第8話 すばるの朝 蒼龍梓睿(ジルイ)の宰相鳳琳
ひとりでの住まいでは、早朝に起きて、長刀を片手に、酔っ払いを探しつつ、路銀をせしめて朝食、という豪快極まれりのご主人さまも、すばるが来てからは、真っ当な生活に戻ったようです。
それでも、暴漢をぶっ飛ばす砂煙は相変わらずですが、私は知っています。ご主人様は敢えて力を奮っているのです。
「相手は老人ですよね? アナタ、何を考えているんですか? 湿気た財布ですがお仕事がないのですか?」
「うるせえ! 俺の財布を返せ! おまえ、用心棒か! こんなところに流れ着いた人間たちだ、俺らが好きにしようと王族は」
ブス。
ご主人様は長刀を地面に挿し、「これじゃ、すばるの朝ご飯も用意できやしない」と財布をぽいと捨てました。足の合間の長刀の鋭さに、男はすっかり戦意喪失してしまい、それにご主人様が気がついたところです。
「あら? もしもーし」
――もしもーし、じゃないですよね。言いませんが。
ご主人様は軽々と相棒の長刀を引き抜くと、「ふむ」と肩に担ぎました。
「彗ちゃん」
「あら、すばるさん。起きたのですか。すいません、朝ご飯をと思ったのですが、湿気た財布を掴んでしまったようで……中央に引っ繰り返っている酔っ払いでも」
丁寧だが、トンデモナイ台詞です。ご主人様。
「まあ、いいでしょう。猫猫のところへ行きましょう。中華、好き?」
「うん、好き」
すっかり懐いたらしい、すばるの手を引いてご主人様は歩き出したが、ぴたりと足を止めた。
「すばる、珍しい鳥がいますよ。可愛いです」
「え? どこ?」とすばるが首を伸ばした瞬間、ご主人様は後ろ手にした長刀を振り仰ぎ、男の頭を峰撃ちされて、にっこりと笑いました。
「飛んでいきましたね」
――そんなこんななご主人様ですので、王宮になぞいないほうが良かったのかも知れません。
「昴、あんたもご飯、行きましょう」
ふたりと、ひとりと、一匹。朝日の中空腹の音を響かせながら、今日の玉彗琳の朝は始まる。
――また、砂埃が舞った。
*****
「――で……おめおめと財布投げられて帰って来たと」
蒼龍国王宮。絢爛豪華――ではない質素かつ静かな部屋には玉座と机が置いてある。あれやこれやを置くと波動がうるさいので、シンプルイズベストと言ったところか。
「いえ、あの、宰相鳳琳殿、あの女はなんなんですか。これで、周辺の破落戸全員やられたことになるんですが。どこの戦闘民族……」
「元、王宮の武官です。淑妃になったが、気に入らなかったのか、王宮を逃亡……」
宰相鳳琳は考えを止めた。
(違う、あの武官は仕組んだのだ。我が主、蒼龍王族第八皇太子
利用された皇太子も情けないが、蒼龍の梓睿は、もっと……勝負が出来たはずなのに。第一皇太子の追放を目論むなら、あの武官を利用すればよかったのに。
「困ったな……梓睿様は再会をお望みだ。そうだ、行きつけの店があったな。そこに女主人がいるだろう」
「…………」
蒼龍王族の宰相となれば、どんなことでもする。主君蒼龍梓睿は次なる皇帝になるべき立場だ。
「……皇太子の考えていることなんざ、俺には分かりかねるがね。ご所望とあらば、再度後宮に来てもらうまでだ」
蒼龍梓睿(ジルイ)の元武官の玉彗琳(ギョクスイリン)再会はまもなくであった――。
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