人なのです」
自分で口にしたことで恐怖を感じたのか、セリオは辛そうに身を震わし、泣きそうな表情になっている。
セリオの心中を察したのか、クレアが口を覆って同情する。
アーサーとエレノアは事前に聞いていたのだろう、驚きはしなかったが辛そうな表情を浮かべている。
そんな様子を見てノートはため息を吐いた。
セリオへの同情…………ではなく、単純にめんどくさいと思ったからだ。
(コイツの事情とかどうでもいい〜…………こんな心霊現象に付き合ってらんね〜)
ノートの中では既にこの依頼を断る方向で決定していた。
キリのいいタイミングでお断りを言おうとしているので、早く話が終われと思っている。
完全に興味を失ったノートはあくびをしながら鼻をほじっている。
「それは……辛いですね、セリオさん」
「はい……とても美しく、優しく、お淑やかで気品のある女性なんです。その彼女が…………泣きながら私に打ち明けてくれたのです。『故郷の平穏のためになるので受け入れている。でも、セリオと別れることが辛い……』っと…………そんなことを言われ、黙って生贄に差し出すほどの潔い心、私は持っておりません!!」
急にセリオが勢いよく立ち上がり、アーサーとエレノア、そしてノートに向けて直角のお辞儀をする。
「だから、アーサー様!エレノア殿!そしてノート殿!!どうか…………どうかこの私に知恵と力を!ともに呪いの謎を解いて頂きたい、彼女を生贄から救ってください!!この通りです!!」
「もちろんさ!微力ながら、力になるよ!」
「そうですね。アーサー様が乗り気だし、困っている人に手を差し伸べるのは王族の勤め。助太刀するわ」
そして三人はノートを見る。
一斉に見られてビクッとするノート。
そして圧を感じたのでここで拒否はしづらいなと感じた。
そこで、一旦話を区切ってクッションとなる話題を振るべく、気になった点を聞くことにしたノート。
残っていた酒を口に含みながらセリオに質問する。
「え〜っとぉ…………あ、そうだ。生贄を捧げる呪いって何が原因なんだよ?」
「お、そういえば聞いてなかったな。セリオくん、教えてくれないか?」
「あんた聞いてないのに引き受けたのかよ……」
アーサーは誤魔化すように笑う中、セリオは深刻な顔になって告げる。
「…………龍です」
ブフゥウウ!?
「キャァ!? ちょっとノート!お酒吐き出さないでよ、汚い!!」
「り、龍!?」
「そ、それは……」
ノートが酒を吹き出し、エレノアが驚愕する。
アーサーも流石に絶句しているが、無理もない。
龍———
世界でも数えるほどしかいない、最強格の怪物。
ある龍は一頭だけで一国を滅ぼし、
ある龍は暴れ回って一つの島を破壊し、
ある龍は神々と互角に戦った。
そんな伝説や逸話が残るほどのとんでもない生命体だ。
たとえSランクの冒険者でも出会えば命がないとも言われているが、その目撃情報はほとんどない。
「おいおい待てよ? 呪いのある村……生贄の風習…………そして龍………………あんたの言う村ってブレア村か?」
「そ、そうです! ご存知でしたか!」
「ブレア村? ノート、知っているのかい?」
「いや、お前キルリアの王族なら知っておけよ!自国の村じゃん!」
「い、いや〜、全くこの国に興味なかったからね〜」
そう言ってまたも誤魔化すように笑うアーサーに、流石のエレノアもため息をついて呆れる。
「ブレア村、別名『龍に呪われた村』ね。Aランクダンジョン『龍眠る呪樹林』がある……」
「クレア殿もご存知ですか。そう、その通りです」
そしてセリオがブレア村の呪われた伝説を語る。
*****
かつて、とある村近くの森に突如龍が住み着いた。
その龍は非常に強力な呪いを放つ呪われし龍だった。
龍が放つ強力な呪いの力の影響で、村には重い疫病が蔓延し始めた。
徐々に体が病に侵される者達が増えていき、ついに村から死者が出てしまう。
何度か国が龍の討伐を試みたが、全く相手にならず全て返り討ちにあうだけで、さらに屍を積み重ねただけとなった。
なす術がなくなった当時の村長は、意を決して龍に交渉をした。
「望みを聞くので、どうかこの村から立ち去ってくれないか? もしくは呪いをどうにかできないか?」
最初は龍は激怒して暴れた。
しかし、なんとか粘り強い交渉を続けた結果、ある条件を飲めば呪いを防ぐ聖水を龍から受け取る約束をした。
『年に一度、若い娘を差し出せ』
それが龍からの条件だった。
そして、最初の犠牲者は、村長の娘が選ばれた。
村は村長の娘と引き換えに聖水をもらい、呪いを防ぐことに成功。
疫病は徐々に治っていった。
だが、また時が経つと疫病が流行り始めた。
その度に村は生贄を出し続けて聖水をもらい、村を存続させ続けた。
以来、その村は『龍に呪われた村』と呼ばれている。
今も続く苦境に立ち向かう村として、キルリア国中に認知される――
*****
「これがブレア村、そしてそこに残る伝説です」
セリオが語る村の伝説に全員が静まり返る。
流石にこの状況では明るくは振る舞えない。
「時が経ち、いろいろな技術が進み、強靭な戦士も増えた今のご時世ならば、当時できなかった生贄以外の解決策が生まれるかもしれません。改めて、お願いします! ぜひブレア村までご同行いただき、呪いを解いて生贄という残酷な制度を無くしてください!」
「……だ、そうだけど…………ノート、行ってくれるかい?」
セリオとアーサーの問いかけにノートは即答しない。
すぐに拒否をすると思っていたエレノアとクレアは意外そうな表情でノートを見る。
「おかしいわね、この男がこんな難しい話を即拒否しないなんて」
「私もそう思いました。こいつならすぐに拒否すると思った」
確かに無茶な話だったからノートとしては絶対に受けたくない。
しかし、一つ閃いたことがある。
(アーサーやエレノアと『龍眠る呪樹林』ダンジョンに潜れる良い口実ができたな。しかも、あっちからのお願いだ。オレのお願いも聞いてくれるだろう…………これはまたとないお宝チャンスじゃないか?)
借りを作らず、むしろ貸しを作ってSランク冒険者とAランクダンジョンに潜る。
ノートにとっては美味しい話だった。この点が唯一にして大きなメリット。
(この役人のクエストに乗っかるフリして、オレはダンジョン踏破…………いや、踏破の必要もない。程よいお宝を回収できれば………………ケケケ! 運が回ってきたぜ!)
このあと、ノートは「とりあえず村には行ってやる」っと曖昧な回答をした。
こうして、明日からノートはアーサーたちと共に龍が住む村へ行くことが決定した。
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