第38話 小さい命

「で、この子は何です? 同伴しながらきてましたよね」


「あー・・・・・・、それが・・・・・・」


ヒマリの腕に抱かれる生物はピィ、ピィと元気に鳴く。くりんと見開かれた両目はまるで水晶のようだ。


まだ未熟な鱗は少しでも力を入れると潰してしまいそうなくらいで、至るところに弾力性を兼ね備えている。


エルフは一階での出来事を話した。


グリフォンを殺したのち、彼は素材になるからと死体を回収しようとした。そのとき、この子がグリフォンの胎内から出てき、やがて飛んだ。


生まれでた瞬間、その場に居合わせたエルフを主と判断したのか側を離れなくなったらしい。


「よかったじゃないですか。こんな愛らしいペットができて」


「よくなさすぎる。なんのつもりで追いかけるんだい?」


「それは・・・・・・やっぱり自分の親とでも思ってるんですよ」


ヒマリは「どうぞ」と抱いている幼竜をエルフに差し出すが、彼は受け取ろうとしない。


大空のごとく青い瞳に全身が黒い鱗に覆われた幼竜。だが片翼は竜のそれではなく、鳥の羽がそのままくっついているかんじだ。


「この子は本当にグリフォンの子どもなんですか? 見た目がどうしても竜に近い気が・・・・・・」


「どっちかって言えばそうだね。でもグリフォンから出てきたのを僕は見てるから。多分混血だよ」


「なんでグリフォンと竜が?」


「十中八九グリフォンを操ってた奴が何かしらの方法で竜の種をグリフォンに植え付けたんだろうね」


竜とグリフォン。決して交わることのない種族の子どもがこうして生まれた。母親は死に、父親は誰かも分からずいない。


分かることはおそらくこの子と同じ黒鱗を纏った竜ということだけ。


残酷なことだ。この小さな命は親を知らず、一生一人で生きていかなければならない。


ヒマリは幼竜をぎゅっと抱いて思い立ったように言った。


「あの・・・・・・、この子連れて行かせてください!」


「ん? 却下」


「なんでですか!?」


「守らなきゃいけないものが増える。それにグリフォンを操ってたのは上のやつで・・・・・・、今逃さないと捕まっちゃうかもよ?」


「なら尚更こんなことした理由を問いただしに行くべきです」


少女は折れずに押し通そうとする。


「何がそんなに君を突き動かす?」


「私は・・・・・・、私には、この子の命はとても大切にするべきものに思えるんです」


少女の瞳がひときわ輝く。どう言っても彼女は折れないと、心づくエルフは手を上げ、


「・・・・・・分かった。いいよ。父親にもできる限り会わせてあげよう」


そう降参した。

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