第13話 星占いの招かれざる客②

 夕陽を映した双竜剣は美しい。この剣は、王族といえど、一つしかない。

 ――さすがに気がつくだろう。と思った……。


『なかなかやりますねぇ』

「そちらも」


(途中からは死闘になっていた。あの、広場。私は、間違いなく喜んでいたのだから。そして、問わなければならない。なぜ、王宮であんなことを――玉彗琳)


 深めの布で顔を覆ったのは、ここが「妓楼街」であり、顔を晒すと後々厄介だからなのだが、彗琳は気付いたのか気づかないのか、長刀を構えたまま告げた。


「お顔を隠されていると、人々が怯えますので、失礼いたします」


 器用な手つきで、長刀を持ち替えて、刃ではないほうで、客(蒼龍梓睿(ジルイ)の顔を覆っていた布を押し上げた。慌てて双竜剣で刃を止める。


「では、ご自分で取ってくださいます?」

「……客だぞ」

「顔を隠しているのは、罪人です」


 きっぱり言われて、磔刑の罪人を疑っているのかと、布に手を掛けた。蒼龍梓睿(ジルイ)の髪は長く背中まで伸びている。その上、蒼龍の紋を模した服を着ている。袖口だけみれば、さすがの鈍感な玉彗琳でも――


「そうしてくだされば、宜しいのです。御用でしょうか」


 ――鈍い!


 蒼龍梓睿(ジルイ)は心で叫んだ。

(確かに、私は背が伸びたし、顔つきも変わっているが、双竜剣や服装で分かりそうなものだと……)


「玉彗琳!」


 思わず名前を呼んだ。呼び止められた彗琳は「は?」と言う感じに振り返り、設えた部屋の中央に胡坐をかいて座っている。


「……破落戸ではなさそうですから、財布は獲りませんが、相当な値段を吹っ掛けても良さそうな感じですね」


 蒼龍梓睿(ジルイ)は一瞬眩暈を憶えそうになり、(こんなことでは、兄に勝てない!)とまた双竜剣を突き付けた。


「この剣で分かるだろうが! 陽射しの中、そちらの長刀と私で」

「――占いの内容は?」


 ……そうきたか。蒼龍梓睿(ジルイ)は諦めるモノかと目の前に座り込んだ。何も言わずに、自分を利用して「追放、ウマ―」で逃げた女だ。一筋縄ではいかないだろう。


「……兄との相性。役立たずの兄ばかりだ。しかし、数名は世を去ったよ。なのに、なぜか私は生きている。その理由を知りたくてね」

「……星宿を」

「星宿は憶えていないな。ただ、東の空に生まれだ。蒼龍……の恩恵を受けたと仙術では聞いている」

「……では」


 玉彗琳の眼に水晶の光が映り込んだ。水晶は透明に代わり、美しい光を放っている。その光を浴びた彗琳は輪とした目で水晶を見つめ返す。

 交信という言葉が一番近い。


「……星の導き……あなたは、いずれはこの国の王となり、しかし、民衆に八つ裂きにされます」


「なんだと? そんなはずはないだろう。俺は、兄とは違う! そんな王には」


「身分を偽って、なんの御用ですか。蒼龍梓睿(ジルイ)様」


 憎しみと、焦燥を混ぜて冷やすとこんな声音になるのだろう。

 蒼龍梓睿(ジルイ)は布を口元まで降ろした。


 ――やはり、気づいていた。気づいていて、自分から言うように仕向けられた。忘れていた。この女は、賢いのだ。


「あなたに、逢いたくて」


**********


――ご主人様はうっすらと微笑んでおいででした。

それも、あまりよろしくない微笑みです。すばるの教育に宜しくありません。

逢いたいと告げた蒼龍梓睿(ジルイ)様も、後悔している表情です。


『お強いですね』と微笑んで、挑発し、敢えて懐に飛び込ませ、長刀で最終的に蒼龍梓睿(ジルイ)様の双竜剣を叩き落し、勝利した時のように――。


 

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