小悪党ノートと龍の秘宝 1



 キルリア王国 冒険の街ウィニストリア――――


 とある工房にて。


 

「おっさん! 依頼の達成報告にきたぜ! おらよ!」

「おぅノートか。どれ、確認させてもらうぜぇ」


 

 冒険者であるノート・ビルは、工房の主人である職人クラフに修理した品を手渡す。

 冒険者への依頼――クエストを受けていたようだ。


 

「…………うむ、問題ねぇな!相変わらずこういう事はいい仕事しやがるぜ!」


 

 依頼していた修理品を確認して満足そうな笑みを浮かべるクラフ。

 仕事で使う工具を壊してしまい、その修理をクエストに出していたようだ。


 修理や採集のようなクエストは不人気なのだが、手先が器用で戦闘の苦手なノートにとっては貴重な収入源である。


 

「お前冒険者辞めて職人にならねぇか? おいらがみっちり教えてやっからよぉ!」

「嫌だよ! 職人なんて汗クセェし稼ぎが少ないじゃん! オレは一攫千金を目指すんだよ!」

「はっははは! お前が冒険者として大成するとは思えねぇな!!」

「っせー!! 夢を追うのが冒険者だっつーの! この貧乏職人がぁ!!」


 

 ノート自身も冒険者として大きな名声を得られるなんて思えないが、他人に言われると腹が立った。

 お返しにクラフに暴言を吐くが、怒ることなくむしろ気持ち悪い笑い声をあげる。


 

「へへへ〜残念だったなぁ! おいらはもう貧乏から卒業しちゃうぜ〜」

「あぁ? 何言ってんだ、ジジイ?」

「実はおいらの倅がよぉ、国の役人見習いとして最近就職したんだよ。でな、最近結構大きな仕事任せれ始めたんだよな〜」

「あんたの息子が〜?」


 

 クラフの息子はどうやら国の役人になったらしい。


 キルリアは冒険者業で財政が潤っているため、その国に直接雇用されている役人は必然的に高給取りになる。

 

 クラフは、老後はその息子の世話になるようで、今の職は気楽な娯楽のようになったようだ。


 

「いや〜優秀な倅を持っておいらは幸せだぜ! 亡くなったおっかぁも天国で喜んでくれてるだろうさ!………おっかぁ! おいらたちの倅は立派に育ったぜぇ!!う、うぅ〜」

「……勝手に感極まってるとこワリィけどよ、生前おかみさんからよく愚痴や恨み言を聞いてんだけど?あんたの浮気癖や酒、ギャンブル癖 」

「うぐぅ!?」

「おかみさんがマトモに育ててくれたから息子さんもまっすぐに育ったんだろうな……」

「がはぁ!?」


 

 ノートの言葉に膝から崩れ落ちて悶えるクラフ。

 その様子にため息をつく。


 

 (しかし、国の役人ね〜…………国っていうとあいつ・・・を思い出して疲労感が出てきたな。…………ハァ、軽く飲んだら早く帰って寝よ)


 

 かつてとある王族に関わったことで面倒ごとに巻き込まれたノートは、クラフの息子の話を聞いてその王族を思い出してしまった。


 悶えるクラフから報酬を掻っ攫い、ノートは行きつけの酒場へ向かった。





 *****



 


 酒場『クラフトホーム』――



 一仕事終えたノートは冒険者たちの溜まり場であるこの酒場で一杯ひっかけていた。



「〜〜っかぁあ! うまい! 仕事の後の一杯は最高だぜ!」

「おっさんみたいなこと言うわね、あんた」

「クレアちゃ〜ん、オレはまだ十八歳だぜ? おっさんはないでしょうよ?」

「はいはい。お酒が飲める年齢になって早々にこれだけ毎回飲んでると、将来が思いやられるわね」



 クラフトホームのウェイトレスにして看板娘、そしてノートとの付き合いの長いクレアがノートの注文したおつまみを届けながら小言を言う。



「今日は久しぶりの収入があったからな〜ちょっとくらいはしゃいでも良いだろう?」

「……まぁあんたが酔い潰れよぉがどうでもいいんだけどね。っていうかクラフさんの言う通り、あんた職人になった方が安定した収入ができていいんじゃない?」

「ばっかお前! ちまちま稼ぐよりもドーンって大金が欲しいんだよ! そのほうが楽じゃん?」

「……まぁあんたが勝手に破滅してもどうでもいいんだけどね」

「おい!? 怖いこと言うなよ! っていうかさっきからオレの将来にマイナスな事言ってから突き放すなよ! 寂しいじゃん!」



 クレアに軽くあしらわれ、気分が落ち込んだノートはもう一杯酒を飲むと、ため息を吐く。



「今日の報酬も軽く飲んだら無くなっていく…………どっかにスッゲェお宝眠ってないかな〜。クレア〜何かそういうダンジョン情報ないの?」

「あるよ。『蛇王の宮殿』『百眼獣の闘技場』『龍眠る呪樹林』…………この国で確定で宝があるダンジョンね」

「おいおい、全部Aランク以上の冒険者じゃないと太刀打ちできない高難度ダンジョンじゃん……オレには夢のまた夢じゃん」

「でも確実にお宝あるよ? あんたダンジョン探索は得意でしょう?」

「そりゃ討伐クエストや戦闘よりは得意だけど、流石にAランクはちょっと…………」



 罠を見抜いたり、暗号を解くといった頭を使うものは得意だ。

 だが、戦闘が絡むと一気に苦手だ。ノートはまず無事に生き残ることを第一に考え生きてきた。

 その甲斐あって、S〜Fまである冒険者ランクのうちEランクという低ランクであるノートでも何年も冒険者として生き抜けてきた。


 難易度の高いダンジョンは、当然出てくるモンスターの強さも並外れている。ノートにとって生き残る確率がほぼゼロだ。



「だったらあの方々・・・・を頼ればいいじゃん。せっかくパーティに入ったんだし」

「入ってねぇから! 」

「あんたが否定しても、もう公然の事実だけどね〜。数ヶ月前の宣言、結構な人数が聞いてたし」

「グゥ〜!?」



 クレアの声に机に突っ伏すノート。


 その時だった――



「お呼びかな? 我が親友ノートくん!」

「おわぁ!?出たぁあ!!」


 ノートの背後に気配を消して近づき、勢いよく両肩を叩く男。


 キルリア王国でも指折りのSランク冒険者にして、第四王子でもあるアーサーだった。



「騒がしいわ。静かにできないのかしら?」

「うるせぇ! アーサーの金魚のふんが!」

「あらあら、底辺冒険者は言葉遣いのレベルも低いのねぇ」

「……ッチ、ペチャパイ魔導士が」

「…………何かしら、燃やしたくなる言葉が聞こえたわ」



 ボウッ!



「あっつぅうう!?」

「ち、ちょっとエレノアさん!? お店の中で魔法はマズイよ!? 一旦落ち着いてぇ!!」



 クレアに宥められてようやく落ち着くエレノア。

 ノートはクレアに水をもらう…………正確にはやかんの水を思いっきりぶっかけられて鎮火された。


 その様子をアーサー王子は満足そうに見ていた。


「うんうん! 相変わらず仲良しで安心だ!」

「どこがだよ!? 危うく焼殺されそうだったんだぞ!」

「え? あの程度なら死なないっていうギリギリのラインは守ってたじゃん……ね?エレノアさん?」

「当然です」

「ほらね!」

「…………マジでイかれてるよ王族関係者はよ」



 王位継承争いも、数ヶ月前アーサーが参戦したことで一層激化した。


 キルリア王国の王族や貴族たちが住まう王都では、日夜非常にドス黒い権力争いをおこなっている。


 アーサーもどっぷりとその影響を受けているようで、死ななければ大半は問題ないという思考になっているようだった。


 とりあえずノートの隣の席にアーサーたちを案内しお酒を出すクレア。


 そこでようやくノートはあることに気づいた。



「……? 何か見ない顔の男がいるんだけど…………だれ?」



 アーサーとエレノアだけでなく、もう一人若い男がいた。

 綺麗な衣装をピシッと着こなしている姿から生真面目な印象を受ける。


 その印象通り、若い男は綺麗なお辞儀をノートに向けて行った。



「初めまして! 私、キルリア王国税務局に勤めている徴税官、名をセリオと申します!」

「お、おう……」



 一つ一つの所作がキッチリとしている。

 ノートは本能的に苦手な人種であることを悟る。


 そして、面倒ごとを持ち込んでいることも



「さてノート、キミが僕のことを噂してくれていたように、僕たちもキミのことを話しながらここへ来ていたんだよ! 何たる縁だろうね! さすがは親友だ!」

「親友じゃねぇし、こっちはお前の噂なんてこれっっっっっぽっちもしてねぇから!」

「はっはっは! 照れなくても大丈夫! ちゃんとわかっているから!」

「……ホントに話聞かねぇな!」



 呆れ返るノートと笑い続けるアーサー王子。

 埒があかないと思ったのかエレノアが話を引き継いだ。



「このセリオさんが私たちにクエスト依頼をしてきたの。そのクエストにアンタも同行して欲しいってアーサー様が言うからこうやってここへ来たのよ」

「クエスト〜?」



 アーサーたちが持ってきたクエスト。ますますきな臭さを感じるノート。

 そんなノートの様子などお構いなしといった具合にセリオはクエストの内容を話し始める。




「アーサー様とエレノア殿、それにノート殿にご依頼したいクエスト…………それはとある村の謎を解き明かしてほしいのです!」

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