小悪党ノートの奮闘記 3
「僕が切り込む!エレノアさんは援護を!」
「了解!」
そういうとエレノアは呪文を唱え、シーザーはリッチーに斬りかかる。
リッチーもこれに応戦し、二刀をシーザーへ振う。
リッチーの素早い二刀の動きにシーザーは一刀で捌く。シーザーの剣の最大の特徴はこの神速の如く素早い剣さばき。その剣の技術を称されて付けられた二つ名が『神剣』——。
その名に恥じぬ技量と速さでリッチーの剣を捌いて、逆に反撃の一撃を振う。しかし、リッチーもかなり剣の技術が高く、一刀でシーザーの剣を的確に防ぎ、もう一刀で反撃する。
「コイツ………強い!剣の腕もなかなかだ!」
「シーザー、離れて!」
エレノアの掛け声に反応し、すぐにシーザーは跳躍して離れる。
その瞬間、リッチーの周りにたくさんの魔力の紋様——魔法陣が展開された。
「多重魔法陣展開……『フレアドライブ』」
エレノアが魔法名を唱えた途端、たくさんの魔法陣から一気に大きな火柱が現れた。
咄嗟に避けるリッチーだが、魔法陣が邪魔をして広くスペースを使えずに一つ、また一つと火柱に直撃してしまう。
最後にドーン!!という大きな爆発音とともに全ての火柱がリッチーに直撃し、爆ぜた。
あまりの衝撃に城全体が揺れる。
「相変わらず強烈だね、エレノアさんの一撃!」
「ふふ、早くここから去りたかったから本気だしたわ。今までこれで大概終わってきたし、今回も終わりでしょう」
確かな手応えを感じ、二人が勝利の余韻に浸っている。
その時——
ビュオォ!!
「「!?」」
爆発で舞い上がった砂埃から衝撃波がいくつも飛んできた。
咄嗟にシーザーは剣で受け流したが、エレノアは避けきれずに足を負傷した。
「エレノアさん!」
「っ!……だ、大丈夫! 少し痛めただけ!それよりも………」
「うん、まさか倒せていなかったとは……どうやってあの魔法の弾幕を防いだんだ?」
砂埃が晴れてリッチーの姿が見えるようになると、シーザーの疑問も晴れた。
リッチーの体を覆っていた青白いオーラが色濃くなっていたのだ。
最初あのオーラの正体が判らなかったが、ようやく見破れた。
「まったくの無傷……あのオーラで魔法を防いだことを考えると——」
「魔法障壁………マジックバリアだね」
魔法攻撃を防ぐ魔力による防御障壁、それがマジックバリア。
「マジックバリアを常時展開できるなんていくらリッチーでもありえないわ………」
「そうだね………ただのリッチーじゃない。国の調査団が太刀打ちできないわけだ。……これは長い戦いになりそうだ」
そういうとシーザーは剣を構えた。リッチーも静かに二刀を構えた。
強者たちの戦いはまだ始まったばかりだった。
*****
一方、謁見の間を出ていたノートはというと——
「ふう……ここまで来ればとりあえずは大丈夫か。………さて、それじゃあ探しますか、秘密のお宝部屋を!!」
しかし闇雲に探していては、いつモンスターに襲われるかわからない。今襲われれば守ってくれるシーザーとエレノアはいないので危険だ。じっくりと探索をすることは危ない。
「さて、どうしたもんかねー」
ノートが探索の方針を考えていた、その時——
ドーン!!
「うおぉ!?」
とてつもない轟音と共に城全体が揺れる。
ノートは知らないが、この時に放たれたエレノアの魔法『フレアドライブ』の影響だった。
あまりの衝撃に体勢を崩したノートは、倒れまいと近くの石壁に手をついた。
瞬間、ガコンっという音ともに手をついた石壁の一部が沈んだ。
ギギィー——……
なんと、石壁の一部に隠れていた扉が開かれた!
