第6話 玉彗琳の王宮の過去②

 いいかい、彗。まず、北極星だ。

 天の皇帝である。その中心に据えた同じ心円状の星のチームが見えるだろうか?


 250ある。つまりは、いずれは、余の星座グループだ。

 我が皇帝の近くには、我ら皇太子の星が鎮座する。

 天妃、宦官、家臣。

 最高位である三師、三公、五諸候、尚書、九卿、車騎、将軍、虎賁らだな。

 これが、完全な階級社会だ。


 ちなみに、皇帝から最も離れた星座には不衛生で差別的な星座が配されておる。これが、「蒼龍国の末路」にならぬよう、いつかは浄化が必要なのだよ。


 ――父も、この蒼龍国も。


***


 そう仰られた皇太子は、それはそれは冷たい眼をしておりました。武官でありながら、寵愛が深くなったご主人様は玉彗琳という名の前はただの「彗」だったのです。


「昴……また第一皇太子様が物騒なことを」


 ご主人様は窓辺に来たわたし、昴によくお話をなさいました。鴉だからいいだろうと思っていたのでしょうが、鴉は人語を理解できます。いつも、ご主人様は「紫水晶」を膝にのせておいででした。

 それは、いつ、どこで貰ったのかはわからない、と言っていますが、御主人様玉彗琳は嘘をつくのが巧い天性がございます。


 私は、こうしてご主人様のいる後宮と、皇太子様方がたの部屋のある離れを飛び回り、(追い出された第一皇太子以外)宮殿内密偵気分で飛び回っていたのです。


「あのかたは、この国がお嫌いなんでしょうか。特に、「妓楼街」を目の仇しておいでです。淑妃に逃げられでもしたのかしら。あんなに強く、お綺麗なのに」


 ――ご主人様。美顔でも、心が醜いものもおります。ご主人様には、分かりますまい。


 夜中に捨てられてぼろぼろだったたった一匹の鴉のヒナに、誰も目を留めなかった。第一皇太子に睨まれるから、そのまま消えることを祈っていたのは知っている。なんと、人間は冷たいのだろう。


 そんな民衆の中、玉彗琳は雨の中、私を見ていました。傘もささず。大柄なので、すぐに目立つ。まして、巨大な長刀を持っているのですから。


「まあ、風邪をひいてしまいます」


 背後の星座が美しかったのです。この夜、星は一層輝いてございました。御主人様は、私をそっと手の中に収め、あたためてくださったのです。

 お陰で、私はまだ、生きているのだと分かりました。

 ご主人様の手の中は、大きく、温かかったから。


 そうして、第一皇太子にきちんと話をつけて帰って来ました。

 そのあとから、皇太子は玉彗琳を呼びつけるようになり、はた目からは恋仲のように見えた。

 凶暴な第一皇太子の残虐な噂が消えて行ったのは、事実です。


 玉彗琳といると、人が変わる――変えられる――…

 

 それは素晴らしいと思うものもいれば、恐怖を憶えるものもいます。王宮で、玉彗琳は一度だけ、「占星術」を披露し、淑妃の皆様の運命を朝に占うお役目を賜ったのです。それは全て出鱈目でしたが、やがては正しくなる、古来の魔占でした。


 玉彗琳は星の占いで、第一皇太子の運命を変えようとしている――……そんな噂が立ち始めるのも時間の問題だったのです。


 なぜなら、悪を愛するものも、この宮殿には多かったので。第一皇太子は欲深ですからね。いまも、まだ、実父を死の床に追いやり、王座につく計画を立てており、その下の皇太子たちは、姿を消したものも多い。


 そうして、玉彗琳は暗殺されそうになりました。


「昴、私は護らなければならないようです。すぐに、計画を実行します」


「飯がまずい」と毒薬に気がついたその夜、事件は起こったのです。第8皇太子を巻き込んで。

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