第2話 知らない兄

 知らない世界。知らない身体。

 知らないひと

 全部が識らない世界にワタシは生まれました。

 ワタシを生み出したのは神。

 顔は解りません。姿も見えません。ただ声だけが聞こえます。

 でも、神は本当に存在します。

 だって、ワタシは神の姿をこの目でたしかに見たことがあるからです。


 ワタシには兄がいます。

 兄はワタシの前に神に生み出されました。

 ワタシと同じ顔です。雰囲気もよく似ていると、神にも言われました。

 お兄様とワタシはたしかに兄妹です。

 兄は優しくて、強くて、いつも完璧な人でした。もし神がいなくなっても、お兄様がいれば大丈夫なんです。


 でも兄は、突然死にました。

 ワタシをおいて死んでいきました。

 寿命です。ワタシよりずっと前から生きていた兄は寿命が尽きて死にました。

 けれど、また帰ってきてくれたんです。今度は神に直接生み出されることはなく、神が作ったエルフの村に生まれて。

 

 二度目のお兄様は前のお兄様とは違いました。

 ワタシを妹だと知っていながら、「もうお前は妹じゃない」とか言うんです。

 それに新しい居場所で友達なんか作っちゃって。

 見た目はあの頃と全く変わらないのに、全然完璧じゃない。優しくない。驚くほど幼稚。


 ワタシは考えました。そしてある結論に至ります。

 お兄様がこうも不完全なのはお兄様に新たな居場所を与えてしまったからだ、と。

 だからワタシはその居場所を壊しました。

 神の世界で・・・・・・何度目の世界の誕生だったか。忘れましたけど、とりあえず「クラッシュ」と呼ばれる災害を起こしてお友達を殺しました。

 あっ、正確にはお友達が神の命令に従って自滅していったんですけどね。


 お兄様はそれはもう大変悲しんでました。

 でも、それは受けるべき罰なんです。ワタシという妹がいるのに友達を優先して、挙げ句には友達の死を悼む。

 最低ですよね。


 しばらくしてお兄様は変わりました。

 まだ、ワタシに対する態度は変わってませんけど、少なくとも性格は元のお兄様に戻りました。

 陽気に振る舞っているように見えて、内側は完壁に物事を捉えている、あの目、あの性格。

 素晴らしいです。

 やっぱり、お兄様の中にある大切なものを壊せば元のお兄様に戻ってくれる。今の紛い物のお兄様は要りませんよね。


 ああ、でも。

 この前はちょっとだけやりすぎました。

 いくら今の紛い物が憎いからってお兄様の体を傷つけるなんて、ワタシもどうかしてました。

 もっと丁寧に、お兄様の外堀を潰していかないと。


 今ワタシは人間の男と、他の方々と協力して神を殺す計画を遂行しています。

 お兄様は神に忠実。おそらくお兄様は神を心から慕っているのでしょう。

 だから神を殺します。

 他の方々はなぜ神を殺そうとするのか、それはその方にしか理解できない理由があるのでしょうけど。

 それをワタシが理解する必要はありません。

 ワタシはただお兄様が、壊れて、再生してくれればそれで良いんですから。

 

「・・・・・・ふふ」


 お兄様、待っていてくださいね。

 ワタシが必ず元のお兄様に戻してあげますから。

 そのためにもワタシは全力で神を殺します。

 

 

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