どうやら偶然ノートが押した箇所が開閉スイッチだったらしい。
「…………いや、こんな見つけ方かよ………何か複雑だわ」
とはいえ、秘密の部屋の登場に興奮しているノート。
意気揚々と扉を開けて入ろうとするが、隠された部屋に簡単に入れるわけがなかった。
扉が出現したはいいが、案の定鍵がかかっていた。
「扉隠しておいて、さらに鍵もかけているなんて随分用心深いね〜。こりゃお宝の匂いがプンプンするぜぇ! テンションあがるぅう!」
そういうと、ノートは自身の鞄を漁り、とある道具を取り出した。
「ジャジャーン!オレ特性、どんな鍵も開けられる万能開錠ツール『ピッキングッズ』!」
ピッキングッズ———
トラップファインダー同様、ノート特製の魔道具。
鍵穴の形状に合わせて粘土が自動で型を作り、最後にバリ取りなど綺麗に形状を整えることで合鍵を作成する。
ちなみに、名前の由来はとある書物で知った鍵を開ける違法な技術から名前を取っている。
「それじゃ早速使っていこうかねぇ…………」
早速ピッキングッズを鍵穴に入れる。
すると、すぐに形状が変わっていき大まかな形が完成する。
その段階で一度ピッキングッズを鍵穴から抜く。
「お、型完成〜。意外とオーソドックスな鍵だな? いや、当時は最新だったのか?………まあいいや。それじゃ形を整えて………」
誰もいないのに、ぺちゃくちゃと独り言を喋りながら作業すること数分が経過した。
時折激しい揺れと轟音に怯えて手が止まったが、何とか合鍵作成ができた。
そして—————
ガチャ!
「イエアー!成功ー! さっすがノートさん、見事なお手前だぜぇ!!」
そう自画自賛して扉を勢いよく開けた。
—————そこには多くの原石と財宝、骨董品が保管されている部屋だった。
「マジかよ………すげぇお宝の量じゃん」
想像以上の宝の量に絶句してしまったノート。
しかし、驚愕と呆然とした状態はすぐに収まり、次第に興奮と歓喜の感情が爆発した。
「は、ははは、ははははは、だぁーっはっはっはっはぁー!!! これだけの宝、金貨何百枚だ!? 一生遊んで暮らせるかもしれないぜぇ!!」
ノートは思わず宝の山に飛び込み、はしゃいだ。
狂ったように笑い、我を忘れてはしゃぎまくった。
しばらくして、ようやく落ち着きを取り戻し、お宝回収に取り掛かった。
「しかし、これだけの量は一気に持って帰れないような……普通ならな!」
相変わらず独り言を呟きながら再び荷物を漁り、とある袋を取り出した。
「はい、出ました本日三個目! オレ特製収納魔道具『コンパクトブクロ』!」
コンパクトブクロ————
見た目は大きめな袋に見えるが、その内側に物を縮小させる魔法がかかっている。そして物を小さくすることで、多くの物量や大きなものを縮小できる。縮小した時の重さは、小さくなった体積に比例するので、持ち運びも楽なのだ。
これは、とあるダンジョンにノートが潜った際に唯一見つけられた縮小の魔道具を遊び半分で加工し、袋の内側にくっつけたことで生み出せれた遊びの作品だったが、今では旅に欠かせない魔道具になった。
「とはいえ、縮小の魔法にも限界はある。一発では全部持って帰れないな。……選別して価値ありそうなお宝から持って帰るか」
ノートは今までの経験を基に優先して持って帰るものを選別し、コンパクトブクロに次々と入れていく。
「よく見ると、宝っぽく無いものもあるな〜。……これなんか汚ねえ本だな、ボロボロじゃん。……文字読めないな。掠れてるし、見たことない文字だ。イストリア独自の文字か?……なんか日記っぽいな、いらね」
このように本や焼き物に関しては、価値がわからずガラクタの可能性が高いため、後回しにした。
すると————
「……ん? なんだ、この小箱? 他のお宝とは何か違うな。地味な箱だし、中身なんだ?」
お宝の山の間に落ちていた地味な小箱を拾い、開けるノート。
中身はペンダントだった。特に価値のある宝石が付いているわけではない、これまた地味な鉱石を、整える程度に削っただけのペンダント。
「地味だし、価値なさそう〜。……でも案外こういう地味な石が実は匠の逸品って可能性もあるしな〜。………首にかけとこ」
コンパクトブクロに入れるまでもない大きさなので、ペンダントを首にかけるノート。
その時—————
『—————って』
「…ん? 今何か聞こえたような?………気のせいか」
気を取り直してお宝回収を再開するノート。
今入れたお宝はどのくらいの価値か? 換金したら何を買おうか?
