第33話 奇跡はすぐ傍

―――ゴゴゴゴゴッ


一階の入り口付近、床は大きくひび割れ、支柱を失った天井は崩れている。エルフの咄嗟の転移でグリフォンの大振りから三階へ逃れたヒマリは最上階を目指してただ走る。


彼の安否は確認できていない。直撃していたら間違いなく可愛い怪我では済まないだろうが、今は余計なことは考えず彼が言ったことに従うしかない。



―――昇れ



いくら赤の他人であろうと私が足を引っ張ったことで彼に死なれては罪悪感で心が押しつぶされてしまうかもしれない。


「・・・・・・無事でいてくださいよ」


全速力で走る中、小さく歯噛みしながらせめてもの言葉を吐き出す。


一階の様子が気になる衝動を振り切って最上階までの最短と思われる経路を探す。このビルに入ったのは初めてだ。どこかしらにあるデジタル案内板におちおち頼る時間もない。


ゆえにこの状況で即座に最短の道を見つけ出すことは困難を極めた。


どこだ? どこから上るのが最短だ?


顔を動かすと同時に経路のパターンを検証するため思考を回す。


数え切れないほどある店はシャッターが閉められており、光源もない。視界が最悪の状況で視点がめまぐるしく動く。


すでに一階部分の倒壊で螺旋状に設計された階段が二階から三階へ上がるところで途切れていることは把握済みだ。残された経路はおそらくエレベーターか、非常用の階段のみ。


ただどちらもまだ見当たらない。やはり視界が悪すぎる。すでに転移させられてから数分が経っている。同じように探していても目的の道は導けないと本心では悟りはじめていた。


これ以上目に頼っていては視点も狭まり、もどかしさだけが半永久的に溜まってしまう。


深く息を吸い込み、吐き出した。余計な力を体から抜いてぐっと両手を握る。


ついに強行の手段、体の良い思考停止でもある手段が脳内をよぎる。こうなったら無理にでも上れるところから上がってしまおうか・・・・・・。


と思いかけた瞬間奇妙な音が聴こえた。



――――――ファ



耳元を撫でるような音。集中力が妨げられ、次は音が聴こえた方向に注意が向く。


「あれは・・・・・・」


数秒固まり、驚くべき奇跡に掠れた声が喉奥から引き出される。


なんと倒壊した壁や天井が噛み合う形で無造作に積み重なり、そこから三階へ上れるような段差ができていた。


先刻こんなものは無かったはずだ。だが確かにそこにある。


焦燥にかられ一定の思考だけが張り付いていたから近くの存在に気づけなかった。自分自身の弱さが阻害になっていた。考え出すと自身に対して心底怒りが湧くが自省している暇などなく、すぐさま地面を蹴る。


三階へ上がることができればその先は螺旋状に交差する階段を駆け上るのみだ。たとへ無事最上階へ辿り着いたときに一人だったとしても。道が開けたのならば進まなければ。


もう一度頭上を勇壮な出で立ちで振り返った少女は弱々しくなる心を手で押さえた。

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