恋占師玉彗琳
第9話 王宮の遣い
蒼龍梓睿(ジルイ)の元武官の玉彗琳(ギョクスイリン)――……というのは伏せてある。蒼龍梓睿は目線を鳳琳の作成した書簡に落とした。
相変わらずらしい。
「長刀を持つ、占いの女には近づくな……」か。おまえがそこにいるだけで、何万人の民が護られているのやら……だ」
空を見ると、少し強すぎる太陽が蒼龍国を照らしていた。伸びた髪を床に垂らしていると、あわてて遣いがやって来て、髪を結い始めた。無言である。それもそのはず、第八皇子の宮殿に遣えるものは、第一宮殿から流れて来たものが多い。
元武官の玉彗琳(ギョクスイリン)もそうであった。
噂によれば、鴉の雛をめぐって、兄である亞夢とやり合って、それでも無傷で追放になった。
――俺は、嵌められたのだ。元武官の玉彗琳(ギョクスイリン)と兄に。
「思い出しても、腹の底が焼け付く」
狡猾な兄、賢い元武官の玉彗琳(ギョクスイリン)……いい子ぶるしか出来なかった時代は過ぎた。
「武道の稽古にいく」
「は」
邪魔にならないように緩く髪を上げて貰い、簪で留める。切りたくても、蒼龍王族の仕来りなのだから、切るわけには行かない。
「鳳琳を呼べ」
手早く告げると、蒼龍梓睿(ジルイ)は背中を向けた。もしも、過去が見られるのなら、あの時の蒼龍梓睿(ジルイ)に玉彗琳(ギョクスイリン)が何をしたのか、見られるのに。
「かたや。権力の悪魔で処刑人、かたや、天の声を聞く占い師……俺に勝ち目はあるのだろうか」
――だが、ここは、玉彗琳(ギョクスイリン)の力が欲しい。鳳琳は何をもたもたやっているのだろう。
****
「しけた財布ですね」
雨が降りそうだ。玉彗琳(ギョクスイリン)ことご主人様は、相変わらず、路銀をせしめるのに忙しいようです。すばるが増えたから、その分稼がなくてはと思っているのかも知れません。
――一晩、10000明。明とはこの国の通貨である。ご主人様ならあっという間に「おいらん」になれるであろうに、玉彗琳(ギョクスイリン)はその美貌を全く以て使わない。王宮でも、その美貌に魅入ったものも多かったが、長刀で一蹴してしまった。
嫁の行き遅れになります、ご主人様……しかし、もうとっくに適齢期は過ぎている。
「アナタ、ここに何しに来たんですか」
「……さる御方の命令で」
足の間に刺さった長刀の刃を見詰めながら、男は情けなくも語り始めた。玉彗琳(ギョクスイリン)は財布の中身の検閲に忙しい。
「ふうん、お疲れ様です」
「玉彗琳(ギョクスイリン)なる人物を探せ、と。どうやら上が探しているお尋ね者らしいが、俺には分からん。別嬪がわんさかいるから、その中かも知れないが」
「……王宮から?」
「いや、俺は違う」
――この男、使えるな。ご主人様の眼がそう物語っておりました。
「玉彗琳(ギョクスイリン)はおいらんになどならずに、その辺で破落戸をぶっ飛ばしているに違いありませんよ。こんな風に」
刺さった長刀を抜くと、玉彗琳(ギョクスイリン)は壁に撃ちたてた。「すいー」とすばるがやってくる。猫猫も一緒だ。
「……お友達との素敵な時間です。玉彗琳(ギョクスイリン)が見つかると良いわね。友人に奢ってあげたいから、これは戴く、命は見逃してさしあげます」
ぶく……と破落戸が泡をふいた。「アワ」と指摘するすばるに、ご主人様は「石鹸を食べたそうですよ」と微笑むのだった。
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