そんな俗物的な夢に思いを馳せて気持ち悪くも醜い笑顔を浮かべながらノートは回収作業を続け、ついにコンパクトブクロが満杯になった。
「よし! いったんはこんなものか!結構回収したのにまだ半分以上も残ってる……ふふふ、これが全部オレしか知らないと思うと……笑いが止まらないぜ!」
相変わらず気持ち悪い笑顔を浮かべながら秘密のお宝部屋を出ていく。
ここの存在がシーザーやエレノア、他の人間にバレないようにもう一度閉められないか?っと石壁にあったスイッチをもう一度押してみたノート。
すると、予想通り扉は閉まり石壁に再度紛れてわからなくなった。
「よっしゃ! これでここはオレ以外にわかる奴は存在しないな。…
…でも次来た時にすぐわかるように印つけとかなきゃ!」
しかし、普通に印を付けてしまえば誰か気づく者も現れるだろう。
そこでノートは考えた。
「あれ使うか………まさかの四つ目! 怒涛のオレ特製魔道具『ライト&ダーク』!!」
ライト&ダーク—————
格好をつけた名前だが、魔道具の正体はただのペンとライトだった。
ペンには特殊な魔石を粉末状にして溶かしたインクを使っている。この魔石は、光を当てるとその光に反応して淡い紫色に光る。
ただし、普通の光を当てても反応しない。
『光魔石』という、その名の通り光る魔石の光にのみ反応する。この光魔石の光を自在にオンオフできるように、ノートは加工して照明器具にした。
ノートは偶然この二つの魔石の反応を発見した。
今回のように他の人に知られたくない印やメモを書くときに使えると思って開発した。
ちなみにこの二つの魔石自体は珍しくなく、露店で簡単に入手できる。
「……これでよし! ちゃんとライトを当てればインクも反応するな!」
自身の作った魔道具の出来栄えに満足し、一安心とばかりに笑顔になる。
「さて、一度謁見の間へ戻るか。見つからないようにこっそりと。あいつらの様子も気になるし」
今のうちに逃げることも考えたが、ノートは逃げなかった。
シーザーとエレノアが心配だった………わけではない。
「モンスターに見つかって襲われたら厄介だな。あのSランクどもは簡単に倒してたけど、結構強いからな〜ここのモンスター」
シーザーとエレノアは簡単に倒していたが、この『亡国の遺跡』のモンスターは強い。
冒険者の壊滅や国の調査団の半壊は、ダンジョンマスターの強さによるものだが、道中のモンスターにも苦戦していたという。
「あいつらと一緒なら安全に帰れる。さっさとダンジョンマスター倒してくれよ〜早く帰りたいからな。は〜っはっはっは!」
意気揚々と謁見の間へ戻るノート。高笑いをあたりに響かせて完全に浮かれていた。
『——————連れてって』
ペンダントから謎の声が聞こえることに気づかないほどに———
*****
一方のシーザーとエレノアは、ダンジョンマスターのリッチーとの戦いに苦戦していた。
シーザーと互角……いやそれ以上の剣の技術を持ち、エレノアの魔法を防ぐほどの強固なマジックバリアは常時展開している。
現状は二体一で何とか均衡を保っているが、このままではシーザーたちが押され始めるだろう。
多くの戦いを経験してきたシーザーもエレノアも、そのことを直感で理解していた。
「エレノアさんはリッチーのマジックバリアで手詰まり……なら僕が剣で打開しなきゃ!
基本的に、ここ最近の戦闘でシーザーは剣の使い方や体捌きだけで戦ってきた。理由は、実践訓練と体術の訓練のためだ。
強くなりすぎたシーザーは、本気を出すとほとんどの敵を一瞬で倒してしまう為、自身の成長にならないと考えていた。
だから、ここ数年は剣技を使わずに《・・・・・・・》戦ってきた。
それで何とかできてしまっていたからだ。
(でも、このリッチーはここ最近で一番強い! 今までもリッチーを倒してきたが、こいつは明らかな異常だ!)
だからこそ決心する。
今日は訓練でなく、本気で倒しに行く戦い方。
それは、剣術の解放《・・・・・》。
「イストリア流《・・・・・・》神風」
瞬間、リッチーはシーザーの姿を見失った。
気づいた時には、シーザーが目の前に現れて斬りかかってきていた。
リッチーは咄嗟に剣で受け止めたが、速度に乗ったシーザーの勢いに負けて吹き飛ぶ。
さらに、『神風』という技の影響で生じた『かまいたち』がリッチーに襲いかかる。これもまともに食らったリッチーは雄叫びをあげ、さらに吹き飛んで壁に衝突する。
壁に衝突した轟音と共に土煙が激しく舞い上がってリッチーの姿が見えなくなる。
「〜っふぅう!!やっぱり『神風』は早すぎて呼吸が上手くできないや!」
「気を抜かない! 畳みかけなさい!」
「わかってるよ!」
「援護するわ! 岩のドームを作るから!……『ロックドーム』!」
エレノアの魔法によって、リッチーが吹き飛んだ場所を岩のドームが覆う。
本来はもっと局所的に作って敵の足止めや動きを封じることに使う土魔法。しかし、シーザーの剣技を活かすために、今回このような使い方をした。
「ありがとう!……イストリア流『地隆槍』!」
シーザーは剣を地面に勢いよく突き立てた。
次の瞬間、エレノアが作ったドームから無数の岩のトゲが隆起してリッチーに襲いかかる。
堅いもの同士が激しくぶつかっては砕ける轟音が一帯に響く。
「……やったかしら?」
「それ、フラグっていうらしいよ、エレノアさん」
「『フラッグ』? 旗がどうかしたの?」
「いや、なんでもないよ」
冗談がわかっていなかったが、軽口を叩けるくらいには余裕ができた。手応えを感じる一撃だった。
これで倒せなかったら、ちょっと辛いところがある。
「土煙が晴れてきた…………!? う、嘘でしょ!?」
「……まだ生きているね」
疲れた声を出すシーザー。それは目の前の現実にショックを受けていたのかもしれない。
リッチーはまだ存在していた。
しかし、剣を支えにして膝を立てて座り込んでいた。かなりのダメージを与えてはいるようだ。
「ダメージは負っているわ! 一気に行きましょう!」
「よし! ここで決めよう!……イストリア流『神風』!」
「足止めします! 『ロックドーム』!」
シーザーが風のように駆ける。
エレノアの魔法が足枷としてリッチーの足に絡みつく……はずだった。
“イストリア流 『神風』————”
リッチーもシーザー同様、風のように駆けた。
あまりの速さにエレノアのロックドームはリッチーには当たらなかった。
神風同士の衝突は凄まじく、轟音と共に両者吹き飛んだ。
「ぐっ…!」
「アーサー様《・・・・・》!?」
「だ、大丈夫! 少し痛めただけ!……それよりも今のは僕と同じイストリア流の剣技?」
リッチーはシーザーと同じ剣技を使った。
ダンジョンモンスターが人間の剣技を使うこと自体が珍しいことだが、使った剣技自体も異例だった。
「母上やかつてイストリアの人たちに教わった剣技……なんでこのリッチーが使えるんだ?」
シーザーが疑問を呟きリッチの様子を確認すると、リッチーは頭を抱えていた。
何かに苦しんでいる様子は、自分たちが与えたダメージとは別の『何か』に苦しんでいるようだった。
「な、何か奴の様子がおかしくないですか?」
「うん……僕もそう思った。明らかに僕たちのダメージで苦しんでいる感じじゃ————」
“———返せ……”
「え?」
「今、何か聞こえませんでした?」
“———返せ…!”
「リッチーが話しているのか?」
「返せって何を?」
“————民を、国を……娘を返せぇぇええええ!”
ドン!!
瞬間、リッチーから膨大なエネルギーが放たれる。
それは、無念か、怨念か、執念か————
何にせよ悍ましいほどの波動を感じる。
「国や民、それに娘ってまさか……」
エレノアはリッチーの言葉に驚愕し、そして何かを察した。
そして、シーザーも何かに納得したような、それでいて悲しげな表情を浮かべていた。
シーザーはリッチーへ語りながら近づいた。
「まさか、リッチーの正体はあなたなのですか。
———かつてのイストリア王国最後の王にして、我が母イレーヌの父《・・・・・・・》、ハルゲン……